【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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四章

56 妖精伝説(アーサー視点)

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 エミリアの故郷はサライアの北にある。ゲームのフィールド画面だったら大した距離ではないが、この世界ではかなり辺鄙なド田舎だった。馬では通れない山道が続く。レナードは俺の分まで荷物を背負っていても涼しい顔をしていたが、俺はかなり苦労させられた。
 それでもようやく目的地にたどり着いて、エミリアを見つけたとき。疲労はいっぺんに吹き飛んだ。

「まあ……勇者様、ですか……」

 勇者だと名乗る俺に、僧侶のエミリアは困惑していた。
 エミリアは期待以上の美少女だった。困っている顔すら可愛い。水色の髪に金色の瞳。年齢は十六歳。いいね、女子高生じゃん。
 せっかくだから親密になりたいと思ったのに、エミリアは恐縮しきって小さくなっていた。まあ王子の俺とただの村娘のエミリアじゃ身分が違うから戸惑うのも仕方ないか。

「失礼ながら、ミッドランド王国の王子であらせられるアーサー殿下が、なぜこんな辺鄙な村までお越しになられたのでしょうか」

 俺はエミリアとだけ話をするつもりだったのに、横から村長のジジイが口を出した。他にもオババ様だのなんだの、エミリアにまとわりついて訝しげに俺たちを見ている。よそ者を警戒しているらしい。これだから田舎者は嫌なんだよな。それでも俺は苛立ちを抑えて、勇者らしくにこやかに対応してやった。

「魔王が復活したせいで魔物が暴れ回ってるだろ? 俺たちは魔物を倒しに来たんだ」
「魔王が復活ですと!」
「なんということだ……!」

 俺の言葉に村人たちが騒然とする。魔王復活の予言もこの村にまでは届いていなかったらしい。ド田舎だもんな。電話もメールもないし、知る手段がない。

「しかしながら、ラパス村の周辺では、魔物の被害は特に出ておらず……」
「そういえば最近魔物を見ておらなんだ」
「妖精様の加護のおかげだわな」

 他の村人たちも村長の言葉に続けてしゃべり始める。
 妖精、というのはこの村の守り神的なやつだ。アルティメット・ドラゴンでは魔王の復活と共に妖精が魔物化し、村人たちを襲うようになってしまう。その邪悪な妖精を退治するために、エミリアは町まで助けを求めに来るはずだったのだけれど。
 なんでゲームと違う展開になっているのかわからないが、魔王が復活したんだし、ここにもそのうち魔物が現れるはずだ。

「妖精が出る泉まで案内してほしい。エミリアも同行してくれるよね」
「は、はあ……あの、恐れ入りますが、なぜ私なのでしょうか……」
「なぜって、エミリアが勇者の仲間になる運命だからだよ」

 運命、と言えばそれ以上説明不要だろうと思ったけれど、エミリアはただ困惑するばかりだった。
 他の村人も同行するとしつこかったが、俺が強めに「エミリアだけでいい」と言うと、しぶしぶ引き下がっていった。



 エミリアを案内役に、森の中を進む。妖精が棲む泉はこの森の奥にあるらしい。
 道すがら、これから仲間になるエミリアと打ち解けるために色々話しかける。

「こんな田舎暮らし、退屈じゃない? エミリアは普段何してんの?」
「病める者たちを魔法で癒し、この村の特産品であるマジックポーションの製作を手伝っております。妖精が棲まうこの森の泉を利用して作るため、効能が高いと評判なのです」
「ふーん。てゆうかエミリアはかわいいからモテそうだよね。村の男に嫌な思いさせられてない?」
「村の者達はとても優しく、誰にも親切です。私は養護院で尼僧たちと暮らしております」
「へー。その年で年寄りの介護とか大変じゃん。毎日つまらないよね」
「そのようなことはございません。ラパス村の者たちはみな平和に感謝して暮らしております」

