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第40話:アンジュ嬢の元へ向かいます~ダルク視点~
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久しぶりに屋敷に戻ると、両親と長兄夫婦、さらに次兄夫婦が待っていた。
「ダルク、おかえりなさい。王太子殿下から話しは聞いたわよ。あなた、カリオス王国から留学に来ていた令嬢に恋をしたのですってね」
「何事にも興味を示さないお前が、まさか令嬢を好きになるだなんて」
「父上、ダルクは王太子殿下にだけは、興味を示していましたよ。だから僕はてっきり、王太子殿下の事が好きなのかと思っていたんだ。でもよかった、ダルクも男だったんだな」
「ダルク様、カリオス王国にはとても素敵な絹というものがあると聞きましたわ。まずカリオス王国に着いたら、どうかその絹で作ったドレスを送って下さい。これ、私たちの寸法とデザインが書かれた紙ですわ」
「僕たちのも頼むよ。とても触り心地がいいんだってね。この前、スカーレット嬢が着ていて、既に話題になっていたよ」
どいつもこいつも、好き勝手言って!
「私は遊びに行く訳ではないのです!好き勝手な事を言わないで下さい」
「珍しいわ、ダルクが怒るだなんて。喜怒哀楽なんて存在しないと思っていたのに」
「本当ですわね。それじゃあ、よろしくお願いしますね」
「そうそう、ダルク。あなたには私の実家でもある、ファレックス公爵家を継いでもらう事も考えておいてね。ほら、ファレックス公爵家は跡取りがいないでしょう。お兄様が、ぜひダルクにって、ずっとおっしゃっていて。相手様は、侯爵令嬢と聞いたわ。その方と結婚するなら、爵位があった方がいいでしょう?」
「母上…まだ結婚すると決まった訳ではありません。それに彼女に振り向いてもらえるかどうかも分かりませんし…」
「あら、あなたは男前だから大丈夫よ。まあ、ダメならダメで、別の令嬢を探せばいいのだものね。それにしても、めでたいわ。ダルク、絹のドレスの件、絶対に忘れないでね」
そう言ってほほ笑む母上。そう、我が家はなぜか、皆非常におしゃべりでうるさいのだ。そして、図々しい…
本当にこの人たちは相変わらずだな…
「さあ、ダルク、今日は最後の晩餐でしょう?料理長に頼んで、ご馳走を準備しているの。沢山食べてね」
「最後の晩餐とは、縁起でもない事を言うな。本当にお前は!ダルク、せっかく家に帰って来たのだ。それから…万が一令嬢に振り向いてもらえなくても、その…自暴自棄にだけはなるなよ。お前にはミラージュ王国がある。私達家族は、どんな結果になろうと、お前をこの地で待っているから」
そう言って父上が微笑んでいる。母上や兄上たち、義姉上たちも。
「ありがとうございます。正直厳しいかもしれませんが、悔いの残る様なことだけは避け、自分の持てる精一杯の気持ちをぶつけてきます」
なんだかんだ言って、家族も応援してくれているのだ。俄然やる気が出て来た。
「ダルク、本当にあなた、変わったわね。きっとあなたを変えたのは、そのお嬢さんなのよね。本当にそのお嬢さんには感謝しかないわ」
「本当だな、ダルクが人間らしくなったもの、その方のお陰だ。それだけでも、我々は十分そのお嬢さんに感謝しないとな。せっかくだから、我々も時間を見つけて、カリオス王国に…」
「絶対に来ないで下さい!迷惑です」
本当にすぐ調子に乗るのだから!油断も隙も無い。
「すまんすまん、それじゃあ、晩御飯にしよう。ダルク、着替えて来なさい。それから、カリオス王国には、家からも使用人を3人ほど連れて行くように手配したから。それにしても、カリオス王国の王宮に滞在させていただくそうじゃないか。お前は一応交渉人として行くのだから、我が国の利益になる様に動くのだぞ」
「分かっております。それでは私はこれで」
久しぶりに自室に戻ると、既に使用人たちが明日の荷造りを進めてくれていた。着替えを済ませると、久しぶりに家族と夕食を食べた。
正直うるさい家族との食事は、昔の私には煩わしいだけだったが、なぜだろう。今日はそんなに嫌ではない。やはりアンジュ嬢に出会って、私は変わったのだろう。
翌日
「ダルク、気をつけて行ってくるのだぞ」
「ドレスを忘れないでね。すぐに作ってもらうのよ」
「父上も母上も、お元気で」
見送りに出てきてくれた両親に挨拶をする。それにしても母上め、ドレスの事しか頭にないのか?本当にもう…
「ダルク、相手との交渉は頼んだよ。それから、アンジュ嬢の事も頑張るんだよ」
「ダルク様、これ、アンジュ様にお渡しください。手紙です。それから、アンジュ様をどうかミラージュ王国に連れて帰って来てくださいませ。期待しておりますわ」
王太子殿下とスカーレット様も見送りに来てくれたのだが…スカーレット様がすかさず私にプレッシャーをかけてくる。
「分かりました、渡しておきます。それでは私はこれで」
急いで馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出した。今日から約1週間かけてカリオス王国に向かうのだ。
1週間後には、久しぶりにアンジュ嬢に会えるのだな。そう思ったら、嬉しくて頬が緩む。アンジュ嬢、私を見てびっくりするかな?きっと彼女の事だ、私の事を歓迎してくれるだろう。
もし…
もし彼女と一緒にミラージュ王国に帰れたら、その時は母上の実家を継ごうと考えている。今までは未来を思い描く事もほとんどなかった。でも今は…
アンジュ嬢と出会ってから、私の人生はがらりと変わった。たとえ彼女に振り向いてもらえなかったとしても、私の人生を変えてくれた彼女には感謝しかない。
もし彼女と未来を共に歩めたら…
その為にも、カリオス王国に着いたら、まずはアンジュ嬢に私を男として意識してもらえる様に振舞わないと。それから、デイビッド殿、彼には警戒しないと。
やらなければいけない事は山積みだ。それでも私は、楽しみでたまらないのだ。
ミラージュ王国の景色を見ながら、まだ見ぬカリオス王国を想像し、胸弾ませるのだった。
※次回、アンジュ視点に戻ります。
よろしくお願いします。
「ダルク、おかえりなさい。王太子殿下から話しは聞いたわよ。あなた、カリオス王国から留学に来ていた令嬢に恋をしたのですってね」
「何事にも興味を示さないお前が、まさか令嬢を好きになるだなんて」
「父上、ダルクは王太子殿下にだけは、興味を示していましたよ。だから僕はてっきり、王太子殿下の事が好きなのかと思っていたんだ。でもよかった、ダルクも男だったんだな」
「ダルク様、カリオス王国にはとても素敵な絹というものがあると聞きましたわ。まずカリオス王国に着いたら、どうかその絹で作ったドレスを送って下さい。これ、私たちの寸法とデザインが書かれた紙ですわ」
「僕たちのも頼むよ。とても触り心地がいいんだってね。この前、スカーレット嬢が着ていて、既に話題になっていたよ」
どいつもこいつも、好き勝手言って!
