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★お飾り選び

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 成人したら王位にと言う話も、卒業したら、入学したらとどんどん時を早めていく。とっくに狂っていたはずなのに、まだ正気を失うことが出来たらしい。同じく伯父を信仰していた義母と共に俺の隣に据える飾り物探しに躍起になった。けれど二人揃っておすすめを俺の近くに置くことはあっても、勝手に選ぶつもりはないらしい。予定通り行われたお茶会には参加せず、どこからか見守っているようだ。姿は見えずとも視線は見えるだけに、気持ちが悪かった。

 ただ俺にとって救いだったのは、会場入りした瞬間から俺に価値を見いだしていないご令嬢がいることだった。まず生地の色がパッションピンク。この色だけですら目立つのにさらに大きなリボンをいくつも付けて、ビラビラのレースは至るところを這い回っている。一体どこの令嬢だろうか? あの令嬢にガンガンアピールされたら胃もたれを起こしそうだ。思わず見開いてしまった目を逸らしつつ、まともそうな令嬢に囲まれる。けれど彼女は一向にこちらに近づいてくる気配はない。むしろ真っ先にケーキコーナーへと足を運び、皿に山盛りを確保した上で会場の端で大口を開いて頬張った。

「これおいひい」
 加護持ち特有の、常人よりも良い耳はこの会場で悪目立ちをしているご令嬢の声をしっかりと捉える。
 彼女はこの会場をバイキング会場か何かと勘違いしているのだろうか。王家のお茶会でなくとも、あそこまで周りに遠慮なく食べるなんてあり得ない。

 だがこの状況では不思議と安心感すら抱く。

「あ、お茶もらえます?」
 手を上げて使用人を引き留め、お茶を注がれたカップを傾けながら「あったまるわ~」と間延びした言葉を吐く。本当に、あの令嬢は一体どこの家の娘なのだろう。よほどの田舎から来たのだろうとは思うのだが、なぜかその顔には見覚えがあった。はて、どこだったか。チラチラと顔を確認してみたものの、一向にヒットしない。そもそも他人に興味があまりないというのも大きいのだろう。途中からこちらの視線に気付きだし、居心地悪そうに目を逸らすようになった。けれど一向に皿とフォークを手放そうとしないのはさすがと言えるだろう。けれどそんな風変わりな令嬢も、気付けば姿を消していた。あんなに目立つというのに、会場のどこを見回しても見つからない。手洗い場にでも行ったのだろうか。気を逸らす手段を失った途端、この場で竜化してしまったらと考えると怖くなった。
 気の許せる相手もいない場所で、いつも以上に大勢に囲まれてすでに限界を迎えていたのだろう。ただあの令嬢に支えられていただけに過ぎない。名前さえも分からない相手だと言うのに、姿が見えなくなっただけでこうも精神は揺らぐ。胃の中からこみ上げるような吐き気を覚え、真っ青な顔で輪から抜け出した。そのまま医務室にも向かわず、適当な部屋へと逃げ込んだ。
  
「うっ」
 音を立てずにドアを閉めたのと、ドラゴンになるのはほぼ同時。口から漏れた声はまだ10代にも関わらず低くて渋い。地を這うような声に嫌気が差す。いつドラゴンになるかも分からない人間の婚約者なんて、誰が進んでなるものか。事情を隠したところで似たような惨劇を繰り返すだけ。また同じようなことがあった時、果たした俺は正気を保っていられるだろうか。
 俺なんかが父が望む『良い国王』になんてなれるはずがない。
 部屋の端に蹲って、ようやく伯父が配偶者を持たず、王位継承権をも放棄した理由を理解した。耐えきれなかったのだろう。逃げてもなお、新たな役に捕らわれることを理解していながら彼は新たな選択をした。だが俺にはその選択権さえも与えられていない。
  
 誰かに恐れられ続け、心を許せる相手ももういない。
 他のドラゴン達との交流もあるが事情がまるで違う。完全に打ち解けることなど不可能だ。
 鬱々とした気持ちで部屋の端に場所を動かせば、物騒な呟きが耳に届いた。

「どうせ殺されるなら人間なんかよりもドラゴンがいいな」
 しかもよりによってドラゴンとはピンポイントである。姿が見られたのかと見回せばやはり部屋には俺一人。窓の外かと眺めれば、姿は見えない。けれど正体が気になった。残ったわずかな力で人へと姿を変え、窓から外へと出る。そしてかすかに聞こえる服の擦れる音を頼りに足を進めていく。生け垣の中に入った時点で、吐き気が再び喉元までこみ上げる。我慢するのも辛くなり、そのままドラゴンへと姿を変えた。けれど声の主を諦めることは出来なかった。ドラゴンの姿で低くゆっくりと飛び、奥へと進んでいく。そして少し進んだ辺りで、バラ園の生垣に隠れるように腰を下ろす何者かの姿を見つけた。生け垣に隠れた金色の頭は、人の肉眼では捕らえることは難しいだろう。ドラゴン状態であるからこそ見つけられたと言える。クンクンと鼻を動かせば、バラの香りに混じって微かに嗅ぎ慣れない者の体臭が混じっていた。柔らかみのある甘い香り。おそらく幼い少女のものだろう。それも会場で俺を囲んでいた者とは別の人物。会場を抜け出したかと思えば自殺志願者とは、一体どんなご令嬢だろうか。
 ますます興味が沸いた。同時に死にたいと願う彼女へ嫌がらせをしてやろうと。妙な考えが頭を過ったのは、いっそ問題でも起こせば父は今度こそ諦めるかもしれないと思ったから。
 にやっと笑えば、不調はしゅううっと吸い込まれるようにどこかへ消えていく。自分でも性格が悪いとは思う。けれどそのまま姿を変えず、ドラゴン状態で足を向けた。パタパタと音が出ないようにゆっくりと。けれど確実に金色の頭へと近づいた。

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