【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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一章

13 調査依頼

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 冒険者には初級・中級・上級という等級が存在し、実績によってギルドから認定される。
 上級者であれば荷物の預かりやギルドの設備の貸し出しなど、細やかなサービスをVIP待遇で受けられるのだが、お得なことばかりでもない。上級者には「緊急時にギルドから依頼された仕事を断ることは出来ない」という不文律がある。破ったところで罰則はないが、ギルドの信頼を得られれば冒険者として活動しやすくなる。
 特に今回は魔物の出現が増え、いつ町になだれ込んでくるかわからないという緊急事態だ。冒険者イスミとしても名を上げるチャンスだし、協力するのはやぶさかではないのだが。
 ――集団行動っていうのがね。

「は~嫌だ嫌だ、どうしてこの私がこんな有象無象共と一緒に行動しなきゃいけないのかね」
「まあまあ、アリスちゃん。弱者を助けるのは強者の義務だし、多少臭くても我慢して付き合ってあげなきゃ」

 悪態をついたのは魔法使いのアリス。フォローしているようで煽っている方が僧侶のソフィー。二人とも二十代前半ぐらいの女性だが、なかなか癖が強そうだ。きらびやかな装備を身にまとい、貴族だということを隠そうとしていない。

「いい女が体を張って付き合ってくれるってんなら張り切っちまうよなあ」
「違げえねえ、ガハハハ」

 他の冒険者たちは彼女たちの傲慢な態度に慣れているのか、憤ることなく馬鹿笑いしている。
 アリスは下品な発言をした有象無象共を睨みつけて「凍らすぞ」と脅す。屈強な男たちも魔法を使われてはかなわない。へらへらしながらも「へへっ、悪かったよ」と頭を下げた。
 今回調査の依頼を受けた冒険者は総勢十八名。ほぼ全員が腕利きの上級冒険者だ。イスミも上級者と認定されて調査依頼が舞い込んだのだが、集団行動は初めてだ。正体がばれたら面倒だから今までずっとソロプレイでやってきたのにな。
 ――しかも今回の依頼はレオも一緒だった。

「事前の情報通りなら、そろそろ大型の魔物が出現する地点に差し掛かる。警戒して行こう」

 一行に注意を促すレオに、冒険者たちが「おう」「まかせろ」などと陽気な声で応える。
 レオは冒険者たちの間でも信用があるらしい。出発前の打ち合わせでレオが調査隊のリーダーに指名されたとき、一切文句が出なかった。レオより年上だったりレベルが高かったりする者は他にもいるが、一番まとめ役に向いているのは間違いなくレオだ。ナイス人選。
 一方、俺は冒険者集団の中で明らかに浮いていた。
 集合したときに名乗って以降、俺は一言たりとも話していない。うかつに会話してイスミ=ニールだとばれたら困るのでレオ以外の人も極力避けている……けどまあ杞憂でしたよね。なにせ強いけど頭のおかしい戦闘狂、と悪評の立っているイスミである。誰も話しかけてこない。都合がいいっちゃいいけど切ない。

 集団の中でぼっちを噛みしめながらも、遅れないように足を進める。
 俺がいるのは集団の後方。物資を積んだ荷馬車が二台に、怪我人が出た場合に備えた緊急搬送用の空の荷馬車が一台。冒険者たちは馬車を中心に前後左右に分かれ、警戒しながら林道を進んでいた。アリスとソフィーは当然のように空の荷馬車に乗っている。上質の敷物とクッションは私物なのか冒険者ギルド側の気遣いなのか不明である。
 この二人が特別待遇である理由は、性別でも身分でもない。彼女たちがこの調査隊で最も強いからだ。もしもの事態に備えて体力を温存しておいてもらわねばならない。
 アリスはレベル31。魔力がかなり高い上に、氷属性の最上位魔法〔アブソリュート・ゼロ〕の使い手だ。その他にも俺がまだ得ていない魔法がいっぱい。めちゃくちゃ欲しいけどこの子とどうにかなる絵面が浮かばない。元男娼で男ばっかり相手していたしな……処女じゃないけど童貞だし……。
 ソフィーの能力については謎だった。何故か〔能力鑑定+++〕を使っても彼女のステータスを覗き見ることができない。冒険者たちの噂によると高名な貴族家の出身で、蘇生魔法の使い手らしいのだけれど。
〔能力鑑定+++〕が通用しないのは彼女自身の特性なのか、それとも装備品が原因なのだろうか。

