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しおりを挟む柔らかい光が瞼裏から差し込み、眩しさにキツく閉じながら徐々に視界を開いていく。
オフホワイトの天井から吊るされるカーテンが、緩く揺れており、空気中に漂う匂いである程度、どんな場所で寝ているのかは把握した。
ここが何処だかは分からないが、病院や医務室の一室であることは分かる。
大分薄くてもアルコールや薬草の匂いが染みた一室だ。
加えて痛む傷はなく、手当てされたような包帯や傷あてのある腕を見れば、保護されたことは一目瞭然。
ほっと安堵しながら瞳を閉じて、意識を失う前を思い返す。
「__……私には……出来ない……!!」
思い出すのは消息を断つ前と同じように、困ったように柔らかく笑う命の恩人の顔。
記憶が、駆け巡る。
何年経とうが変わらないあの人の、あの方の微笑みに私は何度助けられ、何度誓っただろう。
妹の病だって、私の怪我だって、領地で流行った感染病だって。
私は……私は……!!
先生を殺すことなんて、出来ない。したくない……!!
「私には無理だっ……!!」
滲んだ視界を覆い隠して、目の裏から消えない先生の顔を拭うように強く手を押し当てる。
消しても消しても消えない。
打ち消しても浮かび上がる記憶。
病床に伏せる妹が潤んだ瞳で先生を見上げ、やっと戻った笑顔と共に先生へ感謝を告げる記憶。妹の闘病を私はずっと見てきた。
活性化した魔物の討伐隊に編成された際、攻撃を仕掛け損ねて足に受けた魔物の攻撃で、危うく切り落とすしか生き残る方法がなかった時。先生は焦ることなく、いつもの穏やかな顔の中に真剣な薬師の顔で、治療してくれた。妹の受けた感動を、私は身を持って知った。
感染源は領地に北から西へと流れる、大きな川。
その年は例年に比べ気温が低い春だったために、水中に生息する病原菌が自然消滅することなく。むしろ活性化されたために流行った病。今まで前例はあっても、大規模に広がることがなかったため最低限の対策だったことが、仇となった。
先生にとってはいくつもある出来事の中の一つかもしれない。
けれど、私にとっては全てが窮地で。その全てを救っていただいた。
こんな奇跡があるのかと何度も思った。何度も感謝した。何度も、夢じゃないかと疑った。
助けていただいた命。
その命に恥じぬ生き方をしようと、思うのは自然の流れだろう。
「先生っ……!! どうか私から逃げて下さい……っ!!」
願う。
強く、願う。
使命遂行など、国などどうでもいい。
ただただ貴方の無事を。
オウリア神のご意志?
__笑わせるな。
「平気で人の抹殺を望む、そんな神がいてたまるか」
いつからだったか。
徐々に光を失い、虚な瞳で祝福を与える神官達を見るようになったのは。
あの国はもう、狂っている。
ーーーーーーーーーー
__まるで、空の上にいるようだった。
どこまでも澄んだ碧に、強い意志を宿した淡い緑が風となって吹き荒れる。
抱えているであろう不安や焦燥といったマイナスの感情が、強い意志と覚悟によって晴れていき。そこには確固たる、新たな決意が芽生えていた。
こんな鮮やかで、こんなに鮮明で。
これほど鮮烈な色を見たことがあるだろうか。
それを発している人がわからないほど周辺に広がるその色に、驚愕のままに目を開き、原点となる場所を探す。
強い、願いが聞こえてくる。
風に吹き飛ばされないようにするのが精一杯とは、なかなかない経験だ。
想いが、願いが現象とともに具現することも珍しい。
それは願う人の想いの強さを表し、人の本質を表す。
この砦で初めて見た色に、ユノは確信する。
__保護した青年が目覚めた、と。
ーーーーーーーーーー
勢いを殺さずに医務室へと駆け込んだユノを、医務室でユノの言葉通り急ぎで作業していた医療班が驚きを露わに見つめる。
しかし視線を受けるユノのその瞳には医療班の姿は映ることなく。見えない何かを追って、視線を奥へと向けた。
「師兄? ……まさか」
その様子に訝しんだ声を出すユーリだったが、何かに思い至ったのか勢いよく振り返り、ユノと同じ方向を見つめた。
その視線の先には、保護した青年が寝ている一室があった。
「ダン、ターウェを呼んできてくれるか?」
「……わかりました」
首さえも動かさずユノが扉近くのダンへそう指示すると、静かにダンは席を離れて、小さな足音を立ててターウェがいるであろう借りている執務室へと向かった。
「っ、先行くよ師兄……!」
ダンが医務室から姿を消したと同時に、ユーリが弾かれたように走り出し、すれ違い様にそうユノに零した。
しかしユノはユーリの腕を掴んで引き止める。
「ユーリ、落ち着け」
振り返ったユーリが言外に「何故止める?」と強く訴えてきたが、苦笑を漏らしながらクイッと先ほどまでユーリのいた作業机を顎で指し示す。その机には小さな網かごに瓶や小箱、真新しい包帯や軟膏箱が入れられていた。
もし青年が目覚めた際に、包帯替えや怪我の経過を見るために準備していたものだ。
「でもっ、…………ごめん、ありがとう」
ユノの視線を追う前に焦ったような声を上げたユーリだが、それらのセットを視界に入れた途端。
片手で顔を覆って、見事に耳まで赤く染め上げていた。
落ち着いた、いや羞恥が滲む声でユノにそう謝意と感謝を述べるとスタスタと足早に取りに行き、戻ってくるとユノの背中を押して奥の部屋へと強引に進んだ。
「お前……照れ隠しが相変わらず強引だな」
笑いながら後ろに声をかけるが応えはなく、代わりにユノの背中を押すユーリの手が背中の肉をつまんだ。
「ちょ、痛っ。おい、ユーリ!」
「余計なこという師兄が悪い……!!」
小さく背中を小突く音もして、ユーリのその内情を思うと仕方ないか、とそれは楽しそうに笑いながらユノは彼の眠る部屋へと足を踏み入れた。
その二人の姿を微笑ましげに眺めていた医療班は、ユノとユーリが消えた部屋に視線をやりながらも自分達は今の作業を終わらせようと再度手元に視線を戻す。任せておけば問題はない、と皆が思い、けれど任せっきりにするのも問題なので早く片そうと、その手の動きを早めるのだった。
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