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プロローグ

少女の永遠とド変態野郎

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 今日の髪型は非常にシンプル。
 左側の前髪と横髪の一部を編んで、耳の前で垂らすだけ。そして編んだ髪の毛の先端辺りを赤い紐で結ぶ。
 ああっ、相変わらず可愛い。

 しかし、いくら可愛くても、竜殺しの悪魔という称号を貰っても、強くなれるわけではない。
「邪王炎殺剣!!」
 スカンッ
 ポカポカポカポカ
 剣技の授業でテトにボコられる。しかも圧倒的に。
「……」
 ただ最近違うのはテトが絡んで来なくなった事。特に何を言うでもなく下がる。これは楽だぜ。ストレスも溜まらんしな。
「大丈夫、シノブちゃん?」
「もちろん、リアーナが霞んで10人くらいに見えるけど大丈夫だよ」
「全然、大丈夫じゃない!!?」
「まぁ、それは冗談として。どうすれば剣って強くなれるのかな?」
 そりゃ、俺だって、強くなれるなら強くなりたい!!
「えっと、やっぱり凄く強い人に教わる……とか?」
「……お父さんがいるじゃん!!」
 アデリナさん並に強いんだから、お父さんに習えば良いんだよ!! それにお姉ちゃんもいるし!! お姉ちゃんも剣は強いんだからさぁ!!
「あっ、あとちょっと離れた所に剣の道場があったよね?」
「あったっけ?」
「あったよ」
 ……待てよ。
 お父さんとお姉ちゃんに教わるのも良い……しかし強くなって、二人をビックリさせてやる方がよっぽど面白いのではないか。
「ちょっと行ってみようかな。道場の場所分かる?」

 ……というわけで、帰宅後、さっそくヴォルフラムとその道場を訪ねてみたわけだが……
「シノブ。本当にここか?」
「聞いた場所はここだけど……」
 ボロッボロの建物がそこにあった。
「でも小説とかの物語ではこういうボロボロの道場に凄い達人が居たりするんだよ」
「それは小説の話。本当に強い達人が居るなら、こんな道場にならない」
「うん。ヴォルの言う事がもっとも。よし、帰ろう」
 と踵を返すのだが……
「娘よ。それで良いのか?」
 振り返ったそこには……
「ムッキムキや!!」
 筋肉ムッキムキのオッサンが居た。なんで上半身が裸かは分からないが、はち切れんばかりの胸筋にそんな疑問は吹き飛んでしまう。
 俺も元は男、筋肉の魅力には勝てないのだ。
「あの、おじさんがここの先生でしょうか?」
「おじさんではない。まだお兄さんだ」
「お、お兄さん?」
 どう見てもオッサンの年齢なんだけど……そこはかとなくハゲてるし。
「強くなりたいからここを訪れたのだろう?」
 自称、お兄さんが剣を取り出す。それも剣の長さは俺の背丈以上もある長剣。それを片手で難なく振り回しポーズを次々と決めていく。
「すげぇ……」
「ちょっとシノブ……」
「見て、ヴォル。あの筋肉……ナイスバルク、ナイスカット、切れてるよぉ~」
「シノブが変な事を言い出した……」
「私、剣を習いたいんです!! 強くなりたいんです!!」
「ほほう。強くなりたいか……」
 オッサン、いや、お兄さんは俺の体をペタペタと触る。
「……お前はきっと強くなる」
「マジで!!?」
「マジで、マジで」
 そんな事を言われたのは初めてだ!!
 俺ここに通って修行するよ!!
「あっ……でも授業料とか……」
「そんなものは必要無い。俺は才能のある若者を強くしてやりたいだけなんだからな」
「師匠ぉぉぉぉぉっ!!」
「シノブ!! シノブ!! 落ち着いて!! 一応、マイスやセレスティに相談してからでも……」
「でもそれじゃお父さんをビックリさせられないじゃん」
「だからって……」
 その間も次々にポージングを決めていく師匠。
「大丈夫だって。だからお父さん達には内緒ね」
「……どうなっても知らないぞ」
 ヴォルフラムは不満そうに言うのだった。

