【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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二章

25 貴族からの依頼

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「貴殿がイスミ殿か! 町へ来訪されたならまずは冒険者ギルドに出頭していただかなくては困りますな!」

 冒険者ギルドに顔を出すと、待ち構えていたギルドマスターが切羽詰まった様子で食ってかかってきた。
 つい「え? 俺に言ってる?」と言いかけて言葉を飲み込む。レッドドラゴンを倒した冒険者イスミはどこへ行っても英雄扱い。ここでも当然もてはやされるものだとばかり思っていたので面食らってしまった。
 周囲に居合わせた冒険者たちも固唾を呑んで成り行きを見守っている。挨拶もなしに無礼だと強硬に出るか? それとも、この国では新参者である俺の方が謝るべきか? 迷っている間にギルマスの方が折れた。

「……火急の用ゆえ、失礼しました。どうか今はとにかく馬車へ」

 ギルマスに促されて、来たばかりの冒険者ギルドを後にする。ギルド所有の馬車に押し込められるや否や、ギルマスは切迫した様子で説明をはじめた。
 ――冒険者ギルドに貴族の遣いがやってきたのは数日前のこと。イスミを名指ししての依頼だった。
 冒険者イスミがこの町にいるという情報をいち早く捉え、早々に使者をよこしたらしい。しかし当のイスミが冒険者ギルドに顔を出す様子はない。人を使って町の宿を片っ端からあたっても一向に見つからない。貴族にせっつかれたギルマスは大慌てで俺を探し回っていたそうだ。
 街中で出せる最大速度で移動する馬車の中で、ギルマスは汗を拭きつつ説明を続けた。

「よその国ではどう振る舞っていたか存じ上げませんが、ここはミッドランドです。貴族の呼び出しには即応、待たせるなどとは言語道断。貴族の不興を買っては今後の活動にも差し支えますぞ」

 嫌味ったらしい物言いは説明というかもはや説教だ。「お前が無礼を働いたせいでギルドにまでとばっちりが来たらどうしてくれる」という内心が透けて見える。
 そんなん知らんがな。冒険者なんだから基本的には町の外で魔物の討伐をしたり、素材採取に出かけている。暇なお貴族様と違ってこっちは金を稼がないと今日の飯にもありつけないんだから即応できるわけねえだろ――と言いたいところだが、ここで言い争っていても仕方ない。俺は手短に「心得ておく」とだけ答えた。

 肝心の依頼主と依頼内容の説明も間に合わず、馬車が止まる。着いた場所は町の中心部にある領主の館だった。
 館自体は豪奢で雅やかだが、物々しさに思わず目を見張る。広大な敷地に居並ぶ騎士たちと軍馬。そういえばミッドランド王都から騎士団が派遣されたと噂に聞いていた。彼らは領主の館を滞在地として接収していたらしい。
 よくよく観察する暇も与えられず、通用口から館の中へ通される。案内された応接室に足を踏み入れると、文官らしき貴族と小姓、さらに護衛の騎士が三人、すでに待機していた。
 俺とギルマスは床に片膝をついて首を垂れる。ソファにふんぞり返って茶を飲んでいた貴族は名乗るでもなく、顔を上げろとも言わずに一方的に俺を罵り始めた。

「ふん。貴様がイスミか。この私がわざわざ呼んでやったというのに、これほどまでに待たせるとはどういうつもりだ」
「申し訳ございません」
「ふん。いかがわしい冒険者の分際でレッドドラゴンを倒したと聞いていたが、その程度で調子に乗っているのか? レッドドラゴン討伐の際には貴族階級の者が数名同行していたと聞いている。貴様などはたまたま生き残っておこぼれにあずかっただけであろう」
「おっしゃる通りです」
「ふん。まあいい。この度は貴様に依頼をくれてやろう。ありがたく思え」
「光栄に存じます」

 クッソうぜえな。最初に「ふん」って小馬鹿にした笑いをしないと喋れねえのかよ、と内心で悪態をつく。まあでもこの手のクソ貴族の相手は男娼時代に嫌というほどしてきた。クソ客耐性なめんな。

「して、まずは素顔を見せるがいい。この無礼者めが」
「とても人前で見せられる顔ではございませんが……」
「ふん、もったいぶるな。早く兜を取れ」

 有無を言わさぬ物言いに、俺は悩むふりをする。文官も貴族たちも、ギルマスさえも興味深そうに俺を注視している。けして兜を脱がない――そんなイスミの噂を耳にしているのだろう。隠されるものほど暴いてやりたい。好奇心が煽られても仕方がない。
 いつか人前でイスミの素顔を晒さねばならない日が来るとは思っていた。なのでここまでの道中、俺はパペットスライムを集中的に狩っては喰らい、〔形態変化〕のスキルを強化した。
 スライムの汁はゲロまずい。エグくて苦くて辛くて最悪。それをすすりまくったおかげで〔形態変化+++〕まで強化された。硬かった表情もかなり柔軟に動かせるようになった。だがやはりフルフェイスの兜で表情を隠している方が神経を使わずに済むし、ボロが出にくい。
 そういうわけなので。

