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四章
57 歴史(アーサー視点)
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山賊でも出てきたのかと思ったが、男たちの正体はエミリアを心配して俺たちの跡をつけてきていた村人だった。十人ぐらいいるだろうか。わらわらと湧いて出て、俺たちとエミリアの間に割って入った。
「あんたら、何てことをしやがった!」
「村を守ってくれる妖精を殺すなんて……! 村に災いが降り掛かったらどうしてくれる!」
「俺たちは慎ましやかに生きてきただけなのに、この仕打ちか!」
男たちはぎゃあぎゃあと喚き立てる。エミリアも目を吊り上げて俺を睨みつけている。
――王子である俺に不敬だな。一人ぐらい殺せば大人しくなるか、と思って剣の柄に手をかけたけれど、レナードが先に動いた。
「アーサー殿下。どうか、ここは私にお任せください」
「ああ、頼むわ」
俺の代わりにレナードがやってくれるなら、その方がいい。レナードが憎まれ役をしてくれれば、俺は優しくエミリアを許す役になれるしね。
そう思ったのに、レナードはホルスターごと剣を取り払って、地面に置いてしまった。そうして村人たちに向かって膝をつく。
「此度の非礼、誠に申し訳なく思う」
――えっ? 平民ごときに謝っちゃうの?
俺が驚いているのと同じぐらい、村人たちも驚いていた。さっきまでの反抗的な空気が一瞬で鎮まる。
「今より二百年前、ミッドランド王家は疫病により相次いで世継ぎが亡くなるという不幸に見舞われました。その際、王家の血筋を継ぐラパスレーン公爵とミドルワース大公の間で対立が起こり、ラパスレーン公爵は立場を追われました。しかしその際、大きな戦乱に陥らなかったのは、当時のラパスレーン家当主が民を戦乱に巻き込むことを厭い、潔く身を引いたことによると、現代を生きる私たちも学んでおります」
――それでなんで急に歴史の話が始まってんの?
意味がわからなくて首を傾げるが、村人たちは神妙な顔でレナードの話に聞き入っていた。
「心優しきラパスレーン家の末裔たるあなた方への敬意を、私たちミッドランド国民は決して忘れない、忘れるべきではない」
あっ。そういえばエミリアは普通の村娘のはずなのに魔法使えるもんな。今は落ちぶれているけれど、ラパス村の住民は元貴族ってことか。
「こちらにおわすアーサー殿下は、魔王を討つ勇者として予言されたお方。あなた方の意思を尊重しない行動に及んだことは、私が代わってお詫び申し上げます。納得がいかないかと思いますが、これも世界の平和のため……どうか、ご容赦願いたい」
「い、いや、聖騎士様! そんな、俺らなんかに頭を下げるだなんて……!」
深く頭を下げるレナードに、村人たちはどよめいた。レナードよりも頭を下げようと平伏している奴までいた。
――てゆうか、なんだこの流れ。
ぽかんとしていたら、頭を下げたレナードの上に妖精が舞い降りてきた。それでようやくレナードも頭を上げた。
「また戻ってきてくれて、ありがとう……。私たちを許さずとも、どうかこれからもラパス村に加護をもたらしてください」
レナードが手を伸ばすと、妖精は指先の上でくるくると踊ってから、泉の方へと漂っていった。
その様子を見届けて、エミリアが前に進み出た。レナードの前に膝をつく。他の村人たちも倣う。
「ラパスレーンはこれからも慎ましく、密やかに生きていきます。ミッドランド王家への忠誠も忘れません。ですので……どうか、このまま村から立ち去ってください」
「心得ました。――さあ、アーサー殿下」
「えっ? あ、ああ……」
そのままの流れで、森から村の外へ移動する。村人たちに見送られるというよりは、確実に出ていく様子を見張られているような感じだった。
――え? いや、なにこれ。
ついつい空気に飲まれて村から離れてしまったけれど、俺はようやく我に返ってため息をついた。
「いやさ、レナード。俺たちはエミリアを仲間にしたいからあの村へ行ったんだよ? なんで謝って帰る流れになってんの?」
「当然です」
先行していたレナードが振り向いて、俺に向き直る。俺に忠誠を誓っているはずのレナードは静かにキレていた。
「エミリアさんを仲間に迎えるのであれば、どのような理由があっても、妖精を殺してはいけなかった。アーサー殿下は王族として、ラパスレーンの忠誠を無碍にしてはいけなかったのです」
「いや、でも、仲間になる運命だから」
「――運命ならば。いずれ神がそのようにお導きくださるはずです。それは決して今ではない。運命の時を待ちましょう」
有無を言わさず、レナードは再び歩き出した。俺の方が主人のはずなのに、レナードはこの件に関して一歩も譲る気がないようだった。
いやマジでラパスなんちゃらとか歴史の話とかどうでもいいんだけど。でもレナードがこの態度なら仕方ない。この場は俺が折れてやるしかなかった。
「あんたら、何てことをしやがった!」
「村を守ってくれる妖精を殺すなんて……! 村に災いが降り掛かったらどうしてくれる!」
「俺たちは慎ましやかに生きてきただけなのに、この仕打ちか!」
男たちはぎゃあぎゃあと喚き立てる。エミリアも目を吊り上げて俺を睨みつけている。
――王子である俺に不敬だな。一人ぐらい殺せば大人しくなるか、と思って剣の柄に手をかけたけれど、レナードが先に動いた。
「アーサー殿下。どうか、ここは私にお任せください」
「ああ、頼むわ」
俺の代わりにレナードがやってくれるなら、その方がいい。レナードが憎まれ役をしてくれれば、俺は優しくエミリアを許す役になれるしね。
そう思ったのに、レナードはホルスターごと剣を取り払って、地面に置いてしまった。そうして村人たちに向かって膝をつく。
「此度の非礼、誠に申し訳なく思う」
――えっ? 平民ごときに謝っちゃうの?