★★★

 それから数日、学校の後、道場に通ってみた。
「シノブ。明日からは代えの下着を持ってこい。汗に濡れたまま帰られて体調を崩されたら困るからな。ここで風呂に入っていけ」
「分かりました師匠!!」
 かなり動くので汗ダクダクだ。ここで風呂に入れるならありがたい。
 そして翌日。
「今日はここまで!!」
「はぁはぁ、あ、ありがとうございます、はぁはぁ」
 今日もよく動いた。下着まで汗で濡れて気持ち悪い。
「風呂に入れ。風呂とは身を清める行為。清められた体に清い心。それは剣の道に重要なものなのだ」
「はい!! 師匠!!」
 家からは代えの下着とお風呂セットは持参してある。
 風呂場で汗を流しつつ、自分の体を見る。
 やっぱり数日で変わるわけないか。どこもかしこも細く小さく、でも柔らかい。子供の体。筋肉も無ければ胸も無いってか、笑っちゃうぜ!!
「っ!!?」
 一瞬、背後で人の気配があったような気がしたけど……気のせいか。まぁ、俺はヴォルフラムや師匠と違って気配とかを察知する力は無いしな。

 次の稽古日。今日は剣の構えをしっかり教え込まれる。
 師匠が手取り足取り、細かく指導をしていく。
「腕の場所はこう!!」
「はい!!」
 師匠が肩から指先まで、俺の体をその場に固定するように触っていく。
「背中を伸ばすように!!」
「はい!!」
 首の後ろからお尻の方まで背骨を確認するように師匠の手が何度も上下する。
「足の位置はここだ!!」
「はい!!」
 師匠の手が俺の足に触れる。太ももの辺りを重点的に触り、筋肉の状態を確認しているようだ。ただ上下する手が股下に触れそうになるのが困るが、これも剣の為!!
「重心を意識しろ!! 意識するのは腰とここだ!!」
「はい!!」
 師匠の手が腰回りをガシッと掴む。そしてお尻にも手が回る。た、確かに尻と言うか骨盤は重心という意味で非常に重要だ……と思う。
「そして剣を振るには胸の筋肉も必要だぞ!! ここ!!」
「はい!!」
 師匠の手が胸に。
 スリスリ……スリスリスリスリ
「……師匠?」
 さ、触り過ぎじゃないですか?
「こ、これが剣の構え!!」
「は、はい!!」
 最近、何かおかしいような気がする……本当に気のせいだろうか……
 ……気のせいならば良いんだが……

 また次の稽古日。
 今日も汗で濡れた体をお湯で流す。そして石鹸を使い、体の汚れを落としていく。俺は肌が少し弱いらしく、自分の手で体を洗う事が多い。
 腕やお腹、足を洗いながら自分で確認するが……うん、筋肉とか全く無いな。これで剣を自由に振るう事が出来るんだろうか……まぁ、もっと長い目で考える事が必要か。
 後はお尻とかをしっかり洗ってっと。手を滑り込ませる。
 ……やっぱり誰かに見られているような気がする!!
 こっち!!?……違うか。
 まさかこっち!!?……気のせいか。
 もしやこっちに!!?……やっぱり違うか気のせいか。
 ただしかし異変は稽古の後、帰宅してから起こったのだ。
「無い……」
 下着が……パンツが無ぇ……しかも運動して汗でビショビショのヤツが……師匠の家か? もしかして落とした? さ、さすがに汚れたパンツを他人に見られたら恥ずかしいぞ……
 持ち帰ったつもりのパンツが見当たらない。
 いや、まさかと思うが師匠が……いやいやいやいや、我が師匠を疑るなんて……でもよく思い出してみれば、ボディタッチも半端無ぇ。
「ヴォルぅーヴォルぅー」
「いや、そんなに呼ばなくても居るから」
「ヴォル。師匠を率直にどう思う?」
「胡散臭い」
「な、何で?」
「強い感じがしない。見てても全く怖くない」
「で、でも筋肉が……」
「筋肉量で強さが決まるなら、あの男より、その辺りのウッシーとかウッマーの方が強い事になる」
 ウッシーやウッマーは牛や馬に似た動物である。
「もしかして私は騙されていたりする?」
「もっと早く気付くと思った」
「……言ってよ」
「筋肉筋肉って話を聞かないシノブが悪い」
「そうだけど……でもまだ騙されてるって決まったわけじゃないし!!」
 そう全ては俺の勘違いかも知れない!!
「往生際が悪い」