「――ヒュッ!」

 兜をとった俺の姿に、文官は息を詰まらせた。
 ケロイドに覆われた皮膚。引き攣れて動かない目元。鼻は削がれ、穴が空いているのみ。唇の端はめくり上がり、歯茎が一部剥き出しになっている。レッドドラゴンに顔面をかじられて炎のブレスを浴びたらこんな風になるだろう、という感じの無残な仕上がりだ。

「お、おお……その怪我でよくぞ……」
「……あ、ああ……まあ、兜をしたままでよいのではございませんかな……」

 背後に控えていた護衛の騎士たちが取りなすと、口をぱくぱくさせていた文官はようやく我に返った。

「――はっ! はわ! そ、そうだな……早くその顔をしまうがいい」
「ご高配、ありがたく存じます」
 
 兜を被り直すと、文官は冷や汗をハンカチで拭いながら俺たちに着席を許可した。向かいの席に座ってもお茶などは出てこない。文官に促された小姓はすみやかに前に進み出て、依頼内容についての説明をはじめた。

 彼らはミッドランド王家より正式に派遣された精鋭部隊、その名も閃光騎士団。目的はジェール川の源流に棲む魔物の討伐。魔物が川を荒らしているせいで何度も氾濫が起きており、近隣の村落で被害が続出しているそうだ。
 斥候によって魔物の姿はすでに確認されている。報告によると、源流域の滝壺に棲む魔物は巨大で体長が長く、ぬめった表皮をしているらしい。最近レッドドラゴンが出現したことを踏まえ、恐らくは伝承にあるブルードラゴンなのではないかと推測される。
 本来であれば閃光騎士団のみで討伐が可能だが、どうしてもと言うならイスミを筆頭とした上級冒険者に限り同行させてやってもいい。二十人前後いれば事足りる。報酬は閃光騎士団と共に戦える栄誉――つまりは無報酬の強制徴用である。
 いくら国お抱えの騎士団からの依頼とはいえ、報酬ゼロはさすがにあり得ない。ギルマスが手を揉みしだきながら交渉を試みる。

「誠にありがたきご依頼を賜りまして、ギルドを預かる者として喜びに打ち震えております。ですが報酬に関しては、その……冒険者はみな、金のない貧乏人でして……どうか御慈悲を賜りたく……」
「ふん。誉れ高き閃光騎士団と轡を並べる栄誉であるぞ。本来いくら金を積んでも貴様ら平民には得られぬ機会だというのに、生意気を申すな」

 小姓に説明を任せていた文官が小馬鹿にしたようにため息をつく。それでもギルマスはどうにか食い下がって報酬を得られるよう交渉を続ける。粘り強いが、かなりの低姿勢だった。
 冒険者ギルドは魔物を退治する冒険者を支援する組織だ。基本的な支援内容は同じでも、その体質は国ごとに異なっている。エストのギルマスは貴族を敬いはしても、これほどへりくだることはなかった。
 俺は話に絡むことなく成り行きを見守っていた。
 冒険者たちに期待されているのは、ブルードラゴンに会敵するまでの道のりを切り開くこと。要は本丸にたどり着くまでの露払いだ。
 イスミはレッドドラゴンの討伐経験を買われ、上級冒険者の代表みたいな立場で呼び出されたらしい。別段口出しをする場面もないので、俺は文官の背後に控える騎士たちに目をやった。
 彼らも一人残らず貴族階級なのだろう。そういえば久しぶりに出会うお貴族様である。ここまでえらそうにふんぞり返ってるんだから、さぞかし貴重な魔法を使えるんだろうな、と思いながら〔能力鑑定+++〕を発動させてみると。
 ――お。おお。おおお! すっごい! こいつら全員上位魔法の使い手じゃないですかやだー!
 雷属性の〔ライトニングボルト〕、火属性の〔エクスボルケーノ〕、それに風属性の〔エアリアルドライブ〕。
 やばい。ほしい。是が非でもほしい。騎士団が派遣されてきているということは、きっとこいつら以外にも貴重な魔法の使い手がいる。このチャンス見過ごせませんね!

「して。イスミとかいったな。貴様の意見も聞かせてみよ」
「意見など滅相もない。ありがたく拝命致します」

 新しい能力を手に入れることに気を取られて浮かれまくっていた俺は、ろくに話も聞かずに頭を下げた。文官は「ふん、殊勝な態度ではないか」と上機嫌になり、交渉に失敗したギルマスは俺に恨めしそうな視線を投げかけた。
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