獏兎高校ギャンブル部

笹村

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第1章 変則ポーカー

第2話 ルール説明 その①

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 戦いは、勝負をする前から始まっていた。

「勝負の種類は、僕が選ばせて貰っても良いかな?」

 真志しんじの申し出に、新和にいなは間を空けず返す。

「はい、良いですよ」
「気前が良いね」
「勝負をして貰っているのは、こっちですから。でもその代り、お願いを一つ聞いて貰っても良いですか?」
「なんだい?」
「バレなければイカサマは有りのルールですけど、バレちゃったら、その場で負けってことでも良いですか?」
「良いよ。僕は、する気は無いし。でも君は良いの?」
「勿論です。私もイカサマなんて、する気はないですから」
「そうなんだ」
「ええ」
「ははっ、そうなんだ~」
「そうですよ、ふふっ」

 お互い笑顔で、間に流れる空気はギッスギスである。

 ギャンブルは運の競い合いであると同時に、相手をいかに陥れ、操り読み切るかが重要な要素を持っている。
 だからこそ交渉と誘導に力を入れるのは大切だ。勝負の前から相手にマウントポジションを取られるようでは、先が見えている。

 なので、勝負の前からすでに舌戦という名の戦いは始まっているのだ。

「僕が選ばせて貰うとして、どうせなら君の好きなゲームで楽しみたいな。君は、どんなゲームが得意なんだい?」
「先輩が選んでくれる物なら、何でも良いです。先輩が得意なゲームで良いですよ」
「僕が得意なゲームねぇ……さて、何が良いかな~」
「先輩は得意な物が多いですから、選ぶのも大変ですよね。先輩達や先生達から聞いてます」
「そうなの? 勉強熱心だねぇ、君は」
「先輩のファンなんです。だから少しでも先輩の事を知りたくて。一生懸命、聞いて回ったんですよ」

 お前の事は調べ済みだ、ゴラァッ!

 端的に言うと、そんな感じに新和にいなはプレッシャーを掛けていく。
 それと同時に、単なる考え無しの素人ではなく、勝負に慣れたプレイヤーだという印象を少しでも植え付けようとしていた。
 僅かでも真志に迷いを植え付けることが出来れば良い。
 そんな気持ちで一杯なのだ。
 だが真志しんじは、じゃれてくる子猫を見るような目で見ながら返す。

「努力家だね、君は。お姉さんの佐々木水奈ささきみなさんとは、タイプが違うんだ」

 新和にいなは思わず笑顔のまま固まる。そして、

「あ、あにぇのことを――」

 思いっきり噛んだ。

「ばか……」

 頭痛を堪えるように呟く幸太こうたの声を背中で聞きながら、思いっきりテンパる新和にいな。表情だけはポーカーフェイスで、顔は真っ赤になっておめめぐるぐると泳いでいる。

「にゃ、にゃんで知ってるんですかっ」
「僕が生徒会長だからだよ」

 にっこりと笑顔で真志しんじは答える。

「君だけじゃないよ。この学校の生徒全員、最低限の事は知ってるよ。だって、いつかやり合うことになるかもしれない敵だからね」

 割とろくでもないことを笑顔で言う真志しんじ

「そもそも生徒会長になったのも、それが理由だし。一般生徒より、生徒会長の方が知り得る情報は多いからね」

 お前のしょぼい努力なんぞ無駄無駄無駄ぁっ!

 そんなことを言外に滲ませ、真志しんじは続けて言う。

「ハンデをあげる。そうでないとフェアじゃないからね」

 明らかな挑発。勿論、新和にいなの心を掻き乱す事が目的だ。
 これに新和にいなは、僅かに表情をこわばらせる。
 笑みで、ほころんでしまいそうになる自分を抑える為に。

(やったっ! なんか知んないけど、ハンデくれるんだ! ラッキーだよ!)

 それは弱者のしたたかさ。過程がどうであれ、僅かばかりの幸運でも喜び、自分の力に変えることの出来る強さを新和にいなは持っていた。
 だからこそ、相手の気紛れで手に入れたカードを、新和にいなは最大限に利用することに容赦はない。

「ありがとうございます、先輩。実を言うとホッとしてるんです。先輩みたいに強い人と勝負するなんて、どうすれば良いんだろうって思ってましたから」
「うわぁ、褒めて貰えると嬉しいねぇ。それを言うなら君だって、自分より強い相手と戦おうだなんて、勇気があるね」
「そんなことないです。だって、弱くても勝てるのがギャンブルじゃないですか」
「……うん、そうだねぇ。ははっ、気が合うなぁ。僕もそう思うよ」
「嬉しい! 相性ピッタリなんですね、私達。これだけ相性バッチリだと、先輩の好みも分かっちゃう気がします」
「僕の好み?」
「ええ。だから先輩、私にくれるハンデですけど先輩自身で決めてくれませんか?」

 あでやかに笑みを浮かべ、見詰めながら新和にいなは言った。

「好きでしょう? そういうの」

(……イイ性格してるわね、この子)

 新和にいな真志しんじのやり取りを静かに聞いていた未来みきは、心の中で呟く。

(ハンデを相手に委ねる。
 これだけなら相手に配慮してるみたいだけど、違うわよね)

 真志しんじから視線を逸らすことなく見詰め続けている新和にいなを見て未来みきは思う。

(どんなハンデなら相手を刺せる凶器になるか、分からないんでしょう?
 だからあえて相手に委ねた。
 本人であれば、何をされれば一番痛いか分かってるもの)

 そこまで思うと、真志しんじに視線を向ける。そして小さくため息一つ。

(……こっちはこっちで、それが分かってて喜んじゃってるし……)

 事実、真志しんじの顔には笑顔が浮かんでいた。それも蕩けるように楽しそうな笑顔が。
 それはある意味、真志しんじの悪癖だ。

 ギャンブルをする人間の目的と言えば、大きく分けて二つある。
『何かを得る為に賭ける』あるいは『楽しむ為に賭ける』だ。
 真志しんじは善人ではあるし、逸脱する事はあるが、常識だって持っている。けれど同時に、リスクを取る、という事に楽しみを見出してしまう人間でもあった。
 つまり『自分を刺すかもしれない武器を自分で並べ、自分で選べ』と言われているに等しい状況を喜んでいるのだ。

(こっちの事を調べてるのは、ハッタリじゃないみたいね。それに――)

 僅かに感心するような気持ちで、未来みき新和にいなを見詰める。

(間違いなくギャンブラーね、この子。幾ら調べた上で可能性があるからって、真志しんじの気分一つでどうとでもなる事を任せるなんて、博打以外の何物でもないもの)

 未来みきが思っている通り、それは一つの賭けだった。その結果を、真志しんじは示す。

「今回の勝負に使うゲームは、君に選んで貰うよ」

 指名されたのは、新和にいなの後ろで佇んでいた幸太こうた
 これに幸太こうたは、落ち着いた声で返した。

「何でも良いんですか? 例えば、俺がこの場で作ったゲームでも」
「好いよ。もちろん、ちゃんとルールは説明して貰うけどね」

 僅かに間が空く。幸太こうたは黙考を終えると、ゲームを告げた。
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