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第1章 変則ポーカー
第3話 勝負 その②
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第二ゲームの先攻は真志。気負いなくカードを捲り確認する。
「スペードのJか……ここは強気で行かせて貰おうかな」
積み上げるコインは十枚。
「さぁ、どうする?」
真志の呼び掛けに、新和はすぐには応えない。
僅かな、ほんの僅かな間。伸るか反るかの迷いを感じさせるような空白を置いて、
「十枚……コールします」
新和は視線を向けたまま、コインを積み上げカードを捲る。
ダイヤの2。
最弱のカードを確認することなく、
「フォールド。降りるよ」
真志は第二ゲームすら捨て、新和の知り得ぬカードの権利を手に入れた。そして、
「これで君の勝ちは確定した訳だが、この先、どうするのかな?」
真志は楽しそうに目を細め言い切った。
「残り三回の勝負の内、君の先攻は二回。
勝負を捨てればコイン一枚で二回とも負けて終れる。
僕の先攻の回で、最初に十枚賭けたとしても、すぐに降りれば負けは十枚。
だから今までの勝ちコイン二十枚から引いても、コイン八枚の勝ちで終われるね」
説明するまでもなく新和が気付いている事を確信しながら、真志はあえて説明する。
それは挑発ではなく、誘い。同時に見極めを兼ねていた。
(単にこの場での勝ち負けだけが目的なら、このまま勝ち逃げするだろうけど、そうじゃないだろ?)
真志は、生徒会室に新和たちがやって来た時の事を思い出しながら考える。
放課後、突如やって来るなり勝負を望み、パンツを脱ぐことを場代替わりの代償に持ち出してきた奇矯さ。
それらは間違いなく、真志に自分達を興味づける事が目的だ。そこまでは新和たちの行動から推測できる。
問題は、その先。それによって新和たちが何を得ようとしているか? それが問題だ。
(純粋にギャンブル部の設立と、それに必要な資金を得る為にこちらを負かす事が目的なら、それに相応しいゲームを用意する筈だ。自分達は絶対に負けず、可能な限り相手から奪えるような。
でも、違う。好きなゲームを用意して良いと、こちらが言ったにも拘らず出してきたのは、明らかに『ギャンブル』としては欠陥のある甘過ぎるゲームなんだから)
真志の考え通り、いま新和と二人で行っているゲームには欠陥がある。
それは前半の一、二戦で勝負が決まってしまい、相手がその気になれば、逆転が出来ないという点だ。
今回のゲームでは、賭けの上限が低く一定に設定されている。そのせいで、負けを取り戻すためにより多くを一度に賭ける、という事が出来ない。
(これはつまり、アレだよね。前半、特に最初の一戦は完全に運不運の勝負である事を考えれば、実力が上の相手でも勝てる可能性を組み込んだ上で、負けた相手が極端に損をしないようにしている訳だ……どうしようもなく、甘いゲームだよね)
そこまで考えつきながら、真志は誰にも気づかれないほど優しく笑う。
(甘いけれど、嫌いじゃないね。誰でも勝てるかもしれない、その上で敗者にも配慮したゲームってのは。実に平等公正で、優しいからね。その優しさの大半は、彼女の為、だろ?)
真志は、ディーラーとして中立を可能な限り保とうとする雰囲気を漂わせる幸太を、ちらりと見て思う。
(彼女が僕に勝てる可能性を作り、万が一負けても、手酷く損をしないように。負けた時の事も考えている以上、僕が勝てる可能性もある訳だ。じつにディーラーとして中立で、それでいて彼女想いだね)
そこまで考えつき、更にその先を直感する。
(新和君の意向を無視して、ディーラーである彼がゲームを出して来たならともかく、二人の様子から判断すればそれは無い。
つまり新和君は、僕に勝負で勝つことを望みながら、こちらの損を低く抑える事を望んでいる。
ということは、こちらに配慮してる訳だ。単純に優しいって理由もあるかもしれないけど、それよりも先々こちらとの縁を結びたいからだろ?
