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1章
11.親父さんのご飯は美味しい
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「これ、今日の分です。足りなくなったら声をかけてもらえれば持っていきますので」
「あいよ~」
今日は二日ぶりの錬金日。
宿屋ギルドからの依頼に対応するため、今日は朝からずっと錬金飴の作成に励むことにした。
まだお返事が来ていないお客さんと希望数を書いた一覧を女将さんに託す。
瓶詰めまでできている分全て客間に移させてもらうことにしたので、今日明日いっぱいはもつはずだ。
もちろん、今日も多めに作って補充するつもりではある。
だが『満月の湖』のギルドマスターであるステファニーに気に入ってもらえれば大口依頼が入ることになるので、そこまでにある程度ストックも作っておきたい。
やることがたくさんあって忙しいが、嬉しくもある。
宿裏に乾かしていた錬金釜を回収してから、自室の釜置きにセットする。
ジゼルの釜置きは持ち歩きに優れたカセットタイプ。
魔石を燃料として稼働する。据え置きタイプや薪タイプと比べて、コストがかさみやすいのが短所だが、個人が自宅で使う分にはこれ以上優れたものはない。
導入しやすく安価、かつ場所を取らない。壊れた時の取り替えも楽だ。
今までは自分用に一つだけ置いていたのだが、一昨日買い物に行った際、投げ売りされているのを見つけてしまった。
新しいモデルが出たとかで、半額以下で売っていた。しかも二つ買うとさらにお得ときた。
売れたら終わりの言葉と、少し前に温かくなった懐が相まって、ついつい二つも買ってしまった。
作業台は釜置きを三つ並べるだけでいっぱいいっぱい。見かねた女将さんが古くなった机を二つ譲ってくれた。これで三種類同時に作成できる。
ちなみに作業場を別に用意する、という話は遠慮させてもらった。さすがにそこまでしてもらうのは申し訳がない。
それに作業場のような部屋になってきたが、ジゼルは気に入っていた。幼少期から薬の香りに包まれて育ったため、むしろ安心するのだ。
釜置きにそれぞれの釜をセットし、その全てに魔力水を満たしていく。
魔力水とは魔法で出した水のことで、錬金術師は必ずこの水を自分で用意する。
錬金術を使う上での親和性が非常に重要になってくるため、自分の魔法で出すのが一般的ではあるが、親兄弟などの魔力が似ている人に出してもらうこともある。
ちなみにジゼルは自分の魔法で用意する派である。といっても水魔法適正は低く、ちょろちょろしか出せない。
「こういうところもダメだったのかなぁ」
ギルドに居た頃、この作業を行っている最中に冷たい視線が何度も向けられてきた。オーレルは「誰にだって得意不得意はある」と度々ジゼルを励ましてくれた。
それに、前準備をしっかりと行わなければその後の作業効率に関わる。焦ったところで失敗を招くだけと、あまり気にしないようにしていた。
今から思うとずっと前からあのギルドに所属し続けるには無理があったのかもしれない。
八分目まで魔力水を注ぎ終わったら、火を付けて沸騰するのを待つ。
その間に錬金飴の材料を用意。沸騰した水の中にドボドボと入れて、ぐるぐるとかき混ぜる。浮いてきた飴は引き上げてそれぞれバットの上で乾かす。
いくつか貯まったらカートに載せてキッチンへ。
乾燥台の一部を使わせてもらえることになったのだ。数が多いのでありがたい。
せっせと釜をかき混ぜ、たまに休憩し、乾いたものから包んでいく。その繰り返しである。
「ごちそうさまでした。はぁ、美味しかった」
「全部食べきったか。昼間も結構食べてたからな、少し多めに用意してよかった」
「最近、私の好物ばかりなのでつい食べ過ぎちゃうんですよ。太ったらどうしよう……」
「ジゼルは多分、自分で思っている以上に動いているぞ。それに栄養不足でぶっ倒れるよりよっぽどいい。職人は身体が資本だからな」
「そうですね! 明日もモリモリ食べます!」
「それがいい。この後もまだやるのか?」
「はい。残りの分を包んで瓶詰めしちゃおうと思って」
宿屋ギルド用を六瓶と同じ大きさを四瓶、夕飯前に作っておいたのだ。
後者は飴を一時的に入れておく用である。
飴もかなりの量があるが、販売用の小さな瓶もいくつか残っている。足りなければ明日は瓶を中心に作るつもりだ。今回も歪なものは試作品にする。
宿屋での販売にもいくつか回して……。
やることを確認していると、親父さんがふっと笑った。
「どうかしました?」
「明日はフルーツティーってやつを作ってやろう」
「あのオシャレなカフェで出てくるって噂の!?」
以前、ドランから教えてもらったことがある。
今度一緒に飲みに行こうと約束までしたのだが、急に依頼が入ってしまった。その後はなかなか時間が合わず、やっと時間の調整がついたと思ったらお店が休みだったり、長蛇の列だったり。結局行けず終いに終わってしまった。
まさか飲める日が来るとは!
