26 / 96
二章
26 ウハウハ
しおりを挟む
夕刻になるのを見計らい、俺は商人のニールとして貴族街に足を踏み入れた。
ミッドランドは他国よりも身分差別が激しい。平民のニールは本来であれば貴族街への立ち入りはできないのだが、そこは袖の下と顔面の可愛さでなんとかした。
領主の館を目指して迷わず進む。何しろどデカい派手な館だし、冒険者イスミとして来たときにも道を確認していた。使用人が出入りする通用門に近づくと、門番をしていた騎士から誰何された。
「そこの者、如何なる用向きか」
門番は二人。いずれも閃光騎士団の紋章の入った鎧で装備を固めている。俺は人懐こい仔犬の笑みを浮かべながら両膝をついた。
「騎士様方にご挨拶申し上げます。私は旅商人のニールと申します。こちらに王都から派遣された騎士団の方々がいらっしゃると伺ったので、差し入れをお持ちいたしました」
「差し入れだと? 貴族街で商売をするための許可証は持っているのか?」
「いいえ、許可証は持っておりませんが、恐ろしい魔物を退治しに来てくださった勇敢な騎士様方に、ささやかなご奉仕をしたいと思いまして……」
あらかじめ考えていたセリフを述べながらバスケットを胸元に掲げる。今回持ってきたのは魔法石ではなくマジックポーションだ。多彩な魔法を使いこなす騎士団に魔法石を持ってきても需要はないだろうが、MPを回復するマジックポーションなら受けがいいだろう。
ちなみに最近〔錬金術〕のスキルを使いこなせるようになりました。レシピ通りの素材を集めてスキルを使えばあっという間にマジックポーションのできあがり。レシピは本来極秘だが、冒険者として素材採取の依頼を受けていれば大体察しがつく。魔法石を作るよりは手間がかかるけれど、素材は自力で集められるし、あとは薬瓶を用意すればいいだけ。
案の定、マジックポーションを目にした騎士たちの反応は良かった。
「ほう、マジックポーションか! しかしな……無償奉仕であっても、許可証がない者から物品を受け取ることはできない決まりになっている」
「そうなのですね。無知で申し訳ございません、ご奉仕のつもりで参りましたが、かえってご迷惑をおかけして」
「いや、迷惑ではないぞ。気持ちだけ受け取っておこう」
叱られてしゅんと耳を伏せる仔犬をイメージしつつ謝罪すると、若い騎士たちはしかめ面を解いて口元に笑みを浮かべた。
よし、好感触。さりげなく〔鑑定+++〕でチェックすると、片方は火属性の中位魔法〔バーストフレイム〕の使い手だった。もうひとりも〔三連斬〕というスキルを持っている。よっしゃ。ここで二言三言世間話をして顔を売っておいて、後日偶然を装って近づいてぺろりといただこう。
内心で舌なめずりしていると、近くで話を聞いていたらしいチョビ髭の騎士が割り込んできた。
「なんだ貴様ら、融通が利かないな。せっかくの好意を無下にすることはないだろう」
チョビ髭の騎士に向かって、若い騎士たちが敬礼する。騎士の中でもそこそこ身分が高いのだろう。俺は怯えたふりをしながら頭を下げた。
このチョビ髭騎士には見覚えがある。文官の護衛をしていた騎士のひとりだ。傲慢という概念を擬人化したような顔立ちをしているが、雷の上位魔法〔ライトニングボルト〕の使い手だ。
「商人か。どれ、顔をあげてみろ」
チョビ髭騎士は俺の姿を頭のてっぺんからつま先まで無遠慮にじろじろと眺めて、にやりといやらしい笑みを浮かべた。
「ふむ、これはなかなか……こんな片田舎にしては上玉ではないか。どれ、情けをくれてやろう」
――Oh,Yes! いきなり大物が釣れたではないですか!
