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しおりを挟む目を開くと、目の前に顔があった。
世界で愛玩動物として代表的な、気ままな動物。
縦長な瞳孔は深い黒でその周囲はパッキリとした緑、そして緑が滲むように虹彩が黄色に変化しており、綺麗な目だった。
切長のツリ目で、白を基に黒の縞が入り、全体的に茶色がかっている毛並み。
無意識にその毛並みを撫でるため、手を掛寝具から抜いた。
サラッとした毛並みに、モフッとした毛量。
掌が何ミリか埋まった。
気ままな動物__猫が、目を細めた。
掛寝具に包まりベッドに寝ていた青年の胸に、あまり類を見ない大きさの体躯を落ち着けて、のんびりと口を開け、欠伸をするネコ。
息苦しさは、この猫のせいらしい。
横に顔を向けて、交差させた前足を枕に寝る体勢を整える猫。
そこでやっと、周囲へと意識が向いた。
木造建築に見られる木目の柄、独特のあたたかさと柔らかさ。
内装は至極シンプルで、木材をそのまま利用した窓は差し込む日差しを受け止め、その曲線が日差しを反射する。
簡単な机が窓近くに置いてあり、机上の小さな本棚はきっちり本が詰められていた。
ベッド上から見て右手側に窓と机、左手側に小柄なタンスとクローゼットに扉。
ベッドのすぐそばには、ベッドの高さより少し高いサイドテーブルがあった。
全て木材を使用しており、統一感があった。
柔らかい茶混じりの木色。
気付けば体から力が抜け、ベッドに体を全て預けていた。
猫が「やっとか」というように薄く片目を開けて、また寝に入った。
その様子を視線だけ動かして見ていたが、まるで高い知能を有しているようだった。
「…………そういえば、ここはどこだ?」
現実味を感じないからか、現状の把握を後回しにしていることに気づいて、今更ながらに人の気配を探った。
すぐ近くに人がいる様子はない。
無人のようだ。
大きく首を動かしてよく周囲を見ようとすると、首元に違和感を感じて、猫をひと撫でしてから外に出していた手で触る。包帯が巻かれているようだった。
そう自覚すると、鈍い痛みが身体中からあふれてきた。
「っ、……いっ」
痛みに顔を顰め、猫には申し訳ないが起き上がる。
しかし起き上がるために体に力を込めると、鈍くはない痛みが走った。
ベッドに逆戻りだ。
猫が不満そうに低く鳴いた。
どことなく聞いたことのある、声に感じた。
だからか、つい言葉が出てきた。
「っ、寝ているところをすまないね。……良ければこの家を案内してくれないかい?」
「___にゃぅ~」
動物相手に何を言っているんだか、と思いかけた時。
猫が鳴いた。
まるで、ついてこいというように。
その証に、不貞腐れるようにベッドの端に寄ってその身を丸めていたが、軽やかに
ベッドから降りると、優雅に尻尾を振りながら扉へと向かった。そして扉前で青年がついてきて居ないことに気付いたのか、頭だけを動かし振り返った猫が、ひと鳴きした。
「ぅにゃぁ~!」
早くしろ、と怒られた気がした。
体への負担を考慮しながらゆっくりと起き上がり、ベッドに腰掛けるとすぐそばにはシンプルな濃紺のスリッパが用意されていた。
この部屋を使用しているものは青年一人。
気を遣ってくれたのかとまだ見ぬ恩人に感謝しながら、使わせてもらう。
「待ってくれ、今行くから」
尻尾を振りながら、律儀に扉向こうで待ってくれている猫に声をかける。
……断じて尻尾を振る速度が早まったことに、焦ったからではないと思いたい。
ベッド傍のサイドテーブルを支えにしながら、腕に力を込め立ち上がり、徐々にその負担を足へと移行させる。
転倒することなく無事に立ち上がれたことを確認し、鈍い痛みを無視しながら足を動かして部屋を出る。
猫は決して行き過ぎず、常に一歩前を歩いてくれていた。
