【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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四章

59 本物の勇者様(エミリア視点)

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 寒くて暗い場所で。私はひとりきり、漂っていました。
 不意に差し込んだ眩しい光に導かれて目を開けると、慣れ親しんだ尼僧たちの顔が見えました。

「……御姫おひい様! 御姫様がお目覚めになられた!」
「ああ、エミリア様! 神のお導きに感謝いたします……!」

 私を取り囲む者たちは何故か全員泣いておりました。今寝かされている場所にも見覚えがありません。

「――? 私は……? どうして皆様、集まって……?」
「しばらく記憶の混濁と身体の違和感が残りますが、いずれ回復するでしょう。今はゆっくりとお休みください」

 私の問いに答えたのは、僧侶の装いをした見慣れぬ男性でした。私が意識を取り戻したことだけを確認すると、すぐに退室していきました。
 一体何が起こっているのか。疑問は山とありましたが、私は抗いがたい睡魔に襲われて、再び眠ってしまいました。

 翌日。完全に体の調子を取り戻してから事情を聞かされた私は、あまりのことに言葉を失ってしまいました。なんと私は一度死んでしまっていたらしいのです。
 村長からさらに詳しい事情を聞く間に、私も徐々に記憶を取り戻しました。
 ――あの日。騎士を引き連れて突然村にやってきた、アーサーという男。
 ミッドランドの王子であり勇者だと自称した男は、あろうことか、この村を守る妖精を殺害しました。
 お供の聖騎士が謝罪することでその場を収めましたが、自称勇者は終始呆けた顔をしていました。我がラパスレーンの歴史も知らぬ様子。罪に問う価値もありません。彼らを追い出し、二度と現れないようにと釘を刺したのですが。自称勇者は深夜に村へ侵入し、結界石を破壊したばかりか養護院に火を放ち、魔物を呼び出して――。

「――ああ、そうです……あの男は……!」

 死した瞬間をはっきりと思い出した私は、思わず胸元に手をやりました。自称勇者は、にやにやと笑いながら、私に凶刃を放ち――。

「他の者たちはどうしていますか!? 村の被害は!」
「御姫様、お体にさわります。落ち着きなすって」
「大丈夫ですよ、全員無事です」

 思わずその場から飛び出しそうになりましたが、オババ様から「全員無事」という言葉を聞いた途端、私は力が抜けて再び寝台に腰をかけました。
 しかし、なぜ私は復活することができたのか。ラパス村には蘇生魔法の使い手はいなかったはず。疑問を口にする私へ、村長はさらに驚きの事実を教えてくれました。

 自称勇者による虐殺が起こり、一夜明けて。森に逃げ込み災禍を免れていた村人たちが、無残に焼け落ちた村で悲嘆に暮れていると、とある騎士団の兵士がやってきたというのです。
 それはたまたまラパス村の近辺で演習を行なっていた閃光騎士団の斥候でした。
 ミッドランドの王子を名乗る者に蹂躙されたばかりの村人たちは当然警戒しました。しかし彼らは、山で火事が起きているのを見て救援に駆けつけたというのです。
 警戒心を隠さない村人に気を悪くすることなく、斥候は生き残った村人たちの許可を得てから救助隊を呼び寄せ、蘇生魔法によって死んだ村人たちを甦らせてくださいました。
 そればかりか、大量の救援物資まで提供してくださったそうなのです。私が寝かされていた大型の天幕もその救援物資なのだとか。しかも天幕や食料ばかりではなく、復興に必要だろうと大量のゴールドまで。
 ――そして。閃光騎士団の総長であるクロヴィス閣下が直々に村まで御成になって、結界石を再び安置してくださったのです。

「なんというご厚情……! お礼を申し上げなければ……閣下は今、どちらに」
「それが……。身内の不始末を申し訳なく思うと謝罪なさったばかりか、いつまでも王族が居座っていては気が休まらぬだろうと、すぐさまご帰還なさいました」

 クロヴィス閣下は今回ばかりではなく、今後も継続的な復興支援をお約束くださいました。そして、狼藉を働いたアーサーをすぐに処罰することは難しいが、必ず償わせる。そう仰ったそうです。

「まあ……では、あの自称勇者は本物の王子だったと……」
「恐ろしい話です。あのような残虐非道な者が予言の勇者などとは……」

 魔王が復活したとき、勇者があらわれて世界を救うという伝承は、この辺鄙な村にも伝わっております。しかしあの男が勇者などとは認め難いことです。

「勇者様が本当にいらっしゃるとするならば、それはクロヴィス閣下のようなお方でしょうに」

 村長がもらした言葉に、私ははっとしました。
 ――勇者とともに旅立つ運命。
 私は、クロヴィス閣下のように慈悲深く、強いお方と、運命を共にするはずだったような。そんな気になりました。
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