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ドラゴンは物凄くカッコイイ
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空を見上げながらふわぁと大きなあくびをする。
睡魔を噛んでから、お菓子を口に運ぶ。
喉が乾きそうな物は選んでいないが、お菓子だけというのも素っ気ない。
「お茶も持ってくれば良かったな~」
もごもごと口を動かしながらぼやく姿はとても公爵令嬢とは思えない。
こんな所他の人に見られたら一巻の終わりだ。
だが奇行を目撃されれば、それはそれで王子の婚約者候補から外されるかもしれない。代わりに凄く怒られるだろうから、その作戦はなるべく取りたくない。
けれど私はすでにドレスで悪目立ちしている。
見つかったら見つかったで、迷って歩いていたら足が疲れて~とか適当に言い訳すればいいだろう。
大人達の駆け引きなんてよく分からないし、深く考えるだけ無駄だ。
綺麗な赤バラと良く晴れた空を眺めながらピンク色のマカロンを口に投げ入れる。
まだ時間はあるし、とりあえず食べ終わったらまた会場を目指して彷徨う予定だ。
「それにしても今日は良い天気よね~。お昼寝日よりだわ~」
かみ殺したはずの睡魔は再び私に襲いかかる。
このぽかぽか陽気がいけない。ついうつらうつらと船を漕いでしまう。
さすがに寝たらダメなことは私でも分かる。
バラ園で寝ているところを発見されては言い訳が効かなくなってしまう。
眠気の格闘に勝利すべく、私の数少ない本編知識に思考を巡らせる。
本格的に今後について考えたい所だが、悪役令嬢の情報以外に私が知っているのは攻略対象者達の名前と顔。攻略者達につき数枚分のスチルくらいだ。
どれもプロローグとオープニングで出ていたもので……って、そういえばこのゲーム、ドラゴン出てこなかったっけ?
「ドラゴン、ドラゴン……」
呟きながら必死で記憶を巡らせて、頭の中でオープニングムービーを再生する。
初めに主人公のビジュアルと軽く内容に触れ、そこから攻略者達が順番に紹介されて…………っとここだ!
それぞれのキャラのカットが二周目にさしかかる直前、十秒ほどの間、四匹の竜のシルエットが並んだ。
そのイラストにかかるように『四竜の加護は祝福か、呪いか』なんて意味ありげな言葉がゆらゆらと揺れていた。
確かトモちゃんがこのゲームを勧めてくれたのも、ファンタジー要素があるから乙女ゲーム初心者の私もプレイしやすいだろうとの理由だった気がする。
推しが推し故に推しで~って圧が強すぎて細かいことはあやふやだけど。とりあえずヤンデレが出ることだけは確かだ。
ヤンデレ好きのトモちゃんがヤンデレ不在のコンテンツにハマることはない。だからこそトモちゃんは、季節ごとにリリースされた四本のうち三作目に当たるこの作品を購入したのだ。プレイ後、結局シナリオが気になって他の三本も買ったらしい。「気に入ったら他のも貸すね~」と言ってくれた。
確かヤンデレくんは王子の幼なじみだったはず。
ヤンデレに興味はないが、トモちゃんは闇と病みが濃ければ濃いほど強く惹かれる傾向にあった。
ヤンデレくんが悪役令嬢と関わってくるかは定かではないが、接触は避ける方向でいこうと思う。
だってヤンデレってモブと悪役に容赦ないし。
それに私はヤンデレくんだけではなく、攻略対象全員に興味はない。
恋愛というのがよく分からないのだ。彼氏欲しいと言いながら恋というものをしたことがなかった。推しは沢山いたけれど、幸せになってくれればそれで良い派のオタクだった。自分は自分。推しは推し。次元を越えた恋は芽生えず、子どもを見守るような愛情ばかりがすくすくと育っていた。
そんな私を心配したトモちゃんが貸してくれたのが本作なのだが、私の脳内は数人のイケメンよりもドラゴンに支配されている。
ドラゴンーーそれは想像上の生き物にして、物凄く格好いいモンスターである。
固いうろこに大きな牙。鋭い爪のカーブや太い尻尾の魅力もさることながら、一番素敵なのはやはりあの目だ。全てを見透かすような目がいい。
「どうせ殺されるなら人間なんかよりもドラゴンがいいな」
物騒なワードを吐いてはみたものの、死にたいわけではない。
あくまでよく分からない運命の人とか、死んだ魚の目をした王子様に殺されるよりはマシという話だ。
だがこんなファンタジー世界に転生したなら一度くらいドラゴンと会ってみたいものである。
大きなドラゴンと対峙する自分を想像してみる。
人間ごときでは手の届く存在ではない圧倒的高貴さを前に、跪いて殺される。恐怖で足はすくみそうだけど、悪くない。
少なくともなんだかよく分からない業火だのなんだのよりもずっとマシだ。とはいえ、死にたいわけではない。繰り返す。望んで死にたくはない。
贅沢しながら暮らしたいし、好きなものだけ食べて大往生したい。
生存ルートがあるのならば全力で乗っかっていく所存である。
まぁそのルートに乗れるかどうかは今日のお茶会にかかっているのだが、正直、答えが出るまでこの行動が正しいのかすらも分からない。
