上 下
27 / 34

第27話:アルト様ときちんと話をしました

しおりを挟む
 う~ん、なんだか揺れが気持ちいい。

 ここは?

 目を覚ますと、アルト様と目が合った。

「カナリア、目が覚めたかい?今君を部屋に運んでいるところだよ。まずは湯あみをしないとね」

 湯あみ?

 どうやらアルト様に抱きかかえられ、王宮内を歩いている様だ。私はあの後、馬車の中で眠ってしまったのだわ。

「あの…アルト様、本当にごめんなさい。私…」

「話は後でゆっくりしよう。さあ、部屋についたよ。立てるかい?」

 ゆっくりアルト様が降ろしてくれた。

「はい、大丈夫ですわ。あの…」

「すぐにカナリアを綺麗にしてあげてくれ」

「かしこまりました、カナリア様、どうぞこちらへ」

 私をメイドたちに託すと、すぐに部屋から出て行ってしまった。やはり勝手な行動をとった私に、アルト様は怒っているのかしら?

 私はずっと、アルト様とシャーラ様がヒーローとヒロインだと思っていたけれど、どうやら違ったみたいだ。まさかあんな修羅場を見せられるだなんて…

 一体何が起こっているのだろう。さっぱりわからない。ただ1つ言える事は、アルト様はシャーラ様を愛していなかったという事だ。

 それなのに私は、アルト様がシャーラ様を心から愛していると思い込んで、アルト様に酷い事を…

 一気に血の気が引いていくのを感じる。私は、なんて事をしてしまったのかしら?どうしよう…

 パニックに陥っている私を他所に、体中を磨き上げ、ドレスに着替えさせてくれたメイドたち。

 着替えが終わると、すぐにアルト様が部屋に入ってきて、再びアルト様に抱きしめられた。

「アルト様、あの…」

「カナリア、ゆっくり話そうか」

 よく見ると、アルト様、なんだかとてもやつれているわ。目の下にもクマが出来ているし。どうして今まで気が付かなかったのかしら?

「アルト様、あの、かなりお疲れの様ですわ。少し休まれた方がよろしいです。お話しなら、後にしましょう」

 まずはアルト様を休ませることが専決だ。そう思ったのだが…

「いいや、僕は大丈夫だ。さあ、こっちにおいで」

 アルト様に腕を掴まれ、そのまま彼の隣に座った。すぐにメイドたちが、なぜかサラミと炭酸ジュースを準備してくれたのだ。一体どういうことなの?

「カナリアは、サラミとこのジュースが大好きなのだよね?僕はカナリアの事なら、何でも知っているよ。カナリア、どうして僕を捨てて国を出ようとしたのだい?そんなにシャーラ嬢が、気になるのかい?彼女は君にとって、どんな存在なのだい?でも、残念だったね。シャーラ嬢はシモンが好きな様だよ」

 ニヤリと笑ったアルト様。なんだか様子がおかしいわ。

「ねえ、カナリア…僕から逃げたりしないよね?僕がどれほど君を愛しているか…君がどこに逃げようと、僕は地の果てまで君を追いかけるよ。絶対にカナリアを逃がしたりしない。だから、どうかもう僕から逃げようとするのは、諦めて…」

 そう言うと、それはそれは美しいお顔でアルト様が笑ったのだ。その瞬間、背筋が凍りつく。私は前世で、沢山の小説を読んできた。その中には病んでしまった男たちのお話しも、沢山あった。

 悲しいかな、きっとアルト様も病んでしまったのだわ…そう直感で分かった。どうしよう、このままだと私、監禁される?それとも…

 ふと頭によぎったのが、無理心中…

 いいや、いくら何でも、アルト様はそこまではしないはずだ。多分…

「あの…アルト様、申し訳ございませんでした。確かに私は、アルト様と婚約を解消し、国を出ようとしました。でも、それには訳があるのです」

「訳?どんな訳があるのかな?」

「はい、実はあの高熱を出したあの日、私は何度も同じ夢を見ました。アルト様が他の令嬢と一緒になり、私を捨てる夢を。何度も何度も同じ夢を見るうちに、きっとこれは正夢だと思ったのです」

「それで君は、熱の後僕の事を避けていたのかい?」

「はい、そうです…申し訳ございません」

「でもその後、カナリアはいつも通り過ごしていたではないか。それなのに、どうして急に…もしかして、シャーラ嬢と僕の仲を疑った?いや、シャーラ嬢とカナリアでは、天と地、女神様とゴミくずぐらい差がある。いくらなんでも、僕がシャーラ嬢を好きになるだなんて、天と地がひっくり返っても起らないような事を、信じたりはしないか…」

 アルト様、シャーラ様を一体何だと思っているのですか?シャーラ様はとてもお美しいのですよ。それをゴミくずとは…

 そう言いたいが、もちろん言える訳がない。

「ええ…実はシャーラ様が、夢に出て来た女性によく似ておりましたので…ですが、決してシャーラ様が悪いという訳ではありませんわ。私の完全なる勘違いだったのです。本当に申し訳ございません。まさかシャーラ様とシモン様が、恋仲だっただなんて…」

 その上、シモン様の事がお好きなルミン様が、あのような事をするだなんて…

 まるで小説の世界の様だったわ…
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】この胸に抱えたものは

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:340

推しの兄を助けたら、なぜかヤンデレ執着化しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,788pt お気に入り:818

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:11,906pt お気に入り:4,071

婚約者を見限った令嬢は、1年前からやり直す。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:2,184

【完結】情弱な令息は病弱な妹と婚約者に騙される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:880pt お気に入り:43

ごきげんよう、旦那さま。離縁してください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,855pt お気に入り:335

記憶にない思い出

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

ありあまるほどの、幸せを

BL / 連載中 24h.ポイント:5,022pt お気に入り:518

処理中です...