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二章
24 アイテム
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これまで旅商人のニールとして商売をしながら情報収集に励んだ結果、わかったことのひとつ。それは、魔力を持たない者への差別意識が最も酷いのがミッドランドという国だということだ。
他国では貴族家に魔力を持たない子供が生まれてきたとしても、監禁されたり殺されたりしない。多かれ少なかれ冷遇されるが、身分はあくまで貴族のままだ。
一方ミッドランドの貴族は「尊き血筋であるのに魔力を持たない子供など生まれるはずがない」という態度だ。これはつまり「魔力を持たずに生まれてきた子供を秘密裏に殺害している」という証左なのではないだろうか。
ミッドランドの北側に流れるジェール川を下流に向けてたどれば、俺が男娼として暮らしていたエスト領にたどり着く。
幼少期に屋敷から連れ出されたとき、殺害される寸前で飛び込んだのがジェール川だったとしたら地理的にも辻褄が合う。
ミッドランドはアルティメット・ドラゴンのスタート地点でもある。勇者はこの国の王子で、復活した魔王を倒すために旅立つ、というストーリーだ。
この世界では魔王が復活したという話は聞いていない。ここが本当にアルドラの世界なら、そのうち魔王と勇者の戦いが始まるのかもしれないが、俺には関係ない。
――何より大事なのは、俺を虐げた家族に復讐すること。
出身国の目星はついたが、まだ俺の家族については何もわかっていない。この国で冒険者イスミとして活躍すれば、いずれ貴族の耳にも評判が届き、名指しで依頼が来るだろう。そうして上流社会とのつながりを作ることで、より詳しい内情を探ることができるようになるはずだ。
「それにしても――ひどいな」
俺は路地裏を一瞥して顔をしかめた。ひどい臭いだ。表通りは汚れのひとつも見当たらないのに、ここにはゴミが山と積まれている。奴隷の死体が入っていると思われる麻袋も一つや二つではない。
勇者の出身国がこんな有様でいいのか。そんなことを考えながら路地を通り過ぎようとすると、麻袋がもぞりと動いた。
「う……あ……」
ゆるく縛られた袋の口から、やせ細った手が覗く。捨てられた奴隷がまだ生きていたようだ。
限界までこき使われて、病気にでもなって捨てられたのだろう。こうなってしまえば生きていても死んでいても同じこと。死体処理業者が回収しに来るまでに死ぬか、生きたまま墓穴に埋められるかの違いしかない。
「おい、あんた。ちょっとどいてくれねえかな」
俺の背後から現れたのは、荷台を引いた二人組の男だった。恰好からして死体処理業者だと見当がつく。
「なんだい、試し切り用に死にぞこないの奴隷が欲しいのか? だったら銀貨一枚でどうだい」
「ははっ、こんなもんに金を支払う酔狂な人間がいるかよ」
何が楽しいのか、男たちは下卑た表情で笑い合っていた。
金ならある。でも死ぬ間際の奴隷を助けたところできりがない。俺があがいたところで、すべての奴隷を救うことなどできないのだから。
――俺を救えるのは、俺だけだ。
そう決意してはじめた復讐の旅。裏を返せば、俺には他人を救っている余裕なんてない。
もしこの世界に勇者がいるのだとしても、名もない奴隷が勇者に救われることはない。俺が誰にも救われなかったように。
✧
所用を済ませた俺は、誰にも見とがめられずにニールの姿に戻ってから適当な宿をとった。扉に施錠したのを確かめてから、ぐっと伸びをする。
「う~ん……やっぱりこっちの姿の方が落ち着く……」
このまま寝台に寝転がりたいが、その前にもう一仕事。コマンド画面を呼び出して〔アイテム〕の一覧を開く。
この世界を旅するにあたり、〔アイテム〕は非常に便利だった。
ゲームであれば、仲間一人につき十二個までアイテムを所持することができる。それと同じく、この世界でも十二個に限り〔アイテム〕に品物を保管することが可能だ。
任意の品物に手を触れて、コマンド画面から〔アイテム〕を選択して保存する。すると手にした品物は消えて、アイテム一覧に品目が増える。
異空間にでも格納されているのか、どんなに重量のある物を保存しても俺自身は重さを感じない。生鮮品も腐らない。
それに個数の制限は問題にならない。とても単純な話、大きな収納箱をひとつの品物として扱えばいい。
まずは貴重品を詰めた金庫。食事をしまう食糧庫。装備品をまとめたトランク。魔物から狩り集めた素材などの保管庫、などなど。
ちなみにレッドドラゴンの素材も隙を見てパクって保管庫に収納してある。用途はわからないが、今後何かに使えるかもしれない。
旅商人のニールとして過ごしているときは、必要最低限の手回り品だけを持ち歩いている。盗まれたとしても問題ないものばかり。本当に大切なものは〔アイテム〕にしまっている。
この〔アイテム〕から物を出し入れするときは、手品みたいに一瞬で目の前に出現する。他に同じことができる者がいるという話は聞かないので、他人の目のあるところでは使えない。不便なのはその点だけだ。
とりあえず俺は金庫を〔アイテム〕から取り出し、レオからもらったペンダントを奥深くにしまい込んで封印した。
――これの存在は一旦忘れよう。
