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第3話:旅立ちの時です

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気が付くと、いつの間にか眠っていた。地下牢に入れられて、どれくらいたったのだろう…私の中の魔力が、暴走しようとしている。グレッサ王国まで、馬車で1週間。私の場合、最低でも3日に一回は魔力を放出しないと、命の保証はない。

きっと魔力の放出なんてさせてもらえないだろうから、このままだとグレッサ王国に着く前に、魔力が暴走して命を落とすかもしれないわね。

でも、それもまた運命か…

正直もう、どうでもよくなっていた。このまま命を落とせば、大好きなお母様の元に行けるかもしれないわね。そう思ったら、頬が緩む。そんな私の元に、看守がやって来た。そして、鍵が開けられた。

「さあ、出ろ」

どうやらクレッサ王国に向けて旅立つ様だ。ただ、やはり数日間魔力を放出していない為、体が思う様に動かない。特にこの魔力を無力化するリングのせいで、体に負担がかかっているのだ。

それでもなんとかふらつく体で、地下牢から出ると、すぐに離宮に連れて行かされた。そして、メイドたちに体を洗われ、ワンピースを着せられる。

いくら犯罪者で隣国に売られると言っても、さすがに小汚い格好ではダメだと思ったのだろう。そのままお粗末な馬車に乗せられ、王宮を出発した。もちろん、誰も見送りになんて来てはくれない。

分かっていたことだが、少しだけ胸が痛んだ。ふと窓の外を見ると、今まで住み慣れた懐かしい王宮が。イヤな事も多かったが、それでもお母様との思い出が詰まった王宮。

「お母様、行ってきます。もしかすると、すぐにお母様の元に向かうかもしれませんが」

心の中で、そっとお母様に向かって呟いた。もちろん、お母様に聞こえるはずがない。でも、なんだか呟きたくてたまらなかったのだ。

少し走ると、大きな丘の上にやって来た。あら?どうしてこんな場所に来たのかしら?疑問に思いながら馬車から降ろされた。そこには護衛騎士と1人の男性が待っていた。燃える様な赤い髪に、茶色の瞳をした男性だ。歳は20歳前後ってところかしら。さらに横には、見た事のない大きな機体が。これは一体…

「初めまして、あなた様が第7王女のカトリーナ殿ですね。さあ、早速参りましょう。早くしないと、殿下のお命が危ないので…」

そう言うと、さっさと見た事のない機体に乗せられた。中はそこまで広くはないが、それでもベッドやソファー、机なども置いてある。しばらくすると、ふわりと浮く感覚が。まさか…

窓の外を見てみると、空を飛んでいる。びっくりして固まっている私に、男性が話しかけて来た。

「飛行船に乗るのは初めてですか?」

「この乗り物は、飛行船と言うのですね。はい、初めてです。でも、どうやって空を飛んでいるのですか?」

「魔力で飛ばしているのですよ。それにしても、カトリーナ殿は顔色が良くないですね。まさか!」

私の腕に付いている、魔力を無力化するリングを見つけた男性。

「これの影響ですね。こんなものを付けるなんて。さあ、すぐに楽にしてあげますから」

そう言うと、すぐに無力化するリングを外してくれた。その瞬間、少しだけ楽になった。でも、まだ体にたまった大量の魔力を放出できていない。そのため、頭がクラクラするのだ。

「話しには聞いておりましたが、凄まじい魔力ですね…すぐに魔力を放出した方が宜しいのでしょう。さあ、これに魔力を込めて下さい」


そう言うと、見た事もない石を手渡してきた。これは一体…

「この石は、魔力をためる事が出来る特殊な石なのです。さあ、この石に向かって、遠慮なく魔力を放出して下さい」

なるほど、そんな石があるのね。早速石を握り、一気に魔力を石に向かって放出する。すると…

ぱぁっと石が光り、美しいエメラルドグリーンに。

「そんな…あり得ない…」

なぜか固まっている男性。なにかまずい事をしたかしら?

「あの…何か問題でもありましたか?」

「いいえ。実はこの石は、魔力の溜まり具合によって、色が変わるのです。赤→青→黄→桃→エメラルドグリーンの順で、魔力量が決められています。どんなに魔力が高い人間でも、せいぜい黄色までしかいかないので。まさかエメラルドグリーンまで行く人間が、この世にいるなんて…」

そう言って口を押えていた。よくわからないが、魔力大国でもあるグレッサ王国でも、私の魔力量は多い様ね。

「これほどまでに魔力を解放したのです。さあ、どうかベッドでお休みください」

そう言って私をベッドに寝かせてくれた。でも、魔力を放出したことで、体調はすっかり良くなったのだが…

「申し遅れました。私、第二王子でもあるハリー殿下の執事をしております、グラス・クレーティスです。どうぞお見知りおきを」

何を思ったのか、急に自己紹介をしてくれた男性。私も挨拶をしないと。

「私はカトリーナ…です。よろしくお願いいたします」

もうすぐで、マレッティアの名を語るところだった。私はもう、王女でも何でもないのに…

一旦ベッドから起き上がり、ぺこりと頭を下げた。

「あぁ、起き上がらなくてもいいのですよ。あなたは大切な魔力提供者ですので」

満面の笑みでそう言ったグラス様。魔力提供者か…
でも私の魔力で、誰かの手助けが出来るならまあいいか。それにどんな理由であれ、こうやって人に優しくしてもらえるのは嬉しいもの。

その後は、近くに控えていたメイドがお茶とお菓子を準備してくれた。そういえば私、ここ数日間、ほとんど何も食べていなかった。久しぶりに飲んだ紅茶は、とても美味しかった。せっかくなので、お菓子も頂く。あぁ、美味しいわ。

紅茶とお菓子を頂き、しばらく窓の外を見ていると、グラス様が話しかけて来た。

「そろそろグレッサ王国に到着いたします。降りられるご準備をお願いします」

再び窓の外を見ると、大きな宮殿が見えて来た。きっとあそこが、グレッサ王国の王宮なのね。さすが大国、王宮もものすごく立派だわ。

王宮の裏に、ゆっくりと着陸した飛行船。それにしてもこの飛行船、ほとんど揺れなかったわ。

「それでは飛行船を降りましょう。どうぞこちらへ」

ついにグレッサ王国に着いたのね。なんだか緊張してきたわ。
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