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「ところでご用件とはなんでしょうか?」
「ああ、そうだったな。実は教会に送った使いが戻ってきたのだが、神官長不在のため、君のことを調べることが出来なかった。二日前に他国に発ったばかりらしく、シャンスティ王国からの返答を待つことになるだろう」
「帰る前にご挨拶を、と思ったのですか……」
「知り合いなのか?」
「はい。ゲルドバ様は我が国にいらっしゃるといつも私の歌に合わせてオルガンを弾いてくださるのです!」
「大陸教会のトップが入れ込むとは……よほど彼も君の歌が気に入ったらしいな」
「そんなに偉い方だったのですか!?」
「知らなかったのか?」
「すみません、教会については疎くて……」

神については学んだが、教会については知らないことも多い。
教会が開催している祭事を手伝っていれば知る機会もあったのだろうが、あいにく一度も声をかけられたことはない。

それでも知ろうと思えば知る機会なんていくらでもあった。知ろうとしなかったのは私の怠惰ゆえ。恥ずかしさで赤くなった顔を俯ける。

「いや、付き合いを続けていたということは本人は気にしていなかったのだろう。むしろ知らないからこそ付き合いを続けていたのかもしれないな」
「どういうことですか?」
「本人は北の大聖女こそが現在もトップであり、自分は代理であると言い張っている。だがその北の大聖女は二十数年前に姿を消して以来、姿を見せていない。元々人前に出る機会の少なかった彼女の顔を知る者は少なく、すでに亡くなっているのではないかと言われているがな」

北の大聖女?
その名前はどこかで聞いたような気がする。だがばあやの授業だったか、それ以外で耳にしかのかさえ思い出せない。

ばあやがいれば直接尋ねることも出来るのだが、今頼れるのは自分の記憶だけである。
どこで聞いたんだっけ? と首を捻ってみてもやはり答えは出てこない。

「それにしても彼と親しくしていて、他の聖女や神官達から嫉妬されなかったか?」
「私が使わせてもらっていた部屋はほとんど人の出入りがなかった場所なので、私とゲルドバ様が会話をする仲であることを知る人は少ないのです」
「シャンスティ王国の教会には視察で何度か足を運んだことがある。確か階級ごとに祈りの場が分かれていたはずだが、人の出入りが少ないとなると君は上級聖女なのか?」
「いえ、私自身は下級聖女です。ただ姉が私と別の場所で祈りを捧げることを嫌がりまして。教会の計らいで特別に同じ場所にしてもらっておりました」

同じ日に神託を受けた私達だが、階級は別。お姉様は特級で私は下級。
教会までは一緒の馬車で行くが、祈る場所も帰りの馬車もバラバラ。いくら双子の姉妹とはいえ規則は規則。

仕方のないことだと割り切っていたし、初めのうちはお姉様だって仕方ないと納得していた。

意見を変えたのはおそらく、私が他の聖女や神官から蔑まれていることを知ったから。私がお姉様にそのことを話していなかったのも気に入らなかったのかもしれない。

お姉様は私に相談なく、この話を決めてしまった。

「他の聖女達は何も言わなかったと?」
「はい。特級は人数が少なく、自分達は毎日この場所で祈りを捧げることはできないから、と歓迎してくださいました」

特級は高齢の方が多く、孫のようだと可愛がってくれた。私を無能だと嗤う人はおらず、ケウロス陛下のように私の歌を楽しそうに聴いてくれた。

魔物と対峙しても怪我が少なくなったのはシーリアの歌のおかげだと褒めてもくれた。
お世辞だと分かっていても、教会の一員として認めてもらえたような気がした。

以前からほぼ毎日のように教会に足を運んでいたが、それからは教会に行く足取りが軽くなって、多くの歌と祈りを神に捧げた。

神への感謝と大好きな人達の無事を祈って。

「特級? それはいつからだ?」
「九歳の時です」

なぜそんな昔のことを聞くのだろうか。
階級が上がった際にちゃんと登録を済ませているし、昇級式にはゲルドバ様も立ち会っている。

お姉様が特級であることは、当然帝国の教会も知っているはずだ。

なのになぜこんなに驚いているのだろうか。
はて? と首を傾げれば、長いため息が返される。

「教会の情報を調べる必要がありそうだな……」

どうやら知らなかったらしい。額に手を当てて唸っている。上級と特級は人数が少ないことから管理が徹底されている、と聞いていたが、そうでもなかったらしい。

帝国は強い力を持った国ではあるが、大きすぎるが故に把握していない部分も多いのかもしれない。

大変だな~と思いつつも、私は帝国の人間ではないので話を聞いてあげることも出来ない。

教会の情報に穴があったことだって、本当は聞いちゃいけなかったのかもしれないけれど、これは不可抗力である。ケウロス陛下も後で責めたりはしないだろう。
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