【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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二章

22 次の目的地

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 荷馬車に揺られて街道をゆく。
 ゲームのアルティメット・ドラゴンだったら少数の仲間たちと共に、魔物を倒しながら自由にフィールドを移動できるが、この世界ではそうもいかない。一歩町の外に出れば魔物がうじゃうじゃいる。か弱い旅人が町を移動するときは大きな商隊に便乗させてもらうのが常だ。少々の礼金を渡せば、こうして荷馬車の片隅に居場所をもらえる。

「よう、あんた。レッドドラゴンが出没したとき、あの町にいたんだってな」
「――ああ、はい」

 商隊に雇われた護衛の男が荷馬車に馬を寄せて、ぼんやりと空を眺めていた俺に話しかけてくる。今は魔物の気配がない、開けた草原の中を進んでいた。警戒の必要もなくて暇なようだ。俺も俺で暇なので適当に受け答える。

「僕はただ町にいただけで、ドラゴンが出たーって騒ぎになったときにはもう倒されてましたけど。解体されて町まで運ばれてきたレッドドラゴンの素材ならちらっと見ましたよ」
「へえ! ドラゴンの素材なんざ、まずお目に掛かれるもんじゃねえよな。あんたも仕入れたのかい?」
「まさか! 僕みたいな一介の旅商人に扱える代物じゃないですよ。結局お国でまるごとお買い上げ、という形になったそうです」
「まあ、そりゃそうか……。じゃあイスミは見たかい? レッドドラゴンを倒したっていう」
「それも全然。町中で黒い甲冑の人を見かけたことがあったかな、ってぐらいで」
「なんだあ、そうかい。まあ、被害に遭わなくてよかったよな」

 特に面白みのない俺の話に、護衛の男は肩透かしをくったようだったが、代わりに俺と同じ荷馬車に乗っていた商人が得意顔で口を開いた。

「俺はイスミに会ったことあるぜ」
「へえ! どうだった、やっぱ噂の通り巨漢なのか」
「おおよ、見上げるほどの大男でな、大剣を軽々と担いでる姿はまさに英雄の貫禄が――」

 意気揚々と語り出した商人の話に、周囲に散っていた護衛たちもさりげなく馬を寄せてくる。みんな暇なのだ。俺も俺で、興味のあるふりをして耳を傾ける。
 レッドドラゴンを倒してから、もう三ヶ月。あれからどこへ行っても冒険者イスミの噂でもちきりだった。
 レッドドラゴンを倒した英雄。しかしその偉業に驕らず、ただひたすらに魔物を屠り続け、淡々と依頼をこなし続ける。態度こそ無愛想だが、他者に迎合しない姿は英雄の度量にふさわしい、云々。
 商人の語る話も通り一遍のものだったが、護衛の男たちはイスミと面識のある者の話に感銘を受けている様子だった。
 ――いや俺は知らんけどね、このおっさんのこと。
 たぶん町ですれ違った程度のことなのだろう。それでも一応最後まで話を聞く。イスミが魔物に変身するなんていう噂は一切聞こえてこなかった。
 脅しが効いたのか、レオはイスミの正体について他言することはなかったようだ。
 レオとはあの夜が明けた後に別れたきり。言葉通り、レオは故郷に帰ったのだろう。故郷がどこか語らなかったし、俺も聞かなかった。
 それから俺も町を出て、これまで通り商人と冒険者の二重生活を送りながら各地を巡っていた。
 レオとの間にあったことは、別に特別なことでもなんでもない。イスミの能力を見られるという失態を犯しはしたが、口止めに成功した。望み通りレオの能力も手に入れた。レッドドラゴンを倒して冒険者イスミの名声を高めた。やるべきことはすべてやった。
 なのに、まだ。レオと出会ったあの町に、忘れ物をしてきてしまったような、そんな思いに駆られる。

「そういえば聞いたかい? 国境に近いアルジェの町に、ミッドランド王都から騎士団が派遣されてんだとよ」
「へえ、物騒だな。戦争なんて話もねえだろ」
「どうやら魔物絡みらしいぜ。ここのところジェール川がしょっちゅう氾濫してるのが魔物の仕業だとかで――」
「こらっ、安全圏だからといって気を抜くなよ。じきに国境だ」

 噂話に花を咲かせる護衛たちに、護衛隊の隊長がそれほど緊迫した様子もなく注意を促す。行く手に顔を向ければ、もうすでに関所を肉眼で確認できるほどに迫っていた。
 これまではエスト国内を巡っていたが、今回は国境を越える。次の目的地はこの大陸の中心に位置する大国、ミッドランド。
 ――俺の出生地と思われる国だ。
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