 ゲームのアルティメット・ドラゴンでは状態異常を防ぐ効果のある装備品がいくつかあった。作中にはスキル自体が存在しないが、この世界には〔能力鑑定〕を阻害する効果のある装備品が存在するのかもしれない。
 もしそういうアイテムがあるなら俺も欲しい。というか必須だ。俺自身が〔能力鑑定〕を受けたら、異常な数の魔法を使えることがばれてしまう。
 今までは司祭がいる教会には近づかないようにしていたけど、それだけでは今後の対策として不安だ。
 ちなみにこの世界の人々は、レベルのことを「神の啓示」として受け入れている。特に冒険者をはじめとした戦闘職の者たちは定期的に教会に通い、お布施を納めて〔能力鑑定〕を受け、レベルや強さを調べている。
 それでもレベルはあくまで目安。戦い方次第でレベルの低い者がレベルの高い者を圧倒することも不可能ではない。

「魔物が接近! アイアンボアが一体!」

 鑑定対策やレベルについて考え込んでいたら、不意に前方が騒がしくなった。戻ってきた斥候がもたらした情報を元に、素早く迎撃態勢が整う。みんな集団での戦いに慣れているなあと感心していたら、プロレスラーみたいな体格の戦士が俺を振り返ってにたりと笑った。

「ちょうどいい、イスミさん。あんたの腕前を見せてくれや。たったひとりでオーガをぶった切ったんだろ? それならアイアンボアだって楽勝だろうなあ」

 他人事のようにぼんやりしていたのがよくなかったらしい。戦士の声に呼応して、遠巻きに見ていた冒険者たちも「そりゃいいや」「お手並み拝見といこう」「いざとなりゃ援護してやるからよ」などと囃し立てる。え~さっきまでフルシカトだったのに急に絡んでくるじゃん。

「おい、無理強いするな」

 前方で指揮をしていたレオが後方のごたごたに気づいて声を上げる。レオは絶対クラスのいじめとか見て見ぬふりしないタイプだよな。ニールの声音で「レオは優しいね♡」と言いそうになったが、俺は黙って前方に進み出た。
 どうやら俺は実力を疑われているらしい。ずっとソロプレイだったから、噂だけが独り歩きしてるフカシ野郎だと思われていても仕方ない。ここで軽く力を披露しておいた方が後々絡まれずに済みそうだ。
 剣を抜くと、冒険者たちが俺から離れていく。林道にひとり立ち尽くす俺に向かって、あっという間に軽トラサイズの魔物が接近してくる。まっすぐ一直線に駆けてくるのは、名前の通り頭が鉄みたいに硬いクソデカイノシシだ。
 念のため〔身体強化〕〔腕力増強〕〔必中撃〕のスキルを発動して、敢えて最も硬い頭部に狙いを定めた。

「――破ッッッ!」

 気合を入れて、魔物と衝突する寸前で剣を振り下ろす。
 剣技も何もない。単純に力でゴリ押しした結果、両断された魔物は俺の左右後方にはじけ飛び、血を吹き出しながら声もなく絶命した。

「あっ……あの硬い頭部ごと……一太刀で……!」
「な、な、なんつーでたらめな」
「地面まで割りやがったぞ!」

 俺はそれほど返り血を浴びなかったが、周囲にいた冒険者たちは巻き添えを食って血まみれになり、呆然と立ち尽くしていた。ワハハ見たか俺の力を。俺の力っていうか他人様からパクったスキルですけども。

「ちょっと! こっちまで血が飛んできたじゃない! もっと綺麗にできないの!? 大体頭をぶった切ってどうすんのよ、素材が無駄になったでしょうが!」
「アリスちゃん、やめときなよ、正論が通じる人じゃないんだよ」

 剣についた血を淡々と拭っていたら、荷馬車から身を乗り出してこちらを見ていたアリスからクレームが飛び出た。
 アイアンボアを狩ると頭部の硬い部分が高値で売れる。今回の調査で倒した魔物の素材はギルドがまとめて引き取り、精算して参加者全員に分配する手はずになっていた。だからまあ、アリスの言うことの方に分がある。実力を見せつけるためにわざと一番硬い部分を狙ったんだけど、それは俺個人の理屈だもんな。

「……ハハハ」

 場を和ませようと笑ってみたら、女子二人も気味悪そうな顔をして黙ってしまった。そうですよね、戦闘狂が笑ったところで逆効果ですよね。
 その後も魔物を倒しながら森の奥に進んで行ったが、改めてヤバい奴認定を受けた俺の出番はなかった。
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