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5 夜が明けるまで

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 たとえばジュストが兄たちのように無理やりロゼの体に押し入ったとしたら、ロゼの心はまたガラス玉のように閉ざされていただろう。
 けれどジュストがロゼの悲鳴に困惑して行為をやめたとしても、人形のような心に戻っていたに違いない。
「君が私を嫌っていても、私は今夜君を抱く。そのために来たのだから」
 記憶に襲われてぽろぽろと涙が伝うロゼの頬を、ジュストは優しく撫でる。
「いいね?」
 薬を使われたわけでも、体を縛られていたわけでもない。抵抗は簡単にできたはずだったのに、ロゼはただジュストをみつめてうなずいていた。
 ロゼの足を折り曲げて開かせると、ジュストは自分自身をロゼの中に沈めていく。体を割り広げられる、喉が詰まるような圧迫感は覚えがあった。ロゼは反射的に体を固くして、体内に入ってくる異物に震える。
 それでも拒否はしないロゼを見て、ジュストはゆっくりと身を進めた。やがてジュストはロゼの最奥にたどり着くと、ロゼのこめかみを流れていた一筋の汗を拭う。
 ロゼが見上げると、ジュストは柔らかく笑んでいた。長い間見ていた夢が叶ったように幸せそうで、ロゼは不思議に思いながらも一つの事実に気づく。
 夜が明けたら彼はロゼのことなど忘れるのかもしれない。けれど今確かに、ロゼは恋した人と体をつなげている。
 狂乱の夜の恐怖は忘れていない。獣性に取りつかれた有翼人種がどれほど乱暴か、ロゼは身をもって知っている。ロゼは体がばらばらになるような痛みに何度も意識を失いながら、凶器のような楔をただ受け入れるしかない絶望の中で悲鳴を上げていた。
 だが今、ロゼの体に満ちているものは何だろう。性行為という意味では何も変わらないのに、やっとつながったという安堵に包まれている。触れ合うジュストの肌が、もう怯えなくていいと教えてくれているようだった。
「……動いてください」
 ロゼは気づけば夢の中でしか口にしなかった願いを告げていた。
 ずっとこの行為が怖かった。だから五年間、誰とも交わらなかった。きっと一生、誰かを受け入れることなどないと思っていた。
 でもジュストにもう一度出会って、ロゼは宝物のような感情をもらった。口づけてみたい、そっと触れてみたい、その身とつながってみたいと、夢見るように願った。
「一つ約束をしてほしい」
 ふいにジュストは真剣な声音でロゼに言う。ロゼが首を傾けると、ジュストは瑠璃色の瞳でロゼの目を射抜いて告げる。
「夜が明けても私の側にいてくれるか?」
 そうしたら動くと誘われて、ロゼはめまいがした。
 今のロゼは薬を使った無性たちのように豊満な肉体も持たず、ジュストを巧みな愛撫で導いたわけでもない。
 考えられることは一つだけ。あの優しかった少年は、栄養状態の悪く生きる気力も失っている無性もまた、哀れに思ったのだ。
 ロゼは胸がつぶれるような懐かしさを感じて、目がにじむのを感じた。
「そのようなことを仰ってはいけません」
 ロゼは体を起こして、自ら体を揺さぶってジュストを高みに導こうとする。労わりをくれた彼に、彼らの本性が歓喜する快楽を返してあげたかった。
 けれど乱暴に衝かれる性行為しか知らなかったロゼは、それを抽送しようとすると勝手に体が震えだしてしまう。娼婦としての役目すら果たせない自分に、ロゼは涙を落とす。
「泣かないで。すまない。意地の悪いことを言った」
 ジュストはかき抱くようにロゼを引き寄せると、背中をさすりながら言う。
「明日のことは目が覚めてからでいい。今は……」
 ふいに体を走った感覚に、ロゼは悲しみとは違う涙がにじむ。ジュストは動き出して、ロゼの中から今までに知らないうねりが生まれる。
 少しも痛くなどない。甘く、切ないような痺れで体が熱くなる。ロゼは浅い呼吸を繰り返しながら、何かを求めるように手をさまよわせる。
「おいで」
 ロゼの手をからめとって、ジュストは掠れた声で誘った。瑠璃の瞳が、濡れたように色づいて微笑む。
 そのとき、ロゼは自分の中にもある有翼人種の獣性に気づいた。ああ、このひとが欲しい。離れたくない。
 行くなと兄たちが繰り返しつぶやいていたのを思い出す。愛おしいというのはこんなにも厄介で、けれど何も恥ずべき気持ちではなかったのだと知った。
 せめて夜が明けるまで、この本性のままに過ごしたい。その後は、何も感情のない世界に帰っても構わないからと。
「私の、中に……あなたをください」
 こらえきれずに本性を口にしたロゼを、ジュストはきつく抱きしめ返した。
 世界が壊れるように、ロゼの意識が真っ白に染まる。体内に注がれた熱い流れに、ロゼはこのまま息絶えてもいいような思いがした。
「……ロゼ」
 沈んでいく意識の中で、ジュストが名前をささやいてロゼの唇に触れていった気がした。
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