【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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二章

29 悪口

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 閃光騎士団の露払い役としてタダ働きさせられると知らされた冒険者たちは、大いに荒れていた。
 
「冗談じゃねえっての! 俺らを猟犬扱いしやがって!」
「仕方ないさ、上級冒険者のイスミ様が進んで貴族に尻尾を振ってるんだからよ」
「あーあ、タダ働きなんて最悪だ」
「まったくだ、ギルマスは騎士団相手に『冒険者が狩った魔物は冒険者の所有物にしていい』っていう取り決めを結んだとか言ってたけど、そりゃ当たり前のことだしよ」
「だったら慣れた狩場で魔物を倒す方がよっぽど安全だってのに……イスミの野郎め、こっちはいい迷惑だ」

 ニールの姿で訪れていた酒場にて。俺はカウンター席に肘をついたまま、方々から聞こえてくるイスミの悪口に耳を傾けていた。
 いわく、貴族にこびへつらうヘタレ。レッドドラゴンを倒したというのは妄言で、本当は詐欺師。死にぞこないの奴隷を買って憂さ晴らしに殺している異常者。噂に尾ひれがついて、もはや罪人扱いである。酷いものだ。
 もちろん俺がイスミの姿をしているときは少しもそんな話は聞こえてこない。威勢よく悪口を言っている奴らも、イスミの威容にはおびえるばかりだ。
 大方、閃光騎士団との交渉に失敗したギルマスが俺を悪者に仕立て上げたのだろう。まあ俺も能力欲しさに浮かれてたので悪かったっちゃ悪かったけど。
 冒険者たちもあからさまに貴族の悪口は言えない。下手なことを言えば不敬罪で処罰されてしまう。したがって不平不満の矛先がイスミに向いているのだった。
 冒険者ギルドでは早くも上級冒険者たちを招集し、魔物の討伐隊が編成された。出立は三日後。ブルードラゴンが生息していると思われる山間の滝つぼまで道を切り開くのが俺たちの仕事だ。
 閃光騎士団の皆様方は道が整ってから悠々とブルードラゴン討伐にお出ましになる。いいご身分ですね。

「マスター、エールおかわり」

 ちょっぴり不貞腐れながらも酒場のマスターにおかわりを注文する。すぐさま真鍮のカップに注がれたエールが俺の目の前に置かれる。味は最悪だけど酔うには最適なアルコール濃度だ。
 ぬるい安酒を飲み下しながら、俺は酒場を見渡して〔能力鑑定+++〕を発動させた。
 さすが上級冒険者。いいスキルをたんまり持っている。片隅の席で一人で飲んでる侍っぽい風貌のおっさんとか特にいいですね。〔居合切り〕って日本刀でなくてもできるのだろうか。というかこの世界に日本刀があるのか? そのへんも詳しく知りたい。

「よお、あんた商人か? 待ち合わせでもしてんのかい?」

 俺が侍風のおっさんに目をつけていたら、さっきまでイスミの悪口に花を咲かせていた若い冒険者に声をかけられた。

「わんわん」
「お? なんだ、酔ってんのか?」
「えへへ……ちょっとだけ」

 かわいい声音で犬の鳴きまねをする俺に、若い冒険者はへらりと笑って隣の席に腰を下ろした。こいつはイスミが貴族に尻尾を振ってるとか言ってましたからね。ちょっとした皮肉だ。
 どんな商売してんの、景気はどう、などと話しかけてくる。明らかに俺に気がある様子だ。でもスキルを持っていない男はお断りである。
 のらりくらりと若い冒険者の質問をかわして、とっとと撤収しようと試みる。
 俺は「このあと約束があるので」と適当な嘘をついて席を立ったが、若い冒険者よりも少し年配の冒険者に退路を塞がれてしまった。

「なあ、あんた、男娼上がりかなんかだろ? かわいい顔してんもんなあ」

 すえた臭いと澱んだ眼差しに、すぐにピンとくる。こいつはたちが悪い。おまけに悪酔いしている。客だったら最低のクソ客だが今は金で買われているわけではない。しかもこいつもスキル持ってないじゃん。やる意味がない。