手回り品の整頓を終えてから、ようやく寝台に横たわる。国境越えをして、この町にたどり着いて。用事を済ませるのに手間取って、まだろくに休んでいない。
そうして旅の疲れを癒やしてからイスミとして冒険者ギルドに顔を出すと、想像とは違う展開が待ち受けていた。
他国では貴族家に魔力を持たない子供が生まれてきたとしても、監禁されたり殺されたりしない。多かれ少なかれ冷遇されるが、身分はあくまで貴族のままだ。
一方ミッドランドの貴族は「尊き血筋であるのに魔力を持たない子供など生まれるはずがない」という態度だ。これはつまり「魔力を持たずに生まれてきた子供を秘密裏に殺害している」という証左なのではないだろうか。
ミッドランドの北側に流れるジェール川を下流に向けてたどれば、俺が男娼として暮らしていたエスト領にたどり着く。
幼少期に屋敷から連れ出されたとき、殺害される寸前で飛び込んだのがジェール川だったとしたら地理的にも辻褄が合う。
ミッドランドはアルティメット・ドラゴンのスタート地点でもある。勇者はこの国の王子で、復活した魔王を倒すために旅立つ、というストーリーだ。
この世界では魔王が復活したという話は聞いていない。ここが本当にアルドラの世界なら、そのうち魔王と勇者の戦いが始まるのかもしれないが、俺には関係ない。
――何より大事なのは、俺を虐げた家族に復讐すること。
出身国の目星はついたが、まだ俺の家族については何もわかっていない。この国で冒険者イスミとして活躍すれば、いずれ貴族の耳にも評判が届き、名指しで依頼が来るだろう。そうして上流社会とのつながりを作ることで、より詳しい内情を探ることができるようになるはずだ。
「それにしても――ひどいな」
俺は路地裏を一瞥して顔をしかめた。ひどい臭いだ。表通りは汚れのひとつも見当たらないのに、ここにはゴミが山と積まれている。奴隷の死体が入っていると思われる麻袋も一つや二つではない。
勇者の出身国がこんな有様でいいのか。そんなことを考えながら路地を通り過ぎようとすると、麻袋がもぞりと動いた。
「う……あ……」
ゆるく縛られた袋の口から、やせ細った手が覗く。捨てられた奴隷がまだ生きていたようだ。
限界までこき使われて、病気にでもなって捨てられたのだろう。こうなってしまえば生きていても死んでいても同じこと。死体処理業者が回収しに来るまでに死ぬか、生きたまま墓穴に埋められるかの違いしかない。
「おい、あんた。ちょっとどいてくれねえかな」
俺の背後から現れたのは、荷台を引いた二人組の男だった。恰好からして死体処理業者だと見当がつく。
「なんだい、試し切り用に死にぞこないの奴隷が欲しいのか? だったら銀貨一枚でどうだい」
「ははっ、こんなもんに金を支払う酔狂な人間がいるかよ」
何が楽しいのか、男たちは下卑た表情で笑い合っていた。
金ならある。でも死ぬ間際の奴隷を助けたところできりがない。俺があがいたところで、すべての奴隷を救うことなどできないのだから。
――俺を救えるのは、俺だけだ。
そう決意してはじめた復讐の旅。裏を返せば、俺には他人を救っている余裕なんてない。
もしこの世界に勇者がいるのだとしても、名もない奴隷が勇者に救われることはない。俺が誰にも救われなかったように。
✧
所用を済ませた俺は、誰にも見とがめられずにニールの姿に戻ってから適当な宿をとった。扉に施錠したのを確かめてから、ぐっと伸びをする。
「う~ん……やっぱりこっちの姿の方が落ち着く……」
このまま寝台に寝転がりたいが、その前にもう一仕事。コマンド画面を呼び出して〔アイテム〕の一覧を開く。
この世界を旅するにあたり、〔アイテム〕は非常に便利だった。
ゲームであれば、仲間一人につき十二個までアイテムを所持することができる。それと同じく、この世界でも十二個に限り〔アイテム〕に品物を保管することが可能だ。
任意の品物に手を触れて、コマンド画面から〔アイテム〕を選択して保存する。すると手にした品物は消えて、アイテム一覧に品目が増える。
異空間にでも格納されているのか、どんなに重量のある物を保存しても俺自身は重さを感じない。生鮮品も腐らない。
それに個数の制限は問題にならない。とても単純な話、大きな収納箱をひとつの品物として扱えばいい。
まずは貴重品を詰めた金庫。食事をしまう食糧庫。装備品をまとめたトランク。魔物から狩り集めた素材などの保管庫、などなど。
ちなみにレッドドラゴンの素材も隙を見てパクって保管庫に収納してある。用途はわからないが、今後何かに使えるかもしれない。
旅商人のニールとして過ごしているときは、必要最低限の手回り品だけを持ち歩いている。盗まれたとしても問題ないものばかり。本当に大切なものは〔アイテム〕にしまっている。
この〔アイテム〕から物を出し入れするときは、手品みたいに一瞬で目の前に出現する。他に同じことができる者がいるという話は聞かないので、他人の目のあるところでは使えない。不便なのはその点だけだ。
とりあえず俺は金庫を〔アイテム〕から取り出し、レオからもらったペンダントを奥深くにしまい込んで封印した。
――これの存在は一旦忘れよう。
手回り品の整頓を終えてから、ようやく寝台に横たわる。国境越えをして、この町にたどり着いて。用事を済ませるのに手間取って、まだろくに休んでいない。
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