お腹いっぱい美味しいご飯を食べたばかりだというのに、ジゼルの頭の中は様々な果物で満ち満ちていく。
「前、飲んでみたいって言ってただろ? 結構簡単に作れるんだと。入れてほしいフルーツはあるか?」
「オレンジ! オレンジがいいです」
「分かった。楽しみにしてるといい。ドランにも声をかけてみるか」
「親父さん大好き!」
「おう」
親父さんにブンブンと手を振ってから、飴と共に自室に戻る。
包み終わったものを種類ごとに瓶に入れる。入りきらなかった分と歪なものはそれぞれ別の籠に入れ、眠りについたのだった。
「あいよ~」
今日は二日ぶりの錬金日。
宿屋ギルドからの依頼に対応するため、今日は朝からずっと錬金飴の作成に励むことにした。
まだお返事が来ていないお客さんと希望数を書いた一覧を女将さんに託す。
瓶詰めまでできている分全て客間に移させてもらうことにしたので、今日明日いっぱいはもつはずだ。
もちろん、今日も多めに作って補充するつもりではある。
だが『満月の湖』のギルドマスターであるステファニーに気に入ってもらえれば大口依頼が入ることになるので、そこまでにある程度ストックも作っておきたい。
やることがたくさんあって忙しいが、嬉しくもある。
宿裏に乾かしていた錬金釜を回収してから、自室の釜置きにセットする。
ジゼルの釜置きは持ち歩きに優れたカセットタイプ。
魔石を燃料として稼働する。据え置きタイプや薪タイプと比べて、コストがかさみやすいのが短所だが、個人が自宅で使う分にはこれ以上優れたものはない。
導入しやすく安価、かつ場所を取らない。壊れた時の取り替えも楽だ。
今までは自分用に一つだけ置いていたのだが、一昨日買い物に行った際、投げ売りされているのを見つけてしまった。
新しいモデルが出たとかで、半額以下で売っていた。しかも二つ買うとさらにお得ときた。
売れたら終わりの言葉と、少し前に温かくなった懐が相まって、ついつい二つも買ってしまった。
作業台は釜置きを三つ並べるだけでいっぱいいっぱい。見かねた女将さんが古くなった机を二つ譲ってくれた。これで三種類同時に作成できる。
ちなみに作業場を別に用意する、という話は遠慮させてもらった。さすがにそこまでしてもらうのは申し訳がない。
それに作業場のような部屋になってきたが、ジゼルは気に入っていた。幼少期から薬の香りに包まれて育ったため、むしろ安心するのだ。
釜置きにそれぞれの釜をセットし、その全てに魔力水を満たしていく。
魔力水とは魔法で出した水のことで、錬金術師は必ずこの水を自分で用意する。
錬金術を使う上での親和性が非常に重要になってくるため、自分の魔法で出すのが一般的ではあるが、親兄弟などの魔力が似ている人に出してもらうこともある。
ちなみにジゼルは自分の魔法で用意する派である。といっても水魔法適正は低く、ちょろちょろしか出せない。
「こういうところもダメだったのかなぁ」
ギルドに居た頃、この作業を行っている最中に冷たい視線が何度も向けられてきた。オーレルは「誰にだって得意不得意はある」と度々ジゼルを励ましてくれた。
それに、前準備をしっかりと行わなければその後の作業効率に関わる。焦ったところで失敗を招くだけと、あまり気にしないようにしていた。
今から思うとずっと前からあのギルドに所属し続けるには無理があったのかもしれない。
八分目まで魔力水を注ぎ終わったら、火を付けて沸騰するのを待つ。
その間に錬金飴の材料を用意。沸騰した水の中にドボドボと入れて、ぐるぐるとかき混ぜる。浮いてきた飴は引き上げてそれぞれバットの上で乾かす。
いくつか貯まったらカートに載せてキッチンへ。
乾燥台の一部を使わせてもらえることになったのだ。数が多いのでありがたい。
せっせと釜をかき混ぜ、たまに休憩し、乾いたものから包んでいく。その繰り返しである。
「ごちそうさまでした。はぁ、美味しかった」
「全部食べきったか。昼間も結構食べてたからな、少し多めに用意してよかった」
「最近、私の好物ばかりなのでつい食べ過ぎちゃうんですよ。太ったらどうしよう……」
「ジゼルは多分、自分で思っている以上に動いているぞ。それに栄養不足でぶっ倒れるよりよっぽどいい。職人は身体が資本だからな」
「そうですね! 明日もモリモリ食べます!」
「それがいい。この後もまだやるのか?」
「はい。残りの分を包んで瓶詰めしちゃおうと思って」
宿屋ギルド用を六瓶と同じ大きさを四瓶、夕飯前に作っておいたのだ。
後者は飴を一時的に入れておく用である。
飴もかなりの量があるが、販売用の小さな瓶もいくつか残っている。足りなければ明日は瓶を中心に作るつもりだ。今回も歪なものは試作品にする。
宿屋での販売にもいくつか回して……。
やることを確認していると、親父さんがふっと笑った。
「どうかしました?」
「明日はフルーツティーってやつを作ってやろう」
「あのオシャレなカフェで出てくるって噂の!?」
以前、ドランから教えてもらったことがある。
今度一緒に飲みに行こうと約束までしたのだが、急に依頼が入ってしまった。その後はなかなか時間が合わず、やっと時間の調整がついたと思ったらお店が休みだったり、長蛇の列だったり。結局行けず終いに終わってしまった。
まさか飲める日が来るとは!
お腹いっぱい美味しいご飯を食べたばかりだというのに、ジゼルの頭の中は様々な果物で満ち満ちていく。
「前、飲んでみたいって言ってただろ? 結構簡単に作れるんだと。入れてほしいフルーツはあるか?」
「オレンジ! オレンジがいいです」
「分かった。楽しみにしてるといい。ドランにも声をかけてみるか」
「親父さん大好き!」
「おう」
親父さんにブンブンと手を振ってから、飴と共に自室に戻る。
包み終わったものを種類ごとに瓶に入れる。入りきらなかった分と歪なものはそれぞれ別の籠に入れ、眠りについたのだった。
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