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なにより『攻撃特化の優秀な聖女を妻にする』のと『他人の役には立たない自衛能力しか持たない伯爵令嬢を妻にする』のとではまるで違う。
双子なので身分だけではなく、年齢も同じだが、後者では年齢差も指摘されそうな気はする。
私は気にしないけれど、ケウロス陛下はそうもいかないだろう。
「それで従者はどこだ? 見当たらないようだが」
「おりません。御者も荷物を降ろしてすぐ帰らせましたので」
「一人も連れ添わずに来たと?」
「本当は乳母が付いてきてくれる予定だったのですが、あいにく出発前に腰を痛めまして」
「なら代わりのものを連れ添えば良いだろう。それともゴルードフ伯爵家はそこまで財政が逼迫しているのか」
「これも神の思し召しかと」
ケウロス陛下は困ったように頭を掻く。
聖女にとっていかに神が重要な存在か、彼も理解しているのだろう。
そして彼もまた同じ神を信仰する者。
我が国で生まれた聖女が帝国でも力を振るうことができるのが何よりの証拠である。
ちなみに両親は数人の侍女を付けてくれようとした。
だがいくらケウロス陛下がいい人であったとしても帝国の人が侍女に危害を与える可能性は否定できない。
私の能力範囲は自分だけ。何かあっても守ることはできない。
だから一人で行く予定だったのだが、ばあやは頑なに譲らなかった。
ばあやも引退したとはいえ、元聖女。自分の身は自分で守るという言葉に私の方が折れたのだが、神はそれをよく思わなかったらしい。
私を大切に思ってくれているばあやも神の意志には逆らえなかった。ということで私だけが帝国にやってきたというわけだ。
腰が良くなったら向かうという話だったが、それよりも早く私は国に帰されることだろう。
ばあやが無理をする心配はしなくても良さそうだ。
「神のご意志というなら仕方ない。こちらで身の回りの世話をする者を用意しよう」
「ありがとうございます」
ニコリと微笑めば長いため息を吐かれた。小声で「調子が狂う」とぼやいていたのは聞こえていないふりをして、王の間を後にした。
案内されたのはお城の一番上、バルコニーのある部屋だった。
私の希望通り、空が綺麗に見える。だけどここは客間ではない。
部屋もベッドもとても大きくて、調度品は若い女性が好みそうなデザインばかり。多分、お姉様のために用意していたのだろう。
手紙を送ってくるときは一方的なのに、目の前の人間に対してはとても丁寧。
それは行なっている政策も同じことが言える。
即位してからまもないが、それよりも以前から国の中枢に関わっていた彼が特に力を入れていたのは平民に対しての政策である。
我が国から安く仕入れた石油は主に公共施設の建築や食に関する施設の増設に当てられていた。職は増え、住む場所も増えた。
同時に孤児院や学校も増やしており、この数年で識字率が上がっている。
またこれにより我が国へ輸出されるものが増え、値段も安定してきている。
いや我が国だけではない。他の同盟国や諸外国に対する立ち回りも変わりつつある。
国民人気が高いのは笑顔を絶やさず、派手な仕事の多い弟君だが、調べていけば二人が意図して役割を分担していることがわかる。
「手紙の送り先がこの国で良かった」
バルコニーの手すりに身を預けて、空を見上げる。
大きくて立派な雲が泳ぐこの国の空を私は後どれだけ見上げることができるのだろうか。届かぬ雲に手を伸ばしながら、しんみりとした気持ちが押し寄せる。
けれどこれは神が与えてくれた機会である。
数日であろうとこのチャンスを満喫しようではないか。
神に感謝の気持ちを伝えるべく、すうっと息を吸い込む。
帝国の景色と音を紡いだ歌を声に乗せ、天へと捧げる。お腹に流れ込む空気の違うこの国では音の響き方も違う。
今、私は幸せだ。
気持ちを乗せてスッキリした私は、水でも飲もうと部屋に戻る。
すると部屋の真ん中で先程分かれたはずのケウロス陛下が優雅にお茶を啜っていた。一体いつからいたのだろう。歌に集中していたせいで全く気がつかなかった。
「お待たせしてしまってすみません。私、気づかなくて」
「こちらこそ勝手に入ってすまなかった。歌が聞こえたものでな」
「うるさかったでしょうか……」
「ここに来る途中で出会った者は皆、歌に聞き惚れて手が止まっていたほどだ。私も用件を後回しにしてつい聴きこんでしまった」
「お邪魔になってなくて良かったです」
「何という歌なんだ?」
「即興なので曲名はないのです。ただ神官様達は私の歌を『聖女の響神歌』と呼んでおりましたわ」
「聖女の響神歌……」
「神への捧げものは聖女や神官によって異なります。私が捧げるのは祈りと歌。姉がいる時は姉の踊りに合わせて歌ったものです」