俺が驚いているのと同じぐらい、村人たちも驚いていた。さっきまでの反抗的な空気が一瞬で鎮まる。
「今より二百年前、ミッドランド王家は疫病により相次いで世継ぎが亡くなるという不幸に見舞われました。その際、王家の血筋を継ぐラパスレーン公爵とミドルワース大公の間で対立が起こり、ラパスレーン公爵は立場を追われました。しかしその際、大きな戦乱に陥らなかったのは、当時のラパスレーン家当主が民を戦乱に巻き込むことを厭い、潔く身を引いたことによると、現代を生きる私たちも学んでおります」
――それでなんで急に歴史の話が始まってんの?
意味がわからなくて首を傾げるが、村人たちは神妙な顔でレナードの話に聞き入っていた。
「心優しきラパスレーン家の末裔たるあなた方への敬意を、私たちミッドランド国民は決して忘れない、忘れるべきではない」
あっ。そういえばエミリアは普通の村娘のはずなのに魔法使えるもんな。今は落ちぶれているけれど、ラパス村の住民は元貴族ってことか。
「こちらにおわすアーサー殿下は、魔王を討つ勇者として予言されたお方。あなた方の意思を尊重しない行動に及んだことは、私が代わってお詫び申し上げます。納得がいかないかと思いますが、これも世界の平和のため……どうか、ご容赦願いたい」
「い、いや、聖騎士様! そんな、俺らなんかに頭を下げるだなんて……!」
深く頭を下げるレナードに、村人たちはどよめいた。レナードよりも頭を下げようと平伏している奴までいた。
――てゆうか、なんだこの流れ。
ぽかんとしていたら、頭を下げたレナードの上に妖精が舞い降りてきた。それでようやくレナードも頭を上げた。
「また戻ってきてくれて、ありがとう……。私たちを許さずとも、どうかこれからもラパス村に加護をもたらしてください」
レナードが手を伸ばすと、妖精は指先の上でくるくると踊ってから、泉の方へと漂っていった。
その様子を見届けて、エミリアが前に進み出た。レナードの前に膝をつく。他の村人たちも倣う。
「ラパスレーンはこれからも慎ましく、密やかに生きていきます。ミッドランド王家への忠誠も忘れません。ですので……どうか、このまま村から立ち去ってください」
「心得ました。――さあ、アーサー殿下」
「えっ? あ、ああ……」
そのままの流れで、森から村の外へ移動する。村人たちに見送られるというよりは、確実に出ていく様子を見張られているような感じだった。
――え? いや、なにこれ。
ついつい空気に飲まれて村から離れてしまったけれど、俺はようやく我に返ってため息をついた。
「いやさ、レナード。俺たちはエミリアを仲間にしたいからあの村へ行ったんだよ? なんで謝って帰る流れになってんの?」
「当然です」
先行していたレナードが振り向いて、俺に向き直る。俺に忠誠を誓っているはずのレナードは静かにキレていた。
「エミリアさんを仲間に迎えるのであれば、どのような理由があっても、妖精を殺してはいけなかった。アーサー殿下は王族として、ラパスレーンの忠誠を無碍にしてはいけなかったのです」
「いや、でも、仲間になる運命だから」
「――運命ならば。いずれ神がそのようにお導きくださるはずです。それは決して今ではない。運命の時を待ちましょう」
有無を言わさず、レナードは再び歩き出した。俺の方が主人のはずなのに、レナードはこの件に関して一歩も譲る気がないようだった。
いやマジでラパスなんちゃらとか歴史の話とかどうでもいいんだけど。でもレナードがこの態度なら仕方ない。この場は俺が折れてやるしかなかった。
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