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1章
13.タヌキの姿をした精霊
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「我はグルメなのだ。精霊など食わん」
「こいつ、精霊なのか? どっからどうみてもタヌキだが」
「人型の精霊もいるが、獣のような精霊もいる。後者は普通の獣との見分けが付きにくいだけで、そこら中にゴロゴロいるぞ」
「そういうものなのか」
「そういうものだ。だが……」
なんてことなく言い切ったドラゴンだが、分からないこともあるらしい。
ずいっと顔を寄せ、タヌキの身体をスンスンと嗅ぐ。
「こんな美味そうな匂いがする精霊は初めてだ」
「た、たべないでぇえええ」
「おぬし、一体何を食った」
「ジゼルのあめ」
「ジゼルのあめ?」
「いつもはとれないけど、きのうはねぇ~たくさんとれたの! おじちゃんにもおすそわけ。どうぞ~」
そう言いながら、タヌキが差し出したのは錬金飴だった。
飴を取る際に見えたのだが、寝る前よりも明らかに減っている。
いつもは取れない、ということは少なくともタヌキがジゼルの部屋にやってきたのは今日が初めてではない。
一体いつから出入りしていたのだろうか。
「足りんわ」
「これぜんぶあげる。あげるからたべないでぇ~」
タヌキはあわあわとしながら両手にたくさん抱える。けれどすぐに落として、また拾ってを繰り返す。
本人としては必死なのだろうが、なんだか可愛らしく思えてきた。
ドラゴンも虐めるつもりはないようで、籠をのぞき込み、満足したようだ。
「うむ。坊、紙を取れ」
「勝手にもらうな。これはジゼルのだ。タヌキの物じゃない」
「ええ!? じゃあぼく、たべられちゃう?」
「いいよ、ドラン。朝押しかけちゃったお詫びに。ドラゴンだとどのくらい食べていいかは分からないけど、人間は一日一個までって言って渡してるから食べ過ぎには注意してね」
「いいのか?」
コクリと頷くと、タヌキはあからさまにホッとして飴の上に腰を下ろした。
ドラゴンもにいっと笑って、早く早くと急かし始めた。
美味しくなるように改良はしたが、匂いまではあまり意識していない。ドラゴンの鼻は人間よりもうんといいのかもしれない。
ジゼルもいくつか手に取って包み紙を外すのを手伝う。
ドランはドラゴンに飴をあげながらも納得はいってないようだ。
「分かった。だがこいつに害はないんだろうな」
「見た目はどうあれ、本質は精霊だ。悪意ある者にはそれなりの対応をするが、こやつはすっかり懐いておる。ならば問題ないだろう」
「ジゼル、やさしいからだいすき。あめもおいしい」
「確かにこれは美味だな。おい、精霊。娘と契約し、あめ作りを手伝うのだ」
「おてつだい?」
こてんと首を傾げ、あめあめあめと繰り返している。
口元にはよだれがつうっと伝っている。
精霊の食べ物は魔素である。それ以外の飲食は必要としない、というのが一般的な常識。
だが必要としないことと食べたいという欲求は必ずしも合致しない。
人間が嗜好品と呼ばれるものを求めるのと同じだ。
「手伝えばたくさん食えるぞ」
「ほんとう!? する!」
「本人を置いて話を進めるなよ。なぁジゼル」
「そうね。女将さんと親父さんの許可を取らないと……」
精霊とはいえ、見た目はタヌキそのもの。
悪さはしなくとも、宿屋に置いておけないとなれば勝手に世話をする訳にもいかない。
可哀想だが、ジゼルもまた置いてもらっている身なのだ。
「ジゼル、犬猫を飼うんじゃないんだから……」
「ジゼル、けーやく! けーやくしよ!」
「ちょっと待っててね」
なるべく頑張って交渉をしてみよう。
そう決めた時だった。後ろから聞き慣れた声がした。
「なんだ、犬でも拾ったのか?」
「親父さん!? どうしてここに?」
「急ぎで出す手紙があるから出しに来たんだ。そうしたらジゼルがドランと奥に入ったっきり出てこない。きっと今頃、美味しい手料理でも、って聞いてな。おかしいと思って様子を見に来たんだ。なんだ、犬を拾ったのか。犬なら外で飼えばいいし、大歓迎だぞ!」
親父さんは犬好きらしい。
犬種は? 大きさは? としきりに確認してくる。
犬小屋も自作する気満々な親父さんに、少しだけ申し訳なさが募っていく。
「犬じゃなくて、タヌキの精霊なんです」
タヌキの入った籠を突き出すと、親父さんの目は丸くなった。
「確かにこれは犬じゃないな。タヌキだ」
「正確にはタヌキの姿をした精霊であって、タヌキではない」
「それはどう違うんだ?」
「食事を必要とせず、排泄等の行為を行わない。毛も綺麗なままだ」
「ぬいぐるみみたいだな」
「ぼく、いいこだよ」
「しゃべった!」
「まぁ話して動くぬいぐるみみたいなものだ。こやつを娘と契約させようと思ってる」
親父さんはまだ状況も理解できていないというのに、飴が食べたいドラゴンは強引に話を進めようとする。
ずいずいっと顔を寄せ「娘側にもメリットはある。錬金術を極めるのであれば精霊のサポートは必要不可欠だ。より美味いあめの製作を求めるのなら、あめ好き以外他にいない。まぁ我も力を貸してやらなくはないが、常に共にいられる訳ではないからな。タヌキを通じてドラゴンの知識を与えてやってもいい。あめだ、あめあめあめ」と言葉を並べる。