捧げものは祈りか貢物が一般的である。
その他に歌や踊り、そして勝利なんかも捧げられていた。
双子なので身分だけではなく、年齢も同じだが、後者では年齢差も指摘されそうな気はする。
私は気にしないけれど、ケウロス陛下はそうもいかないだろう。
「それで従者はどこだ? 見当たらないようだが」
「おりません。御者も荷物を降ろしてすぐ帰らせましたので」
「一人も連れ添わずに来たと?」
「本当は乳母が付いてきてくれる予定だったのですが、あいにく出発前に腰を痛めまして」
「なら代わりのものを連れ添えば良いだろう。それともゴルードフ伯爵家はそこまで財政が逼迫しているのか」
「これも神の思し召しかと」
ケウロス陛下は困ったように頭を掻く。
聖女にとっていかに神が重要な存在か、彼も理解しているのだろう。
そして彼もまた同じ神を信仰する者。
我が国で生まれた聖女が帝国でも力を振るうことができるのが何よりの証拠である。
ちなみに両親は数人の侍女を付けてくれようとした。
だがいくらケウロス陛下がいい人であったとしても帝国の人が侍女に危害を与える可能性は否定できない。
私の能力範囲は自分だけ。何かあっても守ることはできない。
だから一人で行く予定だったのだが、ばあやは頑なに譲らなかった。
ばあやも引退したとはいえ、元聖女。自分の身は自分で守るという言葉に私の方が折れたのだが、神はそれをよく思わなかったらしい。
私を大切に思ってくれているばあやも神の意志には逆らえなかった。ということで私だけが帝国にやってきたというわけだ。
腰が良くなったら向かうという話だったが、それよりも早く私は国に帰されることだろう。
ばあやが無理をする心配はしなくても良さそうだ。
「神のご意志というなら仕方ない。こちらで身の回りの世話をする者を用意しよう」
「ありがとうございます」
ニコリと微笑めば長いため息を吐かれた。小声で「調子が狂う」とぼやいていたのは聞こえていないふりをして、王の間を後にした。
案内されたのはお城の一番上、バルコニーのある部屋だった。
私の希望通り、空が綺麗に見える。だけどここは客間ではない。
部屋もベッドもとても大きくて、調度品は若い女性が好みそうなデザインばかり。多分、お姉様のために用意していたのだろう。
手紙を送ってくるときは一方的なのに、目の前の人間に対してはとても丁寧。
それは行なっている政策も同じことが言える。
即位してからまもないが、それよりも以前から国の中枢に関わっていた彼が特に力を入れていたのは平民に対しての政策である。
我が国から安く仕入れた石油は主に公共施設の建築や食に関する施設の増設に当てられていた。職は増え、住む場所も増えた。
同時に孤児院や学校も増やしており、この数年で識字率が上がっている。
またこれにより我が国へ輸出されるものが増え、値段も安定してきている。
いや我が国だけではない。他の同盟国や諸外国に対する立ち回りも変わりつつある。
国民人気が高いのは笑顔を絶やさず、派手な仕事の多い弟君だが、調べていけば二人が意図して役割を分担していることがわかる。
「手紙の送り先がこの国で良かった」
バルコニーの手すりに身を預けて、空を見上げる。
大きくて立派な雲が泳ぐこの国の空を私は後どれだけ見上げることができるのだろうか。届かぬ雲に手を伸ばしながら、しんみりとした気持ちが押し寄せる。
けれどこれは神が与えてくれた機会である。
数日であろうとこのチャンスを満喫しようではないか。
神に感謝の気持ちを伝えるべく、すうっと息を吸い込む。
帝国の景色と音を紡いだ歌を声に乗せ、天へと捧げる。お腹に流れ込む空気の違うこの国では音の響き方も違う。
今、私は幸せだ。
気持ちを乗せてスッキリした私は、水でも飲もうと部屋に戻る。
すると部屋の真ん中で先程分かれたはずのケウロス陛下が優雅にお茶を啜っていた。一体いつからいたのだろう。歌に集中していたせいで全く気がつかなかった。
「お待たせしてしまってすみません。私、気づかなくて」
「こちらこそ勝手に入ってすまなかった。歌が聞こえたものでな」
「うるさかったでしょうか……」
「ここに来る途中で出会った者は皆、歌に聞き惚れて手が止まっていたほどだ。私も用件を後回しにしてつい聴きこんでしまった」
「お邪魔になってなくて良かったです」
「何という歌なんだ?」
「即興なので曲名はないのです。ただ神官様達は私の歌を『聖女の響神歌』と呼んでおりましたわ」
「聖女の響神歌……」
「神への捧げものは聖女や神官によって異なります。私が捧げるのは祈りと歌。姉がいる時は姉の踊りに合わせて歌ったものです」
捧げものは祈りか貢物が一般的である。
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