__どうも、この家は匂いがないように感じる。
無いのか、薄いのかは青年自身に判断できない。だが、それに気付いたのは猫に連れられ廊下を歩き、とある部屋に入った時だった。
内装は寝ていた部屋と変わらず木目があたたかく、しかし広さや家具、生活感は一気に増えた気がする。そして1番は匂い、か。
開放的な大枠の窓に、シンプルなソファーやローテーブルにダイニングテーブル。差し込む光はこの部屋全体を照らし、昼間は照明など必要ないくらいだった。
「__凄い……」
全開されている窓からは新鮮な空気が絶え間なく入ってきており、外に見える花壇のような場所では若々しい緑の葉が風に揺れる。
風のお陰か、それとも家自体に染み付いているのか。
草原の匂いがこの部屋を満たし、なんともいえない爽快さを青年に感じさせた。
時折甘い蜜の香りがするため、どこかで花でも育てているのだろう。花の匂いも多種多様で、しかし上手いこと調和され、とても心地よい。
いつだったか伝え聞いた、自人の聖霊神殿はこの家のように壁(一番外の壁、外壁)がなく、また天井にも光を入れるための窓があり、とても斬新な構造をしているらしい。
実物を見たことはないが、その聖霊神殿を連想させた。
「んなぁ~~~!!」
見惚れるようにその部屋、多分だがリビングを見回していると猫が大きく鳴いた。
誰かに呼びかけたように聞こえて、猫を見るとその目線を追って、今いる扉の反対側__開け放たれた窓の、さらに奥を見た。
「ん? …あぁ、起きたのか。案内ありがとう、トト」
白い毛並みが光を受けて、キラキラと輝いていた。すぐに、白ではなく銀がかったツヤを持つのだと、自らが光を受けて反射しているのだと気が付く。
着ているのはシンプルなグレーのシャツに、濃灰色のスラックス。
日差しがあたたかいために、腕を捲って、見えた花壇へとホースで水を撒いている。
振り返った彼は、横に細長い黒のアンダーリムの眼鏡をかけており、とても知的な雰囲気だった。__その頭の上の長い耳はピンと伸び、音を拾うためにかこちらに片方の内部を向けていた。
「___……うさ、ぎ…………?」
花壇へ水を撒いている体勢のまま、空いている手を胸元あたりで持ち上げ、気さくに挨拶をした彼。
「おぅ、おはようさん」
先入観で赤いと思っていた瞳は右が曇りのない翡翠色、左が暗緑色。
眠そうに見えるのはその無表情さによるのか、気怠げに閉じられ気味の瞼によるものか。
驚愕と衝撃により漏れ出た言葉の通り、その顔立ちは見事なウサギ。
ただ、明らかに違うのはその顔から下のがっしりとした体躯か。しなやかに伸びるのは人間とさして変わらない手で、その胴体も痩せ気味と言われるだろうがそれは立派な人間のものだった。スラリと長い足はバランスが良く、手と同じくしなやか。その毛並みによるイメージか、彼のイメージか。とても清潔で清廉な印象を受ける。
よくよく見ると手は人に近いが毛に覆われているため、全体的な印象としてはウサギがしっくりこよう。
愕然と見つめすぎていたのか、いつの間にか彼はホースを置き、事前に準備していたのだろう、窓付近に置いてあったタオルで手を拭きながら中に入ってきた。
良く見れば動きやすそうな靴を脱ぎ、置いてあったタオルと同じ場にあった、スリッパを履いていた。
猫が小走りで彼に寄っていく。
彼がそんな猫を両手で抱き上げ、肩に前足を置かせると撫でながら片手で抱き抱える。
手を拭いていたタオルは青年側から見て右手にあったダイニング用の椅子にかけ、彼を意味なく眺めていた青年に指差して席を勧めた。
「そこ、座ってくれ。腹減ったろう? なんか適当に作るから待っててくれ」
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