【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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エピローグ

83 焼け野原

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 選挙戦の真っ只中で明らかになった与党公認候補者の犯行は大きなニュースになった。
 殺人未遂で有罪判決を受けた父は、殺意はなかったとして控訴したが、棄却された。俺が残していた犯行の瞬間の動画に加えて、大勢の前で「殺してやる」と叫んで俺の首を絞めたことが決め手になった。
 母は犯行の隠蔽に加担したとして執行猶予付きの有罪判決。それ以上争うことはしなかった。
 裁判はそれでけりがついた。それでも身内は俺の行動に納得できない様子だった。
 伯母からは「なぜ相談もせず、わざわざ他人の目がある場で告発したのか」と詰られた。それはもちろん、虐待のことを伯母に相談しても助けてもらえなかったからだ。
 子供のころ、「父に殴られたり食事を抜かれたりする」と伯母に打ち明けたことがあった。伯母は逆に俺のことを叱った。
 ――親が子供のためを思ってしたことなんだから許してあげなさい。貴方も悪かったんでしょう、これからは仲良くね。
 それから父の虐待は苛烈になり、俺は裸で納屋へ放り込まれるようになった。
 誰かに助けを求めても無駄。そう学んだ。
 だからこそ誰の目にも明らかな証拠を大勢に見せる必要があった。事実を揉み消されないために。そう説明すると、伯母はただ黙り込んだ。両親からも伯母からも謝罪されることはなかった。

 俺は裁判と並行して、可能な限りメディアのインタビューに答えた。多くは俺に同情的だったが、親を晒し者にしたと非難する声もあった。
 俺はけして感情を乱すことなく、淡々と答えた。
 あの動画を公開しなければ、支持者たちは父の外面の良さに騙されて「あの人がそんなことをするわけがない」と口を揃えて言ったはずだ。信じてもらうには公開するしかなかった。
 どう説明しても納得しない人もいた。俺は俺で「復讐したかったから」という本心を口にはしなかった。
 新たなニュースに押し流されて、やがて取材の依頼は途絶えた。


 気がつけば裁判が終わってから一年が過ぎていた。
 現在何をしているかというと、何もしていない。無職のニートである。

「……あー! やばい」

 ぼんやりしているうちに、気がついたら午前九時を過ぎていた。あわてて燃えるゴミをまとめて外に出たが、すでに収集は終わっていた。
 ゴミを持ってすごすごと部屋に戻る。昨日もプラゴミを捨て忘れたからツーアウト。引っ越してきたばかりのワンルームがゴミ屋敷になるのを想像してげんなりする。
 やはり生活のリズムを保つためにもバイトぐらいしようかなと考えるが、今の体調ではそれも難しい。
 両親への復讐を終えたのだから、これからは楽しくハッピーに生きてやるぜ! 俺が幸せに生きていくことも復讐だよね! ――と思ってはいる。思ってはいても、何もする気になれない。自分で考えている以上に、肉体も精神も疲弊していた。
 裁判やインタビューを通して、俺は殺されかけた瞬間や過去の虐待を何度も追体験することになった。けりはついたが満身創痍。俺は眠れなくなり、心療内科へ通うようになっていた。
 不幸中の幸い、生活にはゆとりがある。伯母は俺に謝ることはなかったが、まとまった金を渡してきた。実家の土地を売り払った金だと言っていたが、要は一族の恥晒しに手切れ金を渡した形だ。元より地元で生きていくつもりはなかったから異論はなかった。金にはしがらみがない。遠慮なく受け取った。
 おかげでニートにしてはいい暮らしをしている。体力を回復させるため、週に二度はジムに通っているし、カウンセリングも受けている。ちゃんと倹約して自炊もしている。だがぼんやりしている間に使い切れなかった野菜が腐っていくし、ゴミも捨て忘れる。俺はゴミをキッチンの隅に追いやってから、ソファに体を預けた。
 裁判だ何だと忙しいときはそれほどでもなかったが、周辺が落ち着いてからは気が緩みっぱなしだった。緩んだ隙間から惑いが忍び込んでくる。
 ――本当にこれでよかったのか。
 俺は両親を憎んでいた。暴力を振るう父のことも、黙認するどころか父を焚き付ける母のことも。それでも、家族としての良い思い出もなくはなかった。年に一度は家族旅行に出かけた。それは両親が世間体を気にしてやっていたことだけれど、人目があるときの両親はいつも俺に優しかった。
 理想の家族を演じる両親を見て、この姿が本物だったならどれだけよかっただろうと、いつも思っていた。
 もしかしたら、俺さえ我慢して努力すれば親子関係は修復できたのかもしれない。それなのに、俺がこの手で、すべての可能性を焼き払ってしまった。数少ない良い思い出まで消し炭にしてしまった。焼け野原でただひとり。立ち尽くしたまま、動けない。

「――いや、これでよかった」

 自分を鼓舞するために声を出す。後頭部の傷跡をなぞれば、そこにはまだ十針ほど縫った跡がはっきりと残っている。
 父は俺を殺そうとした。その上、謝ることすらしなかった。親子関係を修復する余地はない。だから後悔しなくてもいい。それでも。どうしても。大切なものをこの手で捨ててしまったという感覚が消えない。
 違和感はあった。殺されかけて、目覚めてからずっと。
 夢の中で、どこか遠い場所で暮らしていて、俺はそこでかけがえのない、大切な人と出会って――出会ったのに、背を向けてしまった。

「重症だな……」

 俺は夢と現実の区別もつかなくなっているらしい。
 幸い今日はカウンセリングの日。先生に相談して精神安定剤を処方してもらおう。
 不意に声をかけられたのは、そうして出かけた先でのことだった。
 
「――ニール」

 新宿の雑踏で。周囲は騒がしかったのに、その声はやけにはっきりと俺の耳に届いた。
 なんで足を止めたのかわからない。知らないはずの「ニール」という言葉に反応して振り返った先。そこには長身の青年がいた。
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