 どれだけ優しく話しかけてやっても、エミリアは堅苦しい答えばかり返してくる。エミリア自身について尋ねても、なんだかんだで村の話になってしまうし。
 まあ、俺は王子だから。いきなり気安く話せって言っても無理だよな。
 レナードは俺たちの会話に混ざらず、後方の警戒に徹していた。

 何事もなく森の奥までたどり着く。そこには澄み切った美しい泉が広がっていた。
 ゲームだと毒に汚染された沼って感じだったけど、ここは普通に綺麗だった。ピクニックでもしたら楽しそうだ。
 泉のほとりでエミリアが膝をつく。祈りを捧げると妖精たちが集まってきた。

「妖精の加護のもと、私たちは慎ましく暮らしております。ミッドランド王国のご威光をいただき、平穏な日々を享受させていただいていることを、村の者たちを代表して感謝を申し上げます」

 集まってきた妖精に囲まれながら俺に向かって頭を下げるエミリアの姿は、はっとするほど綺麗だった。これまで見てきた王都のどの女よりもかわいい。
 妖精は俺たちの周りにも集まり出した。手のひらに収まるほどのサイズの、人型に蝶の翅が生えた妖精。ほのかに光を放っている。
 ついついエミリアに見惚れてしまっていた俺は、本来の目的を思い出して周囲に目を走らせた。ここに来たのは魔物を狩るためだ。

「ニールが見たら、喜ぶだろうな……」
「まあ、もしや聖騎士様には想い人がいらっしゃいますか?」
「い、いえ! その……はい、私が勝手に想っているだけですが……」
「ふふ、妖精は恋の願いを叶えてくれるという言い伝えもありますよ」
「そうなのですね……恋の願いを……」

 俺が魔物を探している間に、レナードとエミリアが何やら浮ついた話をしていた。エミリアがレナードに向ける表情が、俺に向けるものよりも親しみがこもっていてイラッとする。てゆうかレナードは彼女いるんだ? ――なんて思っていたら。俺のすぐ近くに、金色の妖精が寄ってきた。

「おっ、ラッキー」

 探していた魔物――金色の妖精を掴んで、ぐしゃりと握りつぶす。手袋に金色の鱗粉と体液が付着して気持ち悪い。こんな虫みたいなのを相手に剣を抜くまでもないと思ったけれど、次からは剣で殺そう。

「きっ、きゃああああ――!」

 突然、エミリアが甲高い悲鳴をあげた。他の妖精たちは一斉に逃げていった。

「なっ、なんだ!? どうした!?」

 俺は素早く周囲に目を走らせる。魔物が出たのかと思ったが、レナードとエミリアが見ているのは俺。二人とも信じがたいという表情をしていた。

「アーサー殿下! なぜ、妖精を殺したのですか……!」
「え? レベル上げのためだけど」

 手袋についた鱗粉を払いながらレナードの問いに答える。
 金色の妖精――ゴールドフェアリーは出現率の低いレアモンスターだ。他のザコ妖精、ダークフェアリーと姿は一緒だが色が違う。そして殺したときに獲得できる経験値は桁違い。なんと三千もゲットできる。
 コマンド画面を開いてステータスを確認すると、俺のレベルは15から16に上がっていた。レナードも経験値は増えている。エミリアはまだ正式に仲間になっていないせいか、ステータスを見られなかった。
 ゴールドフェアリーを探すのに時間はかかるけど、序盤でレベル上げしておけば楽にゲームを進められる。村にはただで泊まれるので宿代がかからないのもいい。そういう合理的な理由があるのに、レナードもエミリアも訳がわからないという顔をしていた。
 特にエミリアは怒り心頭で金切り声を上げた。

「何の罪もない、無垢な妖精を殺すなんて! なぜそのようなことをなさるのです!」
「は? だからレベル上げだって」
 
 顔はいいのにヒス女かよ、面倒臭いな。どうやって黙らせようかと考えていたら、レナードが素早く動いて俺を背に庇った。その直後、森の木陰から複数の男たちが姿を現した。
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