獏兎高校ギャンブル部

笹村

文字の大きさ
6 / 19
第1章 変則ポーカー

第3話 勝負 その①

しおりを挟む
 入念にシャッフルを繰り返し、ディーラーである幸太こうたは二枚のカードを裏のまま場に置く。

「先攻後攻を決めて下さい。どちらのカードを選びますか?」

 ディーラーとして無機質な声で言う幸太こうたに促され、新和にいな真志しんじの二人はカードに視線を注ぐ。

(まずは不運を、取りに行かないと)

 新和にいなの最初の選択は、それだった。

 勝つために、運と不運を意識する。
 それが新和にいなのギャンブルでの流儀スタンスだ。
 どうしようもなく運が欲しい。その時に巡り合わせる為に、まずは不運を積み上げる。
 現実的に考えれば意味がない。
 それを理解した上で、なお新和にいなは、そのやり方を今回の勝負では選び取った。

 けれど、それは真志しんじに防がれる。

「こちらを選ぶよ」

 カードが場に出され、幸太こうたが促すとほぼ同時に、真志しんじはカードを選んでいた。
 新和にいなが何か言うよりも早く、カードを捲る。
 クラブのジャック

「まぁまぁ、かな? さて、早くそちらのカードも見せてよ」

 僅かに言葉を早め、真志しんじは急かす。
 勝負が始まる前の、どこかゆったりとした声とは意図的に変えている。
 リズムを崩されプレッシャーを受けながら、新和にいなは残されたカードを捲った。

「おめでとう。君の先攻だ」

 ダイヤのキング。それを見た瞬間、新和にいなは思う。

(幸運を、押し付けられた)

 じわりと、自分の周囲の空気が薄くなったような気配に、新和にいなは思わず表情かおに出そうになった怯えを飲み込む。
 勝負の流れ。それが明らかに自分から離れたのを感じ取ったからだ。

(ダメだ……どこかで、不運を飲まないと)

 それはいつ、どのタイミングで?
 ポーカーフェイスのまま思考を巡らせる新和にいなを見詰めながら、真志しんじは思う。

(先攻の第一回目。ここで選択を間違えると致命的だが……頼むから、悪手は取らないでくれよ。つまらないから)

 期待に目を細める真志しんじを前に、新和にいなはカードを一枚捲る。
 ダイヤの4。それを確認すると同時に、新和にいなはコインを積み上げた。

「十枚、ベットします」
「好いね」

 返す真志しんじは即座にコイン十枚を積み上げ、

「フォールド。九枚、貰うよ」

 初回の勝負を迷いなく捨てた。

「このゲームの最悪な手は、なにか気付いてるかな?」

 裏になったままの、場に出されたカードを手元に寄せながら、真志しんじ新和にいなに呼び掛ける。

「勝てないのに最後まで勝負する。これが最悪だね。負けた挙句に、相手にも全てのカードを知られてしまうんだから。なら、二番目に最悪な手は?」

 返事は間を空けず返された。

「最初からフォールドするつもりの相手に、コイン一枚でカードをあげちゃうこと。ですよね? 先輩」
「うん、その通り。好かった。君が遊べる相手で」

 新和にいなの応えに真志しんじは、にっこりと笑顔を浮かべ賛同する。そして表情や視線の長さで内心を気取られないようにしながら、裏になっていたカードを確認した。

 真志のカードは、ダイヤのエースクイーン、そしてスペードのキング
 残りのハートの8とクラブの6を入れても役なし。

 それに対し新和のカードは、ハートのQ__クイーン__#と10、そしてスペードとクラブの7。
 一枚目のダイヤの4を入れてワンペアだった。

(運が良い、というべきだな、これは) 

 幸運な敗北を、真志しんじは冷静に判断する。
 新和にいなの読み通り、真志しんじは最初の勝負は捨てるつもりで挑んでいた。たとえどれほど自分の元に来たカードが良かったとしてもだ。

 今回の勝負は、配られたカードの中身を、プレイヤーは賭ける前には知ることが出来ない。その上、交換すら出来ない。

 つまり、運不運の要素が強すぎる。

 ただし、それは前半の話。勝負が進み後半になればなるほど、使用しなかったカードのみでゲームを続ける以上、予想が可能になって来る。
 前半を捨て、後半に賭ける。それが今回の勝負で、真志しんじが選んだやり方だった。

(もっとも、このやり方だと致命的な欠点があるけれど……いや、より正確に言えば――)

 カードを確認し終えた真志しんじは、僅かに幸太こうたへと視線を向ける。

(――ゲーム自体に欠陥があるよねぇ……意図的な物だろうけどさ)

 真志しんじの内心での呟きなど気付けない幸太こうたは、

「第二ゲームを始めます。よろしいですか?」 

 あくまでもディーラーとして勝負を進めて行く。そんな彼を見詰めながら、

「良いよ、続けよう」

 真志しんじは、第一ゲーム敗北の重さを感じさせない気軽さで返す。
 その一方、新和にいなは勝負の始まりからずっと、真志しんじを見詰めている。
 自分のカードを見ている時ですら、視界から可能な限り外すことなく。
 今も、視線を外さぬまま、

「私も準備は良いですよ、先輩。続けましょう」

 勝負の続きを促した。
 それとほぼ同時に、新たなカードが二人に配られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...