転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

文字の大きさ
48 / 115
第一章 街を作る前準備編

16 戦いは、終ってからの方が気苦労が多い その①

しおりを挟む
「ごめん、有希。こんな夜遅くに」
「気にしなくても良いっすよ。事態が事態っすから」

 魔物達を撃退した俺たちは、そのあと全力で、有希の自宅でもあるお店に訪れていた。
 深夜なので気が引けたが、有希は事情を話すと迅速に動いてくれた。

「ララとロッカもごめんな。眠いだろう」

 有希が引き取った元奴隷の子供達、綺麗な真紅の髪をしたララと、艶のある黒髪のロッカの2人は、夜中に起こされたというのに落ち着いた声で返してくれる。

「大丈夫です。もう子供じゃないですから」
「うん。俺も、平気だよ」

 元の世界なら、ようやく中学生になったばかりの2人は、今までの境遇もあるのか大人びている。
 でもロッカが背負っているリトは、まだまだ子供だ。背負われ眠そうに目を擦りながら、 

「ふぁたしも……らいじょうぶ……」

 背伸びするように、返すのが精いっぱいだった。
 寝ていたリト達まで起こされているのは、万が一のことを考えてのことだ。
 魔物を倒した後にここに来るまで、誰かに付けられている気配は無かったけれど、用心は重ねるに越したことはない。
 子供達だけを残しておく訳にはいかないので、一緒に屋敷まで連れて行く事にしたんだ。

「よし。準備が整ったっすよ」 

 有希はそう言うと、店の壁の一つに、神与能力でチートスキル扉を創り出す。

「じゃ、行こうか」

 時間が惜しいので、扉を開け中に入ろうとすると、

「待って下さい。その扉は何なんですか? 魔術、では無いですよね? 神の奇跡に見えますが、神与能力でチートスキルですか?」

 有希の店に来てから口を挟んで来なかったカルナが、不安を押し殺して問い掛けてくる。

「ここでミリィを治してくれるんじゃないんですか?」

 いかん、考えが足らなかった。
 こっちも周囲を警戒しながらここまで移動してたり、これからどう動くべきかを悩んでいたせいで、カルナへのフォローが足りてなかった。
 だから、カルナを安心させてあげるためにも、正直に全部話す。

「ごめん。こっちも余裕が無くて説明が出来てなかった。今の内に、全部話すから」

 まっすぐに目を合わせ言う俺に、カルナは我に返るように息を飲むと、

「いえ、こちらこそすみません。勝手なことを言って……」

 自分を責めるように返してくる。
 だから、安心させるように柔らかな声で俺は言った。

「大丈夫。ミリィは助かるから。確認するためにも魔物の攻撃を受けてみたけど、この程度の魔術毒なら、まだ容体が急変するようなことは無いよ」
「陽色ど……陽色も、毒を受けているのですか?」
「うん。だから、ちょっとまだ痺れてるけどね。でもそのお蔭で、ミリィの状態も予測できてるから、安心して」
「……はい」

 泣きそうになるのをこらえるようなカルナに、俺は続けて言った。

「今から彼の、有希の神与能力でチートスキルを使って、俺の屋敷まで移動する。空間接続系の能力だから、すぐに着くよ」

 これに、カルナは表情を強張らせる。

「それは……そんな物を、私に見せても構わないのですか?」
「良いよ。友達だもん。でも、出来れば他の人には言わないでね。親しい皆との、秘密だから」
「……はい。誓って、必ず」

 思いつめたように返すカルナ。ちょっと後ろめたくなる。
 有希の能力は、ある意味切り札になり得る能力なので隠しておきたいものではあるけども、バレたらバレたで、どうにでも出来るように皆で話し合いは終わっている。
 なので、命を懸けるような勢いで誓いを立てるカルナを見てると、罪悪感が。なのではあるが、

「これだけの秘密を教えて頂いたのです。その信頼を裏切るような真似は、魔術神マゲイアの名に誓って、違えません」

 更にカルナは誓約を口にする。
 うぅ、罪悪感で心が痛いよぅ……。

「胃が痛そうな表情してんな、陽色」
「分かってんなら突っ込むの止めてくれ和真」

 へらへら笑いながらからかう和真に、カルナはいぶかしげな表情になってる。
 そんなカルナに、俺は続けて秘密を打ち明ける。

「気にしなくて良いよ、カルナ。これぐらいのことは、そう大した事は無いから」
「……そう、なのですか? ですが、空間干渉の神与能力など、神の力をそのまま使うような物です。そのような大それた物を、私がもらす訳にはいきません」
「うん……それは、そうなんだけど、これぐらいなら、大したことないよ。だって、これから神の力じゃなくて、本人に会うわけだし」
「……は?」

 意味が分からない、という表情かおをするカルナに、

「これから屋敷に行ったら、俺の女神のリリスにミリィを癒して貰うから。こっちは、特に秘密にしてね」
「…………は?」

 完全にカルナは言葉に詰まると、

「それは……何かの比喩なのですか? 一体、どういう……」

 混乱しているのか、途切れ途切れに問い掛けてくるカルナに、俺は落ち着かせるようにゆっくりと返す。

「比喩じゃなくて、そのままの意味だよ。
 俺がこの世界に召喚されて、リリスの勇者として契約した時、その時に神から与えられる恩恵のほとんどを費やして、リリスがこの世界に実体化できるようにしたんだ。
 それで、今は俺の彼女として一緒に暮らしてるから。屋敷に戻りさえすれば、ミリィを癒して貰えるように頼めるよ。
 だから安心して、カルナ」 
「……………………は?」

 気のせいか、完全に固まるカルナ。

「ひいろっち。最初っから全開で教え過ぎっすよ。混乱しちゃってるっすよ」
「……えっと……そうかな?」
「そうっすよ。こっちの世界の人達にしたら、リリスっちは信仰の対象っすよ。
 それが隙あらば、ひいろっちといちゃいちゃしたり惚気てきたりエロエロしてるとか、言われても混乱するだけっすよ」
「そうかなぁ?」

 そう言われても実感がわかない。
 のではあるけれど、カルナの表情を見てると、もっと自重しておいた方が良かった気もする。
 なので、話を切り替える。

「それよりも、もう準備は出来たんだろ、有希。悪いけど扉を開けてくれる?」
「分かったっすよ」

 有希は、すぐに応えてくれる。
 そうして独りでに開いた扉を前にして、

「それじゃ、行こう」

 俺たちは、屋敷へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...