そんな本心はおくびにも出さず、俺は困り顔で後ずさった。
「あ、あの、困ります。僕、そんなつもりじゃ」
「安心しろ、存分に可愛がってやる。貴様の働きに応じて褒美も与えてやろう、ありがたく思えよ」
乱暴に腕を掴まれて、有無を言わさず館へと連行される。そんな俺の様子が不憫に思えたのか、若い騎士が生真面目に進言した。
「恐れながら、そのような行為は規律違反となります。どうかお考え直しを……」
「下級貴族が口を出すな! 貴様らは黙って門番をしていろ」
チョビ髭騎士は若い騎士たちを怒鳴りつけ、俺を連れて裏口に回った。半ば引きずられながら振り向くと、若い騎士たちは心配そうな顔で俺を見ていた。一応「助けてほしい」という素ぶりを見せておいたが内心ウハウハです。
裏口といえども領主の館はゴージャスだった。廊下には絨毯が引かれ、そこかしこに調度品が置かれている。
このまま寝室に連れ込まれてセックスする流れかな、と思った俺が甘かった。腕を引かれるがままにたどり着いたのは、貴族たちがたむろするシガールームだった。くつろいだ姿の屈強な男が五人。嫌な予感しかしなくて思わず一歩後退したが、チョビ髭の騎士は強引に俺を引っ張って、背後から両肩をがしりと掴んでシガールームへ押し込んだ。
ミッドランドは他国よりも身分差別が激しい。平民のニールは本来であれば貴族街への立ち入りはできないのだが、そこは袖の下と顔面の可愛さでなんとかした。
領主の館を目指して迷わず進む。何しろどデカい派手な館だし、冒険者イスミとして来たときにも道を確認していた。使用人が出入りする通用門に近づくと、門番をしていた騎士から誰何された。
「そこの者、如何なる用向きか」
門番は二人。いずれも閃光騎士団の紋章の入った鎧で装備を固めている。俺は人懐こい仔犬の笑みを浮かべながら両膝をついた。
「騎士様方にご挨拶申し上げます。私は旅商人のニールと申します。こちらに王都から派遣された騎士団の方々がいらっしゃると伺ったので、差し入れをお持ちいたしました」
「差し入れだと? 貴族街で商売をするための許可証は持っているのか?」
「いいえ、許可証は持っておりませんが、恐ろしい魔物を退治しに来てくださった勇敢な騎士様方に、ささやかなご奉仕をしたいと思いまして……」
あらかじめ考えていたセリフを述べながらバスケットを胸元に掲げる。今回持ってきたのは魔法石ではなくマジックポーションだ。多彩な魔法を使いこなす騎士団に魔法石を持ってきても需要はないだろうが、MPを回復するマジックポーションなら受けがいいだろう。
ちなみに最近〔錬金術〕のスキルを使いこなせるようになりました。レシピ通りの素材を集めてスキルを使えばあっという間にマジックポーションのできあがり。レシピは本来極秘だが、冒険者として素材採取の依頼を受けていれば大体察しがつく。魔法石を作るよりは手間がかかるけれど、素材は自力で集められるし、あとは薬瓶を用意すればいいだけ。
案の定、マジックポーションを目にした騎士たちの反応は良かった。
「ほう、マジックポーションか! しかしな……無償奉仕であっても、許可証がない者から物品を受け取ることはできない決まりになっている」
「そうなのですね。無知で申し訳ございません、ご奉仕のつもりで参りましたが、かえってご迷惑をおかけして」
「いや、迷惑ではないぞ。気持ちだけ受け取っておこう」
叱られてしゅんと耳を伏せる仔犬をイメージしつつ謝罪すると、若い騎士たちはしかめ面を解いて口元に笑みを浮かべた。
よし、好感触。さりげなく〔鑑定+++〕でチェックすると、片方は火属性の中位魔法〔バーストフレイム〕の使い手だった。もうひとりも〔三連斬〕というスキルを持っている。よっしゃ。ここで二言三言世間話をして顔を売っておいて、後日偶然を装って近づいてぺろりといただこう。
内心で舌なめずりしていると、近くで話を聞いていたらしいチョビ髭の騎士が割り込んできた。
「なんだ貴様ら、融通が利かないな。せっかくの好意を無下にすることはないだろう」
チョビ髭の騎士に向かって、若い騎士たちが敬礼する。騎士の中でもそこそこ身分が高いのだろう。俺は怯えたふりをしながら頭を下げた。
このチョビ髭騎士には見覚えがある。文官の護衛をしていた騎士のひとりだ。傲慢という概念を擬人化したような顔立ちをしているが、雷の上位魔法〔ライトニングボルト〕の使い手だ。
「商人か。どれ、顔をあげてみろ」
チョビ髭騎士は俺の姿を頭のてっぺんからつま先まで無遠慮にじろじろと眺めて、にやりといやらしい笑みを浮かべた。
「ふむ、これはなかなか……こんな片田舎にしては上玉ではないか。どれ、情けをくれてやろう」
――Oh,Yes! いきなり大物が釣れたではないですか!
そんな本心はおくびにも出さず、俺は困り顔で後ずさった。
「あ、あの、困ります。僕、そんなつもりじゃ」
「安心しろ、存分に可愛がってやる。貴様の働きに応じて褒美も与えてやろう、ありがたく思えよ」
乱暴に腕を掴まれて、有無を言わさず館へと連行される。そんな俺の様子が不憫に思えたのか、若い騎士が生真面目に進言した。
「恐れながら、そのような行為は規律違反となります。どうかお考え直しを……」
「下級貴族が口を出すな! 貴様らは黙って門番をしていろ」
チョビ髭騎士は若い騎士たちを怒鳴りつけ、俺を連れて裏口に回った。半ば引きずられながら振り向くと、若い騎士たちは心配そうな顔で俺を見ていた。一応「助けてほしい」という素ぶりを見せておいたが内心ウハウハです。
裏口といえども領主の館はゴージャスだった。廊下には絨毯が引かれ、そこかしこに調度品が置かれている。
このまま寝室に連れ込まれてセックスする流れかな、と思った俺が甘かった。腕を引かれるがままにたどり着いたのは、貴族たちがたむろするシガールームだった。くつろいだ姿の屈強な男が五人。嫌な予感しかしなくて思わず一歩後退したが、チョビ髭の騎士は強引に俺を引っ張って、背後から両肩をがしりと掴んでシガールームへ押し込んだ。
61
あなたにおすすめの小説
異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました
おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。
人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。
最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。
おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。
だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。
俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。
これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。
……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう?
そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。
※他サイト様にも同時掲載しています。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない
コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。
だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。
野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。
それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。
そんな生活から一年。
冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。
――王都へ戻れる。
それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。
迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。
「ならば、ずっとここにいろ」
「俺と婚約すればいい」
不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。
優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。
※他サイトにも掲載しています。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる