上 下
3 / 55

第3話:婚約破棄したいです

しおりを挟む
「待って、マーガレット。君が心配だから僕が送っていくよ」

なぜか私の馬車に乗り込もうとしてきたジェファーソン様。はっきり言って今は、ジェファーソン様の顔も見たくない。

「私は大丈夫ですわ。とにかく今は、1人にして下さい」

「いいや、今の君を1人になんて出来ないよ。マーガレット、聞いてくれ。僕は君を心から愛している。これだけは本当だ。だからどうか、僕の話を…」

「心から愛しているですって?申し訳ございませんが、私は心からあなた様を軽蔑しております。吐き気がおこるほどに。どうかこれ以上私に関わらないで下さい!」

マリンをあれほどまでに求めていたくせに、一体どの口がそんな事を言えるのだか!怒りから再び涙が溢れ出る。

「マーガレット、本当にすまない。とにかく僕の話を…」

「ジェファーソン殿、一体何があったかは知らないが、マーガレット嬢はあなたと今は一緒にいたくないと言っているよ。1人にしてあげたらどうだい?」

話しに入って来たのは、ローイン様だ。彼は侯爵令息、ここにいる残りの3人は皆伯爵家の人間。さすがに侯爵令息でもあるローイン様にそう言われては、これ以上はジェファーソン様も何も言えない様で、すっと引き下がった。

ただ…

「ローイン様、マーガレットは嫉妬深く、罪もないジェファーソン様に酷い暴言を吐いたのですよ。どうしてマーガレットを庇うのですか?これじゃあ、あまりにもジェファーソン様がお気の毒ですわ」

何を思ったのか、マリンが急に口を挟んできたのだ。何がお気の毒よ!本当に腹ただしいわ。

「マリン、君は少し黙っていてくれるかい?そもそも、本当にジェファーソン殿には罪がないのかな?まあいい。マーガレット嬢、今日はもう帰るといい。さあ、馬車に乗って」

スッと私の手を取ると、そのまま馬車に乗せてくれたローイン様。

“君は何も心配する必要はない”

「えっ?」

耳元で何かを呟くと、ローイン様はにっこりとほほ笑み馬車から降りて行った。そしてドアを閉めてくれる。

今、なんて言った?何も心配する必要はない?一体どういう事だろう。よくわからないが、ローイン様のお陰で助かった。

でも…

さっきの光景が脳裏に焼き付いて離れない。そう、ジェファーソン様とマリンが、何度も口づけをし、抱き合っている姿を…

私とジェファーソン様が婚約を結んだのは、今から7年前、私たちが9歳の時だった。両親同士が決めた婚約ではあったが、それなりに仲良くやって来たつもりだった。

優しくていつも私を気遣ってくださるジェファーソン様に、次第に惹かれていった。彼とならきっと、素敵な家庭を作れる、そう思っていたのに…

まさかこんな風に、裏切られていたなんて。思い返してみれば、手を繋いだことはあったけれど、口づけなんてしたことなかったな…私はマリンの様に魅力的な女じゃなかったから、口づけすらしてくれなかったのかしら?

考えたくないのに、ついついそんな事を考えてしまう。

屋敷に着くと、そのまま自室に戻ってきた。

「お嬢様、随分と遅いお帰りだったのですね。顔色が悪い様ですが、大丈夫ですか?」

専属メイドのリリアンが心配して飛んできた。

「ちょっと色々とあって、少し体調が悪いの。今日はもう休むわ」

リリアンに着替えさせてもらい、そのままベッドに横になる。ゆっくり目を閉じると、鮮明に先ほどの映像が脳裏をよぎった。

「うっ…」

猛烈な吐き気に襲われ、急いでトイレに駆け込み、そのまま吐いてしまった。私達貴族は、子供の頃から結婚するまでは異性に体を許してはいけない、その様な事は貴族の恥だ。と、強く教えられてきた。

その為、マリンとジェファーソン様の行為は、あまりにも衝撃的で嫌悪感以外の何物でもないのだ。

「お嬢様、大丈夫ですか?すぐに医者をお呼びします」

私が吐いてしまったせいで、リリアンが医者を呼んでしまった。精神からくるものなのだが…

案の定、診察した医師も“食あたりか何かでしょう”と言って、帰って行った。きっと原因が分からなかったのだろう。

それにしても、これからどうしよう。もうマリンやジェファーソン様と今まで通り接するなんて無理だわ。マリンは距離を置くとしても、ジェファーソン様は私の婚約者。7ヶ月後にはジェファーソン様と結婚…

無理だわ。ジェファーソン様の顔を見るだけでも吐き気がするのに、結婚だなんて。正直もう指一本触られたくはない。ジェファーソン様との婚約継続は、事実上不可能だ。

ジェファーソン様だって、マリンの事が好きで、私になんて興味がないのだろう。

それならお互いの為にも、婚約破棄をした方がいい。親同士が決めた婚約ではあるが、2人で必死に訴えれば聞き入れてくれるはず。

愛のない結婚程、空しいものはないのだから…
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:617pt お気に入り:24

【完結】結婚しないと 言われました 婚約破棄でございますね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,101pt お気に入り:2,601

【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:404

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:476

【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:795pt お気に入り:3,047

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,456pt お気に入り:221

あなたの妻にはなれないのですね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:51,155pt お気に入り:404

【完】眼鏡の中の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:1,313pt お気に入り:43

処理中です...