 そして今日は稽古の日。
 意識してみれば、俺の体を触る回数が異常に多いような気がする。
 ペタペタ、サワサワ、スリスリ、モミモミ
 そしていつも通りお風呂に入る……もしかして見られているかも知れない。時既に遅しな感じもするが、体を隠しながら汗を流す。
 ……いつも汚れた下着は、汗で汚れた他の服に包んで纏めて置いてある。それを無造作にバッグの中に入れて持ち帰っていたのだが……マジかよ……無ぇよ……
 お風呂を出て脱いだ服を確認するとパンツが無い。
 師匠……場合によっては殺すしかねぇ……
 だがここはグッと堪え、いつもの顔をして道場を後にする。
「では師匠、今日も一日ありがとうございました!!」
「うむ。気を付けて帰れ」
「はいっ!!」
 と、道場を出るのだが……
「ヴォル」
「分かっている」
 ヴォルフラムを連れて道場へと戻る。そして耳打ちをする。
「どう?」
 ヴォルフラムはクンクンと鼻を鳴らし……
「する。シノブの匂い。それとシノブの汗の匂い。あと……」
「あと?」
「少しオシッコの匂い」
 ブチチチチッ
「毛を毟るな」
 そのヴォルフラムの鼻を頼りに覗き込んだ一室に……師匠は居た。
「ふふっ、匂いや湿気を逃がさないように、しっかりと保存せねば」
 俺のパンツをガラス瓶の中に詰め込んでいた。
「少女の永遠をこの中に閉じ込めるのだ」
 なんか気持ち悪い事を言ってるし……よし、殺すか。
 部屋に踏み込む。
「このド変態が……」
「シノブ!!?」
「半殺しじゃ済まんからな!!」
「ま、待て!! まだこっちは匂いを嗅いだりはしていない!!」
「こっち!!? じゃあ、前のヤツはもう……」
「よ、良いか、シノブ。剣の道とはパンツの道とも……」
 その瞬間、俺の体が淡い光を発した。
「全殺しじゃぁぁぁぁぁっ!!」
「ぬわーーっっ!!」
 道場大爆発。
 師匠は吹き飛び、道場は瓦礫へと変わるのであった。

★★★

「シノブちゃん、おはよう」
「おはよう、リアーナ」
「ねぇねぇ、シノブちゃん、前に話した道場の話なんだけど」
「……そんな事もあったね」
 俺の剣技でビックリさせようと道場の事はリアーナにも黙っていた。
「その道場が昨日、原因不明の爆発で無くなっちゃったんだって!!」
「残念だったね」
「それがね、残念じゃないの。その道場の人ね、いつの間にか勝手に空き家に住み込んで、女の人にイタズラをするって噂の危ない人だったんだよー」
 先に知りたかったわ、その情報。
 実際に通っていたなんて知られると恥ずかしいから誰にも黙っていよう……

 これから剣技の授業。
 今日もテトにボコられるんだろうな。悔しいぜ。
 スッと模造剣を構えて。
 あのド変態に教わった通りに構えてみる。
 そして……
 スパコーンッ
 俺の振り下ろした一撃がテトの頭を打つ。
「シノブちゃんの勝ち?」
 えっ? マジで? 初めてじゃない? 俺がテト相手に勝つのって。
 ま、まさか師匠……あんた本当に剣の達人だったんじゃ……
 その後、やっぱりボコられた。さっきの一撃はまぐれだったようだ。
 やっぱ、アイツは剣の達人じゃねぇ……ただのド変態野郎だよ……
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