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第9話:フローラが愛おしくてたまらない~アダム視点~

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翌日も朝から着替えを手伝ってくれたり、包帯を取り換えてくれたりと、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。それも嬉しそうに…

「どうしてそんなに一生懸命俺の世話をしてくれるんだい?」

気になって聞いてみた。すると

「私はずっとカミラさんや街の人に支えられて生きて来ました。そんな私が、誰かのために何かが出来るという事が嬉しいのです!だから生きて下さい!私の為にも!」

そう言ってにっこり笑ったフローラ嬢。誰かの為に何かが出来る事が嬉しいか…俺も誰かの為に何かが出来る人間になりたいな…

そんな話をしていると、誰かが訪ねて来た。どうやら街の青年たちの様だ。遠くから話し声が聞こえる。その声は次第に近付いてきて、ついに俺が寝ている部屋のドアが開いた。

「見て下さい!彼はあんなにも酷い怪我をしているのです。ですから、どうかもうお帰り下さい!」

数名の男性たちに向かってそう叫ぶフローラ嬢。

「確かに酷い怪我だ…分かった。今日のところは帰ろう!でも、怪我をしているからと言って男は男だ!十分気を付けるんだよ!」

そう言って急いで帰って行く青年たち。

「アダム様、お騒がせしてごめんなさい!とにかく帰ってくれて良かったですわ…」

少し疲れた顔のフローラ嬢。やはりフローラ嬢は物凄くモテるのだろう。まあ、これほどまでに奇麗なのだから、男は放っておかないよな。

「あら、もうこんな時間!すぐに昼食の準備をしますね!」

そう言って急いで部屋から出て行くフローラ嬢。1人でこの家に暮らしている事もあり、物凄く忙しそうだ。それなのに俺の世話までして、なんだか申し訳ないな…でも、今の俺は自分で動く事も出来ない。とにかく早く怪我を治さないと!

その後も献身的な看護を受けたおかげで、俺は見る見る回復していき、起き上がれるくらいまでになった。暇だな…今頃ハリソンとダリアは婚約をしているかもしれないな…

そんな事を考えながら窓の外を見ていると、決まってフローラが

「今日はいい天気ですよ!窓を開けますね!」

そう言って話しかけて来てくれるのだ。きっとこの子は、俺が寂しそうにしているのを察知して声を掛けて来てくれるのだろう。その優しさが俺には物凄く嬉しかった。

今までは王太子としてしか皆俺の事を見てくれなかった。でもフローラは、ただのアダムと言う人間を見てくれている。それが嬉しかった。王太子と言う肩書がない俺にも優しく接してくれるフローラを、いつしか愛おしいと思う様になっていた。

俺が彼女を守りたい…彼女とずっと一緒にいたい…そんな気持ちが、心を支配していく。

そんな思いから、体が動くようになってからは積極的に色々な事をした。ただまだ右足が動かせないので、体を支えて動ける様、お手製の支え棒も作った。自慢ではないが、俺は手先が物凄く器用なのだ。

その棒を使って、薪等を取りに行く。でも、やはりまだ片足では動きにくい。そうだ!家の近くに落ちていた大きな木を使って、木彫りの置物を作る事にした。子供の頃、家庭教師に木彫りを少し習っていた事がある。これを売れば、少しはお金になるだろう!

少しでもフローラに楽をさせてあげたい、そんな思いからせっせと木を集め木彫りの置物を作る。有難い事に、フローラの話しでは俺の木彫りは人気の様で、高く売れているという事だ。

でもなぜか俺が動くたびに

「アダム様、足はまだ治っていないのですよ。勝手に動いては駄目です!」

そう言って怒るのだ。正直可愛いフローラに怒られても、怖くもなんともない。むしろ物凄く可愛いので、もっと怒って欲しいくらいだ。それに何より、俺の体の事を一番に考えてくれる事が嬉しかった。実の母親にも、こんな風に思ってもらった事がなかったのだから…

フローラの優しさに触れ、幸せな生活を送っている俺だが、1つ心配な事がある。それはフローラが街に出る事だ。とにかくフローラは美しい。それに、作法も奇麗だ。どこかの貴族令嬢なのではないかと思う程、美しい動きをする。そんなフローラを男共が放っておくはずがない!きっと街でも男共に絡まれているに違いない!

でも、今の俺には一緒に街に出る事が出来ない!それだけが心配なのだ!早く怪我が治らないかな…

そんな日々を送っているうちに、気が付けば3ヶ月が過ぎようとしていた。俺の足はすっかり良くなったが、未だにフローラは

「勝手に歩かないで下さい!」

と、俺の事を心配している。本当にフローラは心配性だな!まあ、そんなフローラも可愛いのだが…

そしてやっと医者から完治したとの言葉を貰った。よし!これで普段通りに生活が出来るし、フローラをしっかり支えていける。それが嬉しくてたまらない。

さらに俺の快気祝いをやってくれるとの事。食材を買いに街に行くと言ったので、付いて行く事にした。案の定、フローラは色々な男共に絡まれている。やっぱり俺が思った通りだ!さらにたちが悪いのが、フローラが男共の気持ちにこれっぽっちも気が付いていない事だ!

あれほどまでにフローラに好意全開でアピールしているのに、どうして気が付かないんだ!そう思う程、フローラは鈍い!とにかく、フローラを絶対にこれからは1人で街に行かせないぞ!そう決意した。

街に行った後は、木の実を採る為森に向かった。もちろん、俺も付いて行く。そう言えば、この森で俺は倒れていたのだよな?ふと気になってフローラに倒れていた場所を聞くと、木が生い茂っていて普通なら絶対に気が付かない場所だった。

こんな場所に倒れていたのに、俺を見つけてくれたフローラ。やっぱり俺たちは、運命の赤い糸で結ばれているのかもしれない!そんな勝手な事を考えてしまう程、フローラに夢中なのだ。

木の実を採り終わった後、家に帰る途中小さなお墓を見つけた。どう見ても手作りのお墓だ。気になって聞いてみると

「左が私のお姉様、右が私を育ててくれたカミラさんのお墓ですわ」

そう答えたフローラ。つい

「君の両親の墓はないのかい?」

そう聞いてしまった。聞いた瞬間、しまったと思った。なぜならフローラの顔が見る見る曇って行き、今にも泣きそうになったからだ!必死に謝る俺に

「大丈夫ですわ!さあ、早く帰りましょう。大分冷えて来ましたわ」

そう言っていつもの優しい顔のフローラに戻った。でもその瞳には、どことなく寂しさが滲んでいた。もしかしたらフローラは、俺以上に辛い過去を抱えているのかもしれないな…
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