64 / 97
64話
しおりを挟む
頬を桜色に紅潮させた麗羅符露。
海の色を映したような少女の青い瞳は、じっと 李玲峰 に向けられていた。
「炎の心 と 水の心 が一つとなるとき、水の封印を解き、人の世に 海 を返す。
それは、この世を今の姿にした時の約束事だからな。
約束は守る。
いささか不本意ではあるが」
水の精霊王 は気難しげに語った。
「かつて、互いに図って、この星に生命を送り出したのはこのわし、水の精霊王 と 炎の精霊王 とだった。
わしらはその時、全ての生命の萌芽は、この海から送り出した者じゃよ。
しかし、人がこの星を火の球に変えたとき、わしはこの海をそなたらから取り上げることにした。
そして、約束をした。
もし、宝剣 の炎の心と水の心が交わることがあれば、人を海に返す、と。
ま……結局、延々とそういうことは無くて来たわけだが」
コホン、と 水の精霊王 は咳払いをした。
「この変容のために世界がどういうふうになるのか、それはわしも知らぬ。
良き方向へ行くか、悪しき方向へ向くのか、それはそなたらが決めることだ。
世界は水に満ちたが、大地は定着してはおらぬ。相変わらず大陸は浮き島だ。大気にではなく、水に浮くようになっただけで。
もし大陸を、大地を定着させたいなら、そなたらは 大地の宝剣 を得ねばならぬ」
「大地の宝剣」
これまで、一度も見出されたことが無いという、大地の宝剣 。
(於呂禹)
大地に愛された、金髪の髪 於呂禹 。
大地の御子 。
李玲峰 の心は痛んだ。
李玲峰 はその彼の胸板に剣を突き立て、彼を殺そうとした。
「そして、その時、世界は全き姿を取り戻すわけだ。あとのことは 大地の精霊王 の心次第だな。
では、わしは行くぞ、愛し子たち。 精霊の御子 らよ。
さらばだ」
水の精霊王 の巨大な頭が水の中へと沈んでいく。
白銀の髪の少女の姿はそこに残った。
「麗羅符露」
李玲峰 が呼ぶと、麗羅符露 を乗せた波が動いた。
波は彼女を、李玲峰 がいる水際へと運んだ。
少年はマントを脱いで、少女の裸身に投げかけた。
「レイラ」
少年は、水の精霊王 から託された少女の肩を固く抱き締めた。
暖かい。
麗羅符露 の体は、暖かかった。
冷たい水の中でしか生きられなかった 麗羅符露 の体は、いつも氷のように冷たかったものなのに。
今は炎が灯ったかのように暖かい。
「イレー、あなたのおかげなのよ」
麗羅符露 は微笑んだ。
「あなたが、炎をくれたから。
あたしは、氷を溶かすことが出来たの」
「麗羅符露」
愛しい、と 李玲峰 は思った。
折れそうに細い、たおやかな肢体を持つ少女を、李玲峰 は心の底から愛おしい、と思った。
炎のように。
麗羅符露 ははにかむように眩しげに微笑み、海の底から抱いてきた 宝剣 を差し上げた。
「イレー、これを」
李玲峰 に手渡された 宝剣 は、ずっしりと重くなっていた。
「これは?」
「あなたの 宝剣 よ。でも、あたしの 宝剣 でもあるわ……イレー」
確かに、それは彼の 炎の宝剣 だった。
炎の精霊の力が感じられる。
でも、そこからはまた別な力も感じられた。
水の精霊の力。
炎と水、二つの精霊の力が一振りの剣に一つとなって封じ込められていた。
これは今や、水と炎の宝剣 だった。
宝剣 のうちの二振りの剣は一緒になり、一本の剣となったのだ。
李玲峰 は、宝剣 から力を感じた。
炎の熱き力、そして、水の慈愛の力。
二人は抱き合って、海をみつめた。
李玲峰 の腕の中で、麗羅符露 は微かに震えていた。
世界の変容の時が、今、始まろうとしていた。
