獏兎高校ギャンブル部

笹村

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第1章 変則ポーカー

第1話 場代の支払い その②

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「場代は払いましたよ、会長。これで、勝負してくれるんですよね?」

 蠱惑的。そう言っても良い笑みを浮かべ、新和にいなは言った。
 見た目だけならば、良い所のお嬢様と言ってもいい清楚な見た目だったが、それと同時に惹きつけられるような色気を感じさせる少女でもあった。

 そんな彼女の笑顔に、呑まれたように声を出せないでいた未来みきだったが、

「何で止めなかったんです、貴方。一緒にここに来たってことは、友達じゃないんですか?」

 この場に居る四人の最後、新和にいなの後ろで佇むように立っていた、中肉中背の男子生徒に言った。それに彼、幸坂幸太さきざかこうたは平坦な声で返す。

「友達ですけど、止める理由は無いです。にーなが決めたこってすから」

 冷たい、というほどには無関心な響きは無かったが、積極的と言い切れるほどには、返って来た声に熱さは感じられない。

 どこか世間ズレした無機質な気配を漂わせる彼に、

「中立な第三者って所かな、君は? ディーラーを目指しているなら良い資質だよ。今年の新入生は良い子ばかりみたいだね」

 にこにこと笑顔を浮かべ言う真志しんじ。これに幸太こうたは、変わらぬ平坦な声で返した。

「中立って言うには、踏み込んじゃってますけどね。何せ賭けをしてますから、俺とにーなは」
「賭け、かい? それは僕が彼女の勝負を受けるかどうかってことかな?」
「いいえ、違います」

 幸太こうたの答えに、真志しんじは笑顔のまま、どろりとした気配を垂れ流した。

「違うのか~。という事は、僕と彼女の勝負の勝敗に、君は賭けをしたってことかな?」
「さぁ、どうでしょう? 応える義務が無いんで、答えませんよ」

 周囲の空気が尖っていく。肌を刺し削るような剣呑さを、笑顔を浮かべたままの真志しんじ一人で生み出していた。
 これに、真志しんじの後ろで控えるように立っている未来みきは溜め息をつくような表情で、真志しんじの視線を一身に受ける幸太こうたは平然とした表情のままで受けている。

 そして最後の一人、新和にいなといえば、

(こ、怖いーっ! なになになにっ! なんなのこの人ーっ!)

 めっちゃビビっていた。

(こーたのバカーっ! 怒らせてどうすんのよーっ! これから勝負する私の身になってよーっ!)

 ビビりまくりである。なぜなら新和にいなは、気が小さいのだ。
 けれど、彼女はポーカーフェイスで蠱惑的な笑みを浮かべたまま。
 それが出来るほどに、彼女は勝負師だった。

「良いね。気分が乗って来たよ」

 剣呑な気配を撒き散らしながら、笑顔で真志しんじは言う。

「生徒会長を勝ち取ってから、ろくに勝負を挑んでくる相手が居なかったしね。久々に、遊んで貰えそうだ」
「ええ。楽しく遊びましょう、会長。勝負を受けて頂いて、ありがとうございます」

 笑顔のまま、新和にいなは言う。脱いだパンツを手にしたまま。

「とりあえずパンツ履きなさい貴女は」

 頭痛を堪えるように言う未来みきに、

「え? そんな事しませんよ」

 新和にいなは不思議そうに軽く首を傾げ返すと、スカートのポケットにパンツを仕舞い込み、来客用に置いてあったパイプ椅子を広げ、執務机を挟み真志に向かい合うようにして座る。

「勝負が決まってないのに、積み上げていく物を降ろすような真似はしませんから。このまま、勝負をします」
「良い心がけだ。素晴らしい。そんな君にお願いがある」
「なんでしょう? 会長」
「もう少し椅子を後ろに引いて、見え易い位置に座った状態で足を組んでく――」
「アホかっ!」

 最後まで言わせる事なく未来みきのツッコミが入る。

「痛いじゃないか未来みき君! これから真剣勝負をする男の後頭部にチョップをするなんて、なに考えてるんだ」
「会長がなに考えてるかの方が知りたいです、こっちとしては」
「え、そんな……」
「顔を赤らめないで下さいマジ引きます。それよりも、どうするんです。これで勝負を受ける事になっちゃいましたけど」
「良いじゃないか。生徒会長になる前の日々が戻ってきたようだよ」
「……そりゃ、生徒会長の席を勝ち取る前は、毎日がギャンブル漬けみたいな日々でしたけどね。でも、良いんですか? 今回の勝負の条件で」
「何か問題があるかな?」

 真志しんじの言葉に、未来みきは小さくため息を一つ。僅かな間を空けて返した。

「バレない限りイカサマは有り。向こうから勝負を申し出て来ているんです、なにを仕込んできてるか分かりませんよ」
「楽しいじゃないか。心が躍るね」

 真志しんじは、無邪気と言ってもいい響きを滲ませ、未来みきに返した。 

「かわいい後輩たちが、僕の為にビックリ箱を用意してくれているかもしれないんだ。喜ぶべきだろう?」
「それに喜べるほどマゾじゃないです私は。まぁ、良いです。勝負に賭けられている物は大したものじゃありませんし、負けても痛くないですから」
「だよねぇ。新しいギャンブル部の創設なんて、僕の所に直談判に来なくても、教師に書類を申請すれば自動的に設立できるのに」

 真志しんじの言葉に偽りは無い。なにしろ彼らの在籍する獏兎高校は、ギャンブルに関わる人材を育てる学校なのだから。

 今から二十年前に施行された、改正統合型リゾート法により生まれた特別公営事業地域、いわゆるギャンブル特区である獏兎市が運営するここは、日常的に生徒達がギャンブルに勤しむ事を奨励している。

 それは未来のトップギャンブラーを育てる為ではあったが、結果として幾つものギャンブルにまつわる倶楽部が乱立している状態なのだ。
 なので、単純に倶楽部を設立するだけならば問題は無い。むしろ問題といえば、

賭け金よさんが無いとどうにもなりません。倶楽部を設立しても」

 新和が言うように、なによりもお金の問題だった。これに真志は平然と返す。

タネ銭よさんが無いなら、他所の倶楽部からぶんどってくれば良いじゃないか」
「会長。勝負して貰う為にもお金が要るんです。という訳で、倶楽部設立と同時に予算もこの場ですぐに下さい」

 清々しいぐらいに、図々しいことを言う新和。これに真志は、期待するような眼差しを向け返した。

「強気な子だねぇ。好きだよ、そういう子は。でもさぁ、それだとこっちが一方的に負担が大きくない? こっちは負けたら予算をあげるのに、そっちが負けたら何をくれるのかな?」
「あげられる物はありません」

 真志の問い掛けが終わると同時、即座に新和は応えを返す。
 それに笑みが深くなった真志が何かを言うよりも早く、新和は続けた。

「だから、私自身を賭けます。会長が私にして欲しいことを言って下さい。私が負ければ、何でもします」
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