だったら、逃げずに勝負を受け続けるしかないよねぇ)
推論し読み取り直感した相手の意図、それに真志は賭け、最初の二戦をあえて捨てるという戦法を取っていた。その後の勝負を、有利にする為に。
その賭けの結末を、新和は口にする。
「つまらないですよ、先輩」
視線を逸らすことなく、艶やかな笑みを浮かべ新和は続ける。
「私は先輩と、勝負をしに来たんです。ただ勝つために来たんじゃありません。だから、勝負を続けましょう、先輩」
これに真志は獰猛な笑顔で返す。
「好い応えだ。嬉しいよ」
返すと同時に、裏になったカードを確認する。
新和のカードは、スペードの2と9と10。そしてクラブの5。
表で出されたダイヤの2と合わせてワンペア。
対して真志のカードは、クラブの9とQ、そしてスペードの6とハートのK。
表で出されたスペードのJを入れても役なし。
この時点で、真志が知ることの出来たカードは二十二枚。
それに対し新和は五枚の中、三戦目のカードが配られた。
「スペードのJか……ここは強気で行かせて貰おうかな」
積み上げるコインは十枚。
「さぁ、どうする?」
真志の呼び掛けに、新和はすぐには応えない。
僅かな、ほんの僅かな間。伸るか反るかの迷いを感じさせるような空白を置いて、
「十枚……コールします」
新和は視線を向けたまま、コインを積み上げカードを捲る。
ダイヤの2。
最弱のカードを確認することなく、
「フォールド。降りるよ」
真志は第二ゲームすら捨て、新和の知り得ぬカードの権利を手に入れた。そして、
「これで君の勝ちは確定した訳だが、この先、どうするのかな?」
真志は楽しそうに目を細め言い切った。
「残り三回の勝負の内、君の先攻は二回。
勝負を捨てればコイン一枚で二回とも負けて終れる。
僕の先攻の回で、最初に十枚賭けたとしても、すぐに降りれば負けは十枚。
だから今までの勝ちコイン二十枚から引いても、コイン八枚の勝ちで終われるね」
説明するまでもなく新和が気付いている事を確信しながら、真志はあえて説明する。
それは挑発ではなく、誘い。同時に見極めを兼ねていた。
(単にこの場での勝ち負けだけが目的なら、このまま勝ち逃げするだろうけど、そうじゃないだろ?)
真志は、生徒会室に新和たちがやって来た時の事を思い出しながら考える。
放課後、突如やって来るなり勝負を望み、パンツを脱ぐことを場代替わりの代償に持ち出してきた奇矯さ。
それらは間違いなく、真志に自分達を興味づける事が目的だ。そこまでは新和たちの行動から推測できる。
問題は、その先。それによって新和たちが何を得ようとしているか? それが問題だ。
(純粋にギャンブル部の設立と、それに必要な資金を得る為にこちらを負かす事が目的なら、それに相応しいゲームを用意する筈だ。自分達は絶対に負けず、可能な限り相手から奪えるような。
でも、違う。好きなゲームを用意して良いと、こちらが言ったにも拘らず出してきたのは、明らかに『ギャンブル』としては欠陥のある甘過ぎるゲームなんだから)
真志の考え通り、いま新和と二人で行っているゲームには欠陥がある。
それは前半の一、二戦で勝負が決まってしまい、相手がその気になれば、逆転が出来ないという点だ。
今回のゲームでは、賭けの上限が低く一定に設定されている。そのせいで、負けを取り戻すためにより多くを一度に賭ける、という事が出来ない。
(これはつまり、アレだよね。前半、特に最初の一戦は完全に運不運の勝負である事を考えれば、実力が上の相手でも勝てる可能性を組み込んだ上で、負けた相手が極端に損をしないようにしている訳だ……どうしようもなく、甘いゲームだよね)
そこまで考えつきながら、真志は誰にも気づかれないほど優しく笑う。
(甘いけれど、嫌いじゃないね。誰でも勝てるかもしれない、その上で敗者にも配慮したゲームってのは。実に平等公正で、優しいからね。その優しさの大半は、彼女の為、だろ?)
真志は、ディーラーとして中立を可能な限り保とうとする雰囲気を漂わせる幸太を、ちらりと見て思う。
(彼女が僕に勝てる可能性を作り、万が一負けても、手酷く損をしないように。負けた時の事も考えている以上、僕が勝てる可能性もある訳だ。じつにディーラーとして中立で、それでいて彼女想いだね)
そこまで考えつき、更にその先を直感する。
(新和君の意向を無視して、ディーラーである彼がゲームを出して来たならともかく、二人の様子から判断すればそれは無い。
つまり新和君は、僕に勝負で勝つことを望みながら、こちらの損を低く抑える事を望んでいる。
ということは、こちらに配慮してる訳だ。単純に優しいって理由もあるかもしれないけど、それよりも先々こちらとの縁を結びたいからだろ?
だったら、逃げずに勝負を受け続けるしかないよねぇ)
推論し読み取り直感した相手の意図、それに真志は賭け、最初の二戦をあえて捨てるという戦法を取っていた。その後の勝負を、有利にする為に。
その賭けの結末を、新和は口にする。
「つまらないですよ、先輩」
視線を逸らすことなく、艶やかな笑みを浮かべ新和は続ける。
「私は先輩と、勝負をしに来たんです。ただ勝つために来たんじゃありません。だから、勝負を続けましょう、先輩」
これに真志は獰猛な笑顔で返す。
「好い応えだ。嬉しいよ」
返すと同時に、裏になったカードを確認する。
新和のカードは、スペードの2と9と10。そしてクラブの5。
表で出されたダイヤの2と合わせてワンペア。
対して真志のカードは、クラブの9とQ、そしてスペードの6とハートのK。
表で出されたスペードのJを入れても役なし。
この時点で、真志が知ることの出来たカードは二十二枚。
それに対し新和は五枚の中、三戦目のカードが配られた。
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