海の色を映したような少女の青い瞳は、じっと 李玲峰 に向けられていた。
「炎の心 と 水の心 が一つとなるとき、水の封印を解き、人の世に 海 を返す。
それは、この世を今の姿にした時の約束事だからな。
約束は守る。
いささか不本意ではあるが」
水の精霊王 は気難しげに語った。
「かつて、互いに図って、この星に生命を送り出したのはこのわし、水の精霊王 と 炎の精霊王 とだった。
わしらはその時、全ての生命の萌芽は、この海から送り出した者じゃよ。
しかし、人がこの星を火の球に変えたとき、わしはこの海をそなたらから取り上げることにした。
そして、約束をした。
もし、宝剣 の炎の心と水の心が交わることがあれば、人を海に返す、と。
ま……結局、延々とそういうことは無くて来たわけだが」
コホン、と 水の精霊王 は咳払いをした。
「この変容のために世界がどういうふうになるのか、それはわしも知らぬ。
良き方向へ行くか、悪しき方向へ向くのか、それはそなたらが決めることだ。
世界は水に満ちたが、大地は定着してはおらぬ。相変わらず大陸は浮き島だ。大気にではなく、水に浮くようになっただけで。
もし大陸を、大地を定着させたいなら、そなたらは 大地の宝剣 を得ねばならぬ」
「大地の宝剣」
これまで、一度も見出されたことが無いという、大地の宝剣 。
(於呂禹)
大地に愛された、金髪の髪 於呂禹 。
大地の御子 。
李玲峰 の心は痛んだ。
李玲峰 はその彼の胸板に剣を突き立て、彼を殺そうとした。
「そして、その時、世界は全き姿を取り戻すわけだ。あとのことは 大地の精霊王 の心次第だな。
では、わしは行くぞ、愛し子たち。 精霊の御子 らよ。
さらばだ」
水の精霊王 の巨大な頭が水の中へと沈んでいく。
白銀の髪の少女の姿はそこに残った。
「麗羅符露」
李玲峰 が呼ぶと、麗羅符露 を乗せた波が動いた。
波は彼女を、李玲峰 がいる水際へと運んだ。
少年はマントを脱いで、少女の裸身に投げかけた。
「レイラ」
少年は、水の精霊王 から託された少女の肩を固く抱き締めた。
暖かい。
麗羅符露 の体は、暖かかった。
冷たい水の中でしか生きられなかった 麗羅符露 の体は、いつも氷のように冷たかったものなのに。
今は炎が灯ったかのように暖かい。
「イレー、あなたのおかげなのよ」
麗羅符露 は微笑んだ。
「あなたが、炎をくれたから。
あたしは、氷を溶かすことが出来たの」
「麗羅符露」
愛しい、と 李玲峰 は思った。
折れそうに細い、たおやかな肢体を持つ少女を、李玲峰 は心の底から愛おしい、と思った。
炎のように。
麗羅符露 ははにかむように眩しげに微笑み、海の底から抱いてきた 宝剣 を差し上げた。
「イレー、これを」
李玲峰 に手渡された 宝剣 は、ずっしりと重くなっていた。
「これは?」
「あなたの 宝剣 よ。でも、あたしの 宝剣 でもあるわ……イレー」
確かに、それは彼の 炎の宝剣 だった。
炎の精霊の力が感じられる。
でも、そこからはまた別な力も感じられた。
水の精霊の力。
炎と水、二つの精霊の力が一振りの剣に一つとなって封じ込められていた。
これは今や、水と炎の宝剣 だった。
宝剣 のうちの二振りの剣は一緒になり、一本の剣となったのだ。
李玲峰 は、宝剣 から力を感じた。
炎の熱き力、そして、水の慈愛の力。
二人は抱き合って、海をみつめた。
李玲峰 の腕の中で、麗羅符露 は微かに震えていた。
世界の変容の時が、今、始まろうとしていた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる