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第6話:今日泊まるホテルは物凄く立派でした

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「エリザ、あの高台に建っているホテルが今日泊まるところですよ」

「まあ、素敵なホテルね!暗くてよく見えないけれど、あれはもしかして海なの?」

「ええ、そうです。陸路よりも海路の方が早く安全にこの国を出られますからね」

なるほど、という事は船に乗るのね。なんだかワクワクするわ!そう言えば、ジャックったらまだ敬語のままね。

「ジャック、あなたずっと私に敬語で話しているわよ。敬語は使わないのではなかったの?」

「申し訳ございません!まだ慣れないもので…以後気を付けます!」

「ほら、また敬語よ!でも急に変えろと言われても無理よね」

なんだか焦っているジャックを見るのは初めてで、おかしくてつい笑ってしまった。

「エリザはやっぱりそうやって笑っている方がずっといい!ほら、もう着くよ!」

ふと前を向くと、立派なホテルの前に来ていた。そしてジャックが私を抱え、馬から降ろしてくれた。それにしても、立派なホテルだ。そう言えばまだお母様が生きていた時、家族3人で一度だけホテルに泊まった事があったわ。あの時はお父様とお母様と一緒に寝たのよね。

昔の事を思いだしたら、涙が込み上げて来た。駄目よ!今泣いたら!必死に涙をこらえた。

「エリザ、どうしたんだい?馬を繋いで来たから、ホテルに入ろうか?」

後ろからギューッと抱きしめてくるのは、ジャックだ。ジャックの温もりが、私の心を癒してくれる。

「何でもないわ!さあ、行きましょう!」

2人で手を繋いでホテルに入る。そう、私たちは夫婦を装ってこれから生きて行くのだ。しっかり夫婦役を演じないとね。

ホテルに入ると、そのまま最上階へと向かう。あら?受け付けはしないのかしら?そう思いつつ、一番奥の部屋の鍵を開けたジャック。

扉を開けると、物凄く広い部屋が広がっていた。真ん中には大きなベッドが置いてある。そして大きな窓があり、そこから街を一望できるのだ!

「まあ、なんて奇麗なのかしら!ジャック、こんなにも素敵なホテルに泊まっても大丈夫なの?私、お金なんて持っていないわよ」

「お金の事は心配しなくていいと言っただろう!今日がこの国で過ごす最後の夜だ。このホテルでゆっくり過ごそう。早速ディナーにしようか。今ホテルマンに準備させるから、待っていてくれ」

ジャックがホテルマンに指示を出している。せっかくなのでその間に部屋を見学した。広い浴槽にフカフカのソファー。そして机の上には、いつでも飲み物が飲めるよう、氷水に入った飲み物たちとコップも準備されている。これは至れり尽くせりね。

ふとクローゼットを開けると、明日私が着る予定のワンピースが掛けられていた。こちらもなぜか赤色だ。どうやらジャックは赤が好きなようだ。私も赤色は好きだ。だってジャックの瞳の色だもの…て、何を考えているのかしら、私ったら!

「さあ、エリザ。食事の準備が整ったよ!早速晩ご飯にしよう!」

気を取り直して、ジャックと一緒に奥の部屋へと向かう。そこには、沢山の料理が並んでいた。もちろん、デザートも!

「あまりホテルマンにウロウロして欲しくないから、一気に並べてもらったんだ!さあ、早速食べよう」

なるほど、確かにあまり部屋に出入りして欲しくないわね。一応私はまだ王太子でもあるイライジャ様の婚約者だ。出来るだけ人と会う事は避けた方がいいだろう。

それにしてもこのお料理、物凄く美味しいわ。いつもの様にお父様や継母たちからの小言を聞かなくていいと言うのもあるが、何よりジャックと一緒に食事が出来るのが嬉しい。ジャックは従者だったから、一緒に食事をする事なんて今までは無かったものね。

「エリザ、そんなに嬉しそうな顔をしてどうかしたかい?」

「ジャックと一緒に食事をするのって初めてでしょう!だからなんだか嬉しくて!それに、美しい景色を見ながら美味しいお料理を頂けるなんてとても贅沢ね!」

「そう言えばこうやって、エリザと一緒に食事をするのは初めてだね。これからはずっと一緒に食事をする予定だから、よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

改めて言われると、なんだか恥ずかしいわ。それにすっかり敬語を使わなくなったジャック。なんだか変な感じね。それにしても、ジャックは食べ方がとてもキレイだわ。

王妃教育を受けてきた私よりキレイかもしれない。もしかしたら、ジャックはいいところのお坊ちゃまだったのかもしれないわね。

食事が終わると、それぞれ湯あみを済ませた。

「エリザ、今日は疲れただろう。そろそろ寝ようか。そうそう、言い忘れていたけれど、俺たちは夫婦という設定だ。だから部屋も1つ!もちろん、ベッドも1つしかないけれど大丈夫だよね」

え?それはつまり、一緒に寝るという事?確かに夫婦のフリをするとは言ったけれど、まさか一緒に寝るなんて恥ずかしすぎる!!

一気に顔が赤くなるのが分かった。

「そんなに顔を真っ赤にしなくてもいいだろう?もちろん、手は出さないから。それにこんなにも広いベッドだ。2人で寝ても問題ないよ!ほらエリザ、おいで」

先にベッドに入ったジャックが、ベッドをポンポンと叩いている。確かにこんなにも大きなベッドだもの。2人で寝ても大丈夫よね。

急いでベッドに入り、横になった。そして、出来るだけ端っこによる。

「ジャック、一応寝相は良い方だけれど、もしもジャックの方に攻めて行ったらごめんね!」

「エリザ、そんなにも端っこにいたら落ちてしまうよ。もっと真ん中で寝たらいい。ほら、こんなにも広いんだよ!」

ジャックはそう言ってくれたが、やっぱり落ち着かないので端っこで眠る事にした。

「おやすみ、ジャック」

「おやすみ、エリザ」

いつもは“おやすみ”の挨拶をしたら部屋から出て行くジャック。でも、今日は一緒だ!それが何だか嬉しい。それに、明日いよいよこの国を出て行くのね。そう思ったら、ワクワクして寝られない。結局夜遅くまで寝付けなかったエリザであった。
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