途中から飴が食べたい欲が全面に出すぎて、親父さんも混乱してしまう。
「こいつ、精霊なのか? どっからどうみてもタヌキだが」
「人型の精霊もいるが、獣のような精霊もいる。後者は普通の獣との見分けが付きにくいだけで、そこら中にゴロゴロいるぞ」
「そういうものなのか」
「そういうものだ。だが……」
なんてことなく言い切ったドラゴンだが、分からないこともあるらしい。
ずいっと顔を寄せ、タヌキの身体をスンスンと嗅ぐ。
「こんな美味そうな匂いがする精霊は初めてだ」
「た、たべないでぇえええ」
「おぬし、一体何を食った」
「ジゼルのあめ」
「ジゼルのあめ?」
「いつもはとれないけど、きのうはねぇ~たくさんとれたの! おじちゃんにもおすそわけ。どうぞ~」
そう言いながら、タヌキが差し出したのは錬金飴だった。
飴を取る際に見えたのだが、寝る前よりも明らかに減っている。
いつもは取れない、ということは少なくともタヌキがジゼルの部屋にやってきたのは今日が初めてではない。
一体いつから出入りしていたのだろうか。
「足りんわ」
「これぜんぶあげる。あげるからたべないでぇ~」
タヌキはあわあわとしながら両手にたくさん抱える。けれどすぐに落として、また拾ってを繰り返す。
本人としては必死なのだろうが、なんだか可愛らしく思えてきた。
ドラゴンも虐めるつもりはないようで、籠をのぞき込み、満足したようだ。
「うむ。坊、紙を取れ」
「勝手にもらうな。これはジゼルのだ。タヌキの物じゃない」
「ええ!? じゃあぼく、たべられちゃう?」
「いいよ、ドラン。朝押しかけちゃったお詫びに。ドラゴンだとどのくらい食べていいかは分からないけど、人間は一日一個までって言って渡してるから食べ過ぎには注意してね」
「いいのか?」
コクリと頷くと、タヌキはあからさまにホッとして飴の上に腰を下ろした。
ドラゴンもにいっと笑って、早く早くと急かし始めた。
美味しくなるように改良はしたが、匂いまではあまり意識していない。ドラゴンの鼻は人間よりもうんといいのかもしれない。
ジゼルもいくつか手に取って包み紙を外すのを手伝う。
ドランはドラゴンに飴をあげながらも納得はいってないようだ。
「分かった。だがこいつに害はないんだろうな」
「見た目はどうあれ、本質は精霊だ。悪意ある者にはそれなりの対応をするが、こやつはすっかり懐いておる。ならば問題ないだろう」
「ジゼル、やさしいからだいすき。あめもおいしい」
「確かにこれは美味だな。おい、精霊。娘と契約し、あめ作りを手伝うのだ」
「おてつだい?」
こてんと首を傾げ、あめあめあめと繰り返している。
口元にはよだれがつうっと伝っている。
精霊の食べ物は魔素である。それ以外の飲食は必要としない、というのが一般的な常識。
だが必要としないことと食べたいという欲求は必ずしも合致しない。
人間が嗜好品と呼ばれるものを求めるのと同じだ。
「手伝えばたくさん食えるぞ」
「ほんとう!? する!」
「本人を置いて話を進めるなよ。なぁジゼル」
「そうね。女将さんと親父さんの許可を取らないと……」
精霊とはいえ、見た目はタヌキそのもの。
悪さはしなくとも、宿屋に置いておけないとなれば勝手に世話をする訳にもいかない。
可哀想だが、ジゼルもまた置いてもらっている身なのだ。
「ジゼル、犬猫を飼うんじゃないんだから……」
「ジゼル、けーやく! けーやくしよ!」
「ちょっと待っててね」
なるべく頑張って交渉をしてみよう。
そう決めた時だった。後ろから聞き慣れた声がした。
「なんだ、犬でも拾ったのか?」
「親父さん!? どうしてここに?」
「急ぎで出す手紙があるから出しに来たんだ。そうしたらジゼルがドランと奥に入ったっきり出てこない。きっと今頃、美味しい手料理でも、って聞いてな。おかしいと思って様子を見に来たんだ。なんだ、犬を拾ったのか。犬なら外で飼えばいいし、大歓迎だぞ!」
親父さんは犬好きらしい。
犬種は? 大きさは? としきりに確認してくる。
犬小屋も自作する気満々な親父さんに、少しだけ申し訳なさが募っていく。
「犬じゃなくて、タヌキの精霊なんです」
タヌキの入った籠を突き出すと、親父さんの目は丸くなった。
「確かにこれは犬じゃないな。タヌキだ」
「正確にはタヌキの姿をした精霊であって、タヌキではない」
「それはどう違うんだ?」
「食事を必要とせず、排泄等の行為を行わない。毛も綺麗なままだ」
「ぬいぐるみみたいだな」
「ぼく、いいこだよ」
「しゃべった!」
「まぁ話して動くぬいぐるみみたいなものだ。こやつを娘と契約させようと思ってる」
親父さんはまだ状況も理解できていないというのに、飴が食べたいドラゴンは強引に話を進めようとする。
ずいずいっと顔を寄せ「娘側にもメリットはある。錬金術を極めるのであれば精霊のサポートは必要不可欠だ。より美味いあめの製作を求めるのなら、あめ好き以外他にいない。まぁ我も力を貸してやらなくはないが、常に共にいられる訳ではないからな。タヌキを通じてドラゴンの知識を与えてやってもいい。あめだ、あめあめあめ」と言葉を並べる。
途中から飴が食べたい欲が全面に出すぎて、親父さんも混乱してしまう。
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