最悪、記憶に強く残っていたからと選ばれる可能性だってある。
婚約者をちゃんと選ぼうという気概がまるで見えない死んだ魚のような王子様の思考や行動なんて私に理解出来るはずがないのだ。
睡魔を噛んでから、お菓子を口に運ぶ。
喉が乾きそうな物は選んでいないが、お菓子だけというのも素っ気ない。
「お茶も持ってくれば良かったな~」
もごもごと口を動かしながらぼやく姿はとても公爵令嬢とは思えない。
こんな所他の人に見られたら一巻の終わりだ。
だが奇行を目撃されれば、それはそれで王子の婚約者候補から外されるかもしれない。代わりに凄く怒られるだろうから、その作戦はなるべく取りたくない。
けれど私はすでにドレスで悪目立ちしている。
見つかったら見つかったで、迷って歩いていたら足が疲れて~とか適当に言い訳すればいいだろう。
大人達の駆け引きなんてよく分からないし、深く考えるだけ無駄だ。
綺麗な赤バラと良く晴れた空を眺めながらピンク色のマカロンを口に投げ入れる。
まだ時間はあるし、とりあえず食べ終わったらまた会場を目指して彷徨う予定だ。
「それにしても今日は良い天気よね~。お昼寝日よりだわ~」
かみ殺したはずの睡魔は再び私に襲いかかる。
このぽかぽか陽気がいけない。ついうつらうつらと船を漕いでしまう。
さすがに寝たらダメなことは私でも分かる。
バラ園で寝ているところを発見されては言い訳が効かなくなってしまう。
眠気の格闘に勝利すべく、私の数少ない本編知識に思考を巡らせる。
本格的に今後について考えたい所だが、悪役令嬢の情報以外に私が知っているのは攻略対象者達の名前と顔。攻略者達につき数枚分のスチルくらいだ。
どれもプロローグとオープニングで出ていたもので……って、そういえばこのゲーム、ドラゴン出てこなかったっけ?
「ドラゴン、ドラゴン……」
呟きながら必死で記憶を巡らせて、頭の中でオープニングムービーを再生する。
初めに主人公のビジュアルと軽く内容に触れ、そこから攻略者達が順番に紹介されて…………っとここだ!
それぞれのキャラのカットが二周目にさしかかる直前、十秒ほどの間、四匹の竜のシルエットが並んだ。
そのイラストにかかるように『四竜の加護は祝福か、呪いか』なんて意味ありげな言葉がゆらゆらと揺れていた。
確かトモちゃんがこのゲームを勧めてくれたのも、ファンタジー要素があるから乙女ゲーム初心者の私もプレイしやすいだろうとの理由だった気がする。
推しが推し故に推しで~って圧が強すぎて細かいことはあやふやだけど。とりあえずヤンデレが出ることだけは確かだ。
ヤンデレ好きのトモちゃんがヤンデレ不在のコンテンツにハマることはない。だからこそトモちゃんは、季節ごとにリリースされた四本のうち三作目に当たるこの作品を購入したのだ。プレイ後、結局シナリオが気になって他の三本も買ったらしい。「気に入ったら他のも貸すね~」と言ってくれた。
確かヤンデレくんは王子の幼なじみだったはず。
ヤンデレに興味はないが、トモちゃんは闇と病みが濃ければ濃いほど強く惹かれる傾向にあった。
ヤンデレくんが悪役令嬢と関わってくるかは定かではないが、接触は避ける方向でいこうと思う。
だってヤンデレってモブと悪役に容赦ないし。
それに私はヤンデレくんだけではなく、攻略対象全員に興味はない。
恋愛というのがよく分からないのだ。彼氏欲しいと言いながら恋というものをしたことがなかった。推しは沢山いたけれど、幸せになってくれればそれで良い派のオタクだった。自分は自分。推しは推し。次元を越えた恋は芽生えず、子どもを見守るような愛情ばかりがすくすくと育っていた。
そんな私を心配したトモちゃんが貸してくれたのが本作なのだが、私の脳内は数人のイケメンよりもドラゴンに支配されている。
ドラゴンーーそれは想像上の生き物にして、物凄く格好いいモンスターである。
固いうろこに大きな牙。鋭い爪のカーブや太い尻尾の魅力もさることながら、一番素敵なのはやはりあの目だ。全てを見透かすような目がいい。
「どうせ殺されるなら人間なんかよりもドラゴンがいいな」
物騒なワードを吐いてはみたものの、死にたいわけではない。
あくまでよく分からない運命の人とか、死んだ魚の目をした王子様に殺されるよりはマシという話だ。
だがこんなファンタジー世界に転生したなら一度くらいドラゴンと会ってみたいものである。
大きなドラゴンと対峙する自分を想像してみる。
人間ごときでは手の届く存在ではない圧倒的高貴さを前に、跪いて殺される。恐怖で足はすくみそうだけど、悪くない。
少なくともなんだかよく分からない業火だのなんだのよりもずっとマシだ。とはいえ、死にたいわけではない。繰り返す。望んで死にたくはない。
贅沢しながら暮らしたいし、好きなものだけ食べて大往生したい。
生存ルートがあるのならば全力で乗っかっていく所存である。
まぁそのルートに乗れるかどうかは今日のお茶会にかかっているのだが、正直、答えが出るまでこの行動が正しいのかすらも分からない。
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