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第16話:王太子殿下がなぜかお店に来ました

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平民になってから1ヶ月半が過ぎた。すっかりこの生活にも慣れ、毎日充実した生活を送っている。最近では、マドレアおば様に料理を教えてもらい、少しずつ料理も勉強中だ。

オーフェン様が帰ってきたら、私の手料理を食べさせたいな、なんて図々しい事を考えている。

そしてなぜか、最近お客様から花束を貰ったり、食事に誘われたりする。そのたびに、マドレアおば様が凄い勢いで飛んできて追い払う。

一度マドレアおば様に

「お食事ぐらいなら大丈夫ですよ」

そう伝えたら

「食事なんて付き合ったら、男が図に乗るから絶対ダメだよ!頼むから、他の男を好きにならないでおくれ!私の首が飛ぶ!」

と、なぜか訳の分からない事を言って止められた。マドレアおば様が行くなと言うのだから、きっと行かない方がいいのだろう。

今日もいつも通り、お店は大繁盛だ。小さな店内は開店と同時に、一気に満席になった。いつも通り注文を取り、料理を運ぶ。たまにお客様と話をしたりする事もある。

カランカラン
どうやらまた新しいお客様が入って来た様だ。

「いらっしゃいませ!」

元気に声を掛けると、そこに立っていたのは、なんと王太子だ。どうして王太子が、こんなところにいるのだろう。

「あぁ、サーラ。こんなところにいたのだね」

そう言って抱き着いて来た王太子。体中から一気に血の気が引き、嫌悪感に包まれる。

「嫌!放して下さい!」

必死に王太子を突き放した。私の様子を見て、周りのお客さんも騒ぎ出した。

「何だお前!この店の看板娘、サーラちゃんに抱き着くとは一体どういう事だ」

「そうだ!マドレアさんに抱き着くなら文句は言わないが、サーラちゃんはダメだ!」

「「「そうだそうだ」」」

一斉に常連さん達が王太子に詰め寄った。

「何なんだ君たちは。僕は王太子だぞ!」

そう叫んで抗議をしている王太子。そもそも、王太子がこんなところに1人で来ないでよ…というのが正直な感想だ。

「一体何の騒ぎだい!」

厨房からマドレアおば様が出て来た。

「この王太子とか言う男が、いきなりサーラちゃんに抱き着いたから、文句を言っているんだよ」

「王太子だって!」

一気に顔色が変わったマドレアおば様。

「王太子か何だか知らないが、家の看板娘のサーラちゃんに手を出す奴は私が許さないよ!」

鬼の形相で詰め寄るマドレアおば様。

「貴様、僕を誰だと思っているんだ。僕は王太子だぞ」

「王太子が何だい!ここは私の店だ。料理を食べるつもりがないなら、帰っておくれ!」

マドレアおば様の迫力に負けた王太子は、黙ってお店を出て行った。一体何だったのだろう…

「大丈夫かい?サーラちゃん」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。皆様も、私を守ろうとして下さり、ありがとうございました」

皆に頭を下げた。

「いいって事よ。それよりもあの男、一体何だったんだ?かなり高級そうな服を着ていたから、多分貴族なんだろうが」

「まあ、サーラちゃんは、貴族にまで目を付けられるくらいいい女って事だな!」

そう言って皆が笑っていた。いい女ではないが、まさか王太子がここまで来るなんて。一体どう言うつもりなのかしら。とにかく、もうあの男には関わりたくはない。

いつも通り仕事を終え、アパートに戻ろうとした時、マドレアおば様に声を掛けられた。

「サーラちゃん、まだあの王太子がうろついているかもしれない。今日は家に泊るといい」

「でも、ご迷惑じゃあ…」

「迷惑なんてとんでもない!もそもそも、あの王太子は随分とサーラちゃんに酷い事をしたそうじゃないか。それなのに、よくも抜け抜けと!あぁ!腹が立つ!」

そう言って包丁を振り回すマドレアおば様。さすがに包丁を振り回すのは止めて欲しい。

結局この日から。何度も私を訪ねて来るようになった王太子。そのたびにマドレアおば様が追い払ってくれるのだが、いい加減腹が立ってきた。

「マドレアおば様、もし今度王太子が来たら、一度話をして見ます。はっきり言って迷惑なので、もう来ないで欲しいと伝えてみますわ」

「サーラちゃん、気持ちは分かるけれど、2人きりで会うのは危険だよ。私も一緒に付いて行くわ」

「ありがとうございます。でも、2人きりでしっかり話を付けないと、意味がないと思うのです。大丈夫ですわ。きちんと何とかしますので!」

しばらく考え込むマドレアおば様。

「分かったわ。何かあったら、すぐに大声を出すんだよ。分ったかい?」

「分かりました。ありがとうございます。マドレアおば様」

マドレアおば様と話しは付いた。後は王太子が来るのを待つだけだ。そしてお店を開けてすぐ、王太子がやって来た。

「王太子殿下、毎日毎日迷惑です。帰っていただけますか?」

今日もマドレアおば様が来ると思っていたのか、かなり驚いている王太子。

「君が僕の婚約者として戻って来てくれるなら、もうここには来ないよ」

そう言ってにっこり笑った王太子。とにかく、ここでは話が出来ない。王太子を外に連れ出した。

「王太子殿下、見て頂いて分かる通り、私は平民として今最高に幸せな生活を送っておりますので、これ以上邪魔しないでください。もう二度と、あんな地獄の様な場所に戻るつもりはございません。どうかもう来ないでください。迷惑です!」

はっきりそう告げた。

「サーラ、僕はずっと君を愛していた。これだけは本当だ。あの時の僕はどうかしていた。今度は君を大事にする。だから、もう一度僕と婚約を結び直して欲しい。僕は君以外と結婚するつもりはない!今の国王の子供は僕だけだ。僕が結婚しなければ、王族は途絶えてしまう。頼む、もう二度と君を傷つけたりしないから。母上も君が戻って来るのを待っているよ」

この男は何を言っているのかしら!体中から怒りが込み上げて来た。

「王太子殿下、私はあなた様の事を心底嫌っております。正直、姿を拝見するのも苦痛なのです。いつまで私を縛り付ければ気が済むのですか?私の事を少しでも思ってくれているのでしたら、どうかもう解放してください!お願いします」

深々と頭を下げた。

「そんな事を言わないでくれ。僕にはサーラしかいないんだ!」

「何と言われようと無理です。どうか私の事は忘れてください。それではこれで」

「待ってくれ、サーラ!」

後ろで王太子が叫んでいたが、無視しておいた。とにかく、もう二度と関わらないで欲しい。そう強く願ったのであった。
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