そんなに私の事がお嫌いならもう放っておいてください!

Karamimi

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第13話:なぜかエイダン様と一緒に食事をとる事になりました

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数日後、マダムと一緒に選んだ普段着の洋服が、私の元へとやって来た。

「サーラ様、どれもとても素敵ですよ。せっかくなので、もっとドレスをお作りになられたらよろしいのに」

「あら、これ以上洋服が増えたら、クローゼットに入らなくなるわ。それに、これだけあれば十分よ」

ただでさえ狭い部屋なのだ。これ以上荷物を増やすわけにはいかない。

「さあ、そろそろお昼ご飯のお時間ですわね。すぐに準備いたしますので、少々お待ちください」

そう言うと、リサが部屋から出て行った。その時だった。

コンコン
ノックする音が聞こえたと思ったら、ゆっくりと扉が開いた。そこには、エイダン様がいた。

「何か御用でしょうか?」

毎日毎日凝りもせず、私を訪ねてくるこの男。本当に、いい加減諦めてくれないかしら?

「サーラ、今日は君と一緒に食事がしたいと思って」

「申し訳ございません、私はこの部屋から出て食事をするつもりはございませんので。どうかお引き取り下さい」

エイダン様の方を一切見ずに、そう伝えた。

「知っているよ。それでね、僕、考えたんだ。僕もここで食事をすれば、君と一緒に食べられるのではないかってね」

そう言うと、どこからともなくイスを持ってきた護衛騎士が、私の向かいの席に置いた。ちょっと、ただでさえ狭い部屋が、さらに狭くなるじゃない。

「エイダン様、この部屋は1人サイズでございます。あなた様が食べるスペースはありませんわ」

「やっと僕の顔を見てくれたね。確かにここは狭い…でも、狭いお陰で君の顔をしっかり見ながら、食事が出来る。君は僕の顔なんて見たくもないかもしれないが…」

そう言って寂しそうに笑ったエイダン様。そんな風に言われると、なんだか強く言えない。この人は、私を苦しめ続けた張本人なのに…

「さあ、せっかくだから頂こう。あれ?サーラ、君はそれだけかい?それじゃあ足りないだろう?僕のを…」

「大丈夫ですわ。これだけあれば、十分です。」

「そうか…君は、侯爵家で十分な食事を与えられていなかったせいで、食が細いとメイドが言っていたな…サーラ、今更だが本当にすまなかった。君は既に孤独だったのに、僕は追い打ちをかける様に君を追い詰めた…そりゃ僕の顔なんて見たくないよね…」

「分かっていらっしゃるなら、どうかもう来ないでくださいませ」

「ごめん…でも僕は、どうしても君と一緒にいたんだ…本当に我が儘でごめん…」

だから、そんな悲しそうな顔をしないでよ。なんだか私が悪い事をしている様じゃない。

「別に…そんなに謝罪して頂かなくても大丈夫ですわ…過去は取り戻せませんので…」

そう、辛かった過去は、消える事はない…

「そうだね…」

その後は沈黙が流れる中、それぞれ食事を済ませた。

「それじゃあ、また夕方来るから…」

「いいえ、もう来ていただかなくても結構ですわ。どうか私の事は、放っておいてくださいませ」

そう伝えたのだが…夕方も私の部屋を訪ねて来たエイダン様。はっきり言って迷惑だし、その旨も伝えているのだが…どうやらこの人は、言葉が通じない様だ。

「サーラ、お昼の時にも思ったのだが、そのワンピース、君によく似合っているよ…それから、母上に聞いたよ。3ヶ月後の父上の誕生日パーティーは、君も出席してくれるんだってね」

「はい、私は離宮に居候させてもらっている身ですので。せめてそれくらいのお仕事はしないとと思いまして」

「居候だなんて…君は僕の大切な妻だ。もっと大きな顔をしてくれたらいい…て、散々虐げて来た僕に言われても困るよね…」

どうやら自分が私に何をして来たのか、理解だけはしている様だ。その後も、私の様子を伺いながら、話しを振って来るエイダン様。今までは眉間に皺を寄せて、私を睨みつけていたのに。今は穏やかな表情で私を見ている。この人、こんな表情も出来るのね。

でも私の中では、いつも眉間に皺をよせ、嫌味しか言わないエイダン様のイメージが色濃く残っているのだ。今更優しくされても、はいそうですかと心を開く事なんて出来ない。


その日を境に、毎食私の部屋で食事をする様になったエイダン様。最初は苦痛でしかなかったが、毎食食べていればだんだん慣れてくるものだ。

「サーラ、午後は何をしていたのだい?」

「午後からは雨が降って来ましたので、本を読んでおりました」

エイダン様の方を一切みず、淡々と答える。

「そういえば君は、恋愛小説が好きだったね。今王都で流行りの恋愛小説を手に入れたんだ。よかったら…その…読んでみてくれないか?」

そう言って、5冊の本をテーブルに置いた。チラリとエイダン様の方を見ると、不安そうにこちらを見ている。きっと私から断られるのではないかと、心配しているのだろう。

「ありがとうございます。せっかくなので、読ませていただきます」

素直にそう答えた。すると、ぱあぁっと顔が明るくなったのだ。何なの、このわかりやすい態度は。あまりの露骨な態度に、つい笑いがこみ上げてきて、笑ってしまった。

「ごめんなさい。エイダン様。あなた様があまりにも露骨に嬉しそうな顔をするので、可笑しくて…」

「君が笑ってくれるなら、僕は嬉しいよ。僕はね、10歳の時のお茶会で君の笑顔を見た時、恋に落ちたんだ。あの時は、君の笑顔を守りたいと思っていたのに…本当に僕は、どこで間違えてしまったのだろう…」

10歳のお茶会か…あの時お父様に、何が何でも殿下に取り入って来いって言われたのよね。でもどうしていいか分からなくて…そんな時、エイダン様から話しかけてくれた。あの優しい眼差し…まるで今のエイダン様みたいね…

すっかり忘れていた気持ちを思い出し、少しだけ心がほっこりしたのだった。
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