「私は遊びに行く訳ではないのです!好き勝手な事を言わないで下さい」
「珍しいわ、ダルクが怒るだなんて。喜怒哀楽なんて存在しないと思っていたのに」
「本当ですわね。それじゃあ、よろしくお願いしますね」
「そうそう、ダルク。あなたには私の実家でもある、ファレックス公爵家を継いでもらう事も考えておいてね。ほら、ファレックス公爵家は跡取りがいないでしょう。お兄様が、ぜひダルクにって、ずっとおっしゃっていて。相手様は、侯爵令嬢と聞いたわ。その方と結婚するなら、爵位があった方がいいでしょう?」
「母上…まだ結婚すると決まった訳ではありません。それに彼女に振り向いてもらえるかどうかも分かりませんし…」
「あら、あなたは男前だから大丈夫よ。まあ、ダメならダメで、別の令嬢を探せばいいのだものね。それにしても、めでたいわ。ダルク、絹のドレスの件、絶対に忘れないでね」
そう言ってほほ笑む母上。そう、我が家はなぜか、皆非常におしゃべりでうるさいのだ。そして、図々しい…
本当にこの人たちは相変わらずだな…
「さあ、ダルク、今日は最後の晩餐でしょう?料理長に頼んで、ご馳走を準備しているの。沢山食べてね」
「最後の晩餐とは、縁起でもない事を言うな。本当にお前は!ダルク、せっかく家に帰って来たのだ。それから…万が一令嬢に振り向いてもらえなくても、その…自暴自棄にだけはなるなよ。お前にはミラージュ王国がある。私達家族は、どんな結果になろうと、お前をこの地で待っているから」
そう言って父上が微笑んでいる。母上や兄上たち、義姉上たちも。
「ありがとうございます。正直厳しいかもしれませんが、悔いの残る様なことだけは避け、自分の持てる精一杯の気持ちをぶつけてきます」
なんだかんだ言って、家族も応援してくれているのだ。俄然やる気が出て来た。
「ダルク、本当にあなた、変わったわね。きっとあなたを変えたのは、そのお嬢さんなのよね。本当にそのお嬢さんには感謝しかないわ」
「本当だな、ダルクが人間らしくなったもの、その方のお陰だ。それだけでも、我々は十分そのお嬢さんに感謝しないとな。せっかくだから、我々も時間を見つけて、カリオス王国に…」
「絶対に来ないで下さい!迷惑です」
本当にすぐ調子に乗るのだから!油断も隙も無い。
「すまんすまん、それじゃあ、晩御飯にしよう。ダルク、着替えて来なさい。それから、カリオス王国には、家からも使用人を3人ほど連れて行くように手配したから。それにしても、カリオス王国の王宮に滞在させていただくそうじゃないか。お前は一応交渉人として行くのだから、我が国の利益になる様に動くのだぞ」
「分かっております。それでは私はこれで」
久しぶりに自室に戻ると、既に使用人たちが明日の荷造りを進めてくれていた。着替えを済ませると、久しぶりに家族と夕食を食べた。
正直うるさい家族との食事は、昔の私には煩わしいだけだったが、なぜだろう。今日はそんなに嫌ではない。やはりアンジュ嬢に出会って、私は変わったのだろう。
翌日
「ダルク、気をつけて行ってくるのだぞ」
「ドレスを忘れないでね。すぐに作ってもらうのよ」
「父上も母上も、お元気で」
見送りに出てきてくれた両親に挨拶をする。それにしても母上め、ドレスの事しか頭にないのか?本当にもう…
「ダルク、相手との交渉は頼んだよ。それから、アンジュ嬢の事も頑張るんだよ」
「ダルク様、これ、アンジュ様にお渡しください。手紙です。それから、アンジュ様をどうかミラージュ王国に連れて帰って来てくださいませ。期待しておりますわ」
王太子殿下とスカーレット様も見送りに来てくれたのだが…スカーレット様がすかさず私にプレッシャーをかけてくる。
「分かりました、渡しておきます。それでは私はこれで」
急いで馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出した。今日から約1週間かけてカリオス王国に向かうのだ。
1週間後には、久しぶりにアンジュ嬢に会えるのだな。そう思ったら、嬉しくて頬が緩む。アンジュ嬢、私を見てびっくりするかな?きっと彼女の事だ、私の事を歓迎してくれるだろう。
もし…
もし彼女と一緒にミラージュ王国に帰れたら、その時は母上の実家を継ごうと考えている。今までは未来を思い描く事もほとんどなかった。でも今は…
アンジュ嬢と出会ってから、私の人生はがらりと変わった。たとえ彼女に振り向いてもらえなかったとしても、私の人生を変えてくれた彼女には感謝しかない。
もし彼女と未来を共に歩めたら…
その為にも、カリオス王国に着いたら、まずはアンジュ嬢に私を男として意識してもらえる様に振舞わないと。それから、デイビッド殿、彼には警戒しないと。
やらなければいけない事は山積みだ。それでも私は、楽しみでたまらないのだ。
ミラージュ王国の景色を見ながら、まだ見ぬカリオス王国を想像し、胸弾ませるのだった。
※次回、アンジュ視点に戻ります。
よろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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