「どうだ、いくらでやらせる? かわいがってやるからよお」
「おい、そういうのは店の外でやれ」

 すかさずカウンターの向こう側からマスターの声が飛んでくる。買春も売春も店の中では迷惑だってことね。マスターに俺を助ける気はないらしい。周囲の冒険者たちも面白そうに成り行きを見守っている。侍風のおっさんが助けてくれたら接点を作るチャンス、と思いつつ視線を投げるが、おっさんはガン無視で酒を煽っていた。うーん脈なし。
 まあ大丈夫っす。こういうときは「やだやだ♡ 困ります♡」と困惑しつつ男の言いなりになっておいて、暗がりに引きずり込まれてから記憶を失うぐらい強めに頭をどついてやればいいだけである。簡単だね。
 よ~し、今日は強めにどついちゃうぞ。そう思っていたら、ひとりの男が割って入った。

「よしたまえ。無理強いをするものではない」
「ああ? なんだてめえは!」

 仲裁に入ったのはローブをまとった男だった。どこの誰と名乗ることもなく、さりげなくローブの前をはだけて腰に履いている剣を見せる。そこに刻まれていたのは閃光騎士団の紋章だった。

「――お、おお……まあ、べつに、なんにも……悪いことしようって思ってたわけじゃねえですよ」
「そうそう、ちょっとふざけてただけで、俺たちもう帰るんで……」

 俺に絡んできた冒険者たちは尻尾を巻いてそそくさと酒場から出ていった。
 ローブの男に見覚えがあった。領主の館で門番をしていた、閃光騎士団の騎士のひとり。今は鎧を身につけていないが、間違いない。

「あ、あの、ありがとうございます」
「君もつくづく災難だな。……私たちも出ようか」

 門番をしていた若い騎士に連れられて、俺たちも店を出る。「宿まで送る」という申し出を固辞する流れでもない。俺は大人しく若い騎士の後についていった。

「まさか、二度も助けていただくことになるとは思いませんでした」
「いや、いいんだ。先日のことは私たちに非があることだしな」

 非がある、という言葉に驚く。貴族のくせに、平民を痛めつけるのが悪いことだと思うやつもいるんだな。珍しい。
 ――まあ、前にもいたけど。そんなやつ。

「でも、どうしてあのような場所にいらっしゃったのですか? 騎士様が遊ばれるには粗末な店かと」
「ああ、それは……まあ、事情があって」
 
 繁華街を宿に向かって歩きながら会話を交わすが、若い騎士の歯切れは悪かった。
 俺が宿の場所を教えてもいないのにすたすたと先をゆくのも怪しい。あの酒場を訪れたのも、俺を探しにやってきたのだと思われる。でもなぜ。俺がかわいいから? やだな、もうこの騎士が使える魔法ならゲットしちゃったからな~お相手しても無駄なんだよな~。
 なんて。そんな理由ならいいが、あまり楽観していられる雰囲気でもない。
 宿の前までたどり着くと、若い騎士は気まずそうに俺を振り返った。

「その、だな。あのような目に遭わされたばかりで、もう私たちに関わりたくないと思っているかもしれないが……どうか、あの馬車に乗っている方と、話をしてもらえないだろうか」

 あの馬車、と指をさされて、辻に視線を向ける。そこには貴族用の馬車が停められていた。若い騎士に視線を戻すと、俺に向かって頭を下げた。

「これは、あくまで、ただのお願いに過ぎない。君の意思で断ることができる。断っても咎めはないと、閃光騎士団の名にかけて誓う」

 平民の俺にここまで気を使うとは。裏を返せば「どうしても話をしてほしい」ということだ。
 面倒事の気配しかない。能力をいただいたからもう用済みだし。でも、貴族社会とのつながりは、復讐のためにもやはりほしい。

「ええと……、本当にお話するだけなら、喜んで」

 俺の返答に、若い騎士は申し訳なさそうな顔をしながらも、ほっと息を吐いた。
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