【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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エピローグ

84 アルティメット・ドラゴン2(レナード視点)

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 レッドドラゴンの討伐依頼が舞い込んだとき、妙な胸騒ぎを覚えた。
 これまでブルードラゴンやホワイトドラゴンとも戦った経験がある。入念に下調べをして準備をすれば勝てない相手ではない。それでも侮ることなく慎重に動いた。冒険者組合で熟練の腕利きを集め、万全の準備を整えて挑んだ結果――誰ひとり重傷を負うことなく討伐に成功した。

「わぁ~い、やったねアリスちゃん。これで新しい装備作ろうよ~」
「そうね、ちょうど耐火性の高いローブが欲しかったし」

 地に倒れ伏すレッドドラゴンのかたわらで、魔法使いのアリスと僧侶のソフィーがはしゃいでいる。この二人は今回の功労者だ。今までにも大型の魔物を討伐する際に何度か共闘したことがあるが、やはり見事な腕前だった。特にアリスの〔アブソリュート・ゼロ〕は絶大な威力だった。他の冒険者たちとの連携もうまく取れた。だからこれは当然の帰結なのだが。
 ――もっと酷い状況になってもおかしくなかった。そんな気持ちが拭えない。
 ただ立ち尽くす私の背中をアリスが叩く。

「何ぼーっとしてんの? レオがさっさと取りまとめないと話が進まないでしょ」
「あ、ああ……そうだな。ただ、無事に倒すことができて本当によかったなと思って」
「そらそうよ。私がいるんだから当然」

 自信満々に胸を張るアリスの背後から、ソフィーが顔を出す。

「レオは今回やけに慎重だったよね~」
「ああ。不測の事態に備えねばと思ったけれど、戦力過多だったようだ」
「ほんと真面目だね~。そんなんだから毎回隊長を押しつけられるんだよ」
「ん……まあ、これも経験だから……」

 ソフィに茶化されながらも撤収準備に入る。大物の討伐に成功して浮かれている冒険者たちに指示を出している間も、妙な違和感は消えなかった。
 脳裏に浮かぶのは全滅した仲間たちの姿。そして、ただひとり、レッドドラゴンに敢然と立ち向かう黒い騎士――。
 縁起でもない。私は嫌な想像を追い出すように頭を左右に振った。

 素材の解体を冒険者ギルドの職員たちに任せて、討伐にあたった冒険者たちは帰路につく。アリスとソフィー、それにMPを使い果たした私は荷馬車の隅に席をもらった。

「また実家から?」

 鞄から手紙を取り出して読んでいたアリスに、ソフィーが横から声をかける。

「そう。マリアったら『今度のお見合い相手は素敵なお方』とか書いてるけど、マリアと男の趣味があった試しがないのよね」
「ああ、侍女のマリアさんか~。あの人はアリスちゃんと違って面食いじゃないから」
「はあ? 私は別に面食いじゃないけど? ただ鼻筋がシュッとしてて目元がキリッとして口元が野生的で全体的に筋肉質で私のお願いなら何でも聞く男以外興味ないっていうだけで」
「もう奴隷市場へ探しに行った方が早いよ~」
「こらっ、犯罪だぞ」

 不穏な言葉が聞こえてきて、ついつい口を挟んでしまう。

「わかってるって~冗談だよ」
「ほんとレオは真面目すぎっていうか」

 二人はけらけらと笑いながら理想の男性像について再び談義を始めた。
 他愛のないおしゃべりを耳にしながら空を仰ぐ。まだ昼過ぎ。何事もなければ夕方までには町に戻れるだろう。
 ――冒険者としての生活は充実していた。
 故郷のミッドランドに不満があったわけではない。先代国王が療養のために退位なさって、王弟殿下であるクロヴィス閣下に王位を譲渡してからは、奴隷制も完全に撤廃された。
 国政は安定していたし、私は侯爵家の嫡男として何不自由なく育った。それでも私は、幼いころから、いずれは旅立とうと心に決めていた。
 冒険者になって世界を見て回るのが夢だと打ち明けると、両親は困惑していた。それでも何とか説得して、従妹に嫡子の地位を譲り、こうして冒険の日々を送っている。
 魔物を狩り、素材を得る。迷宮に隠された財宝を探す。未到地域に足を踏み入れ、人知れず眠っている太古の遺跡を発見する。思い描いた夢の通り、冒険は輝きに満ちていた。
 しかし。充実した自由な日々を謳歌すればするほど、胸の内に焦燥が燻りはじめた。
 こんなことをしている場合ではない。
 ――守るべき人がいたはずなのに。
 成人する前、クロヴィス陛下直轄の閃光騎士団からお声がけをいただいた。騎士になって忠誠を捧げることも考えた。クロヴィス陛下をお守りするという栄誉。その栄誉を捨ててまで、旅立つことを選んだ。
 騎士としてではない。ただ、私という個人が、全身全霊をかけて守りたいと願う相手が、どこかにいる。そんな思いは日ごとに募る一方だった。

「もういっそのことギルディラース様狙いでいこうかな」
「妖精王か~! 美形だって評判だもんねぇ。でもヒト族なんて相手にしてくれるかな?」
「種族を超えた大恋愛……なんかいけそうな気がしてきたわ」

 きゃっきゃと無邪気にはしゃぐアリスとソフィーの言葉に、凍りつく。

「何、どうかした?」
「またまじめ腐って『不敬だぞ』とか言うつもり~? 冗談だよぉ」
「あ、ああ……いや、そんなことはないんだが……」

 妖精王ギルディラース。
 数百年前、魔王が世界を脅かしたとき、勇者に味方して共に魔王を討ち倒したという英雄のひとり。北方大陸に住む妖精族を治める王だ。寿命は一千年にも及び、類まれな魔力を秘めている。
 妖精族は私たちヒト族とも細々と交流しているが、北方大陸から出ることは滅多にない。北方大陸ではヒト族の力は弱まり、逆に私たちの住む中央大陸では妖精族の力が弱まる。無用な争いを避けるために住み分けていた。だから妖精王ギルディラースのことは、ほとんどお伽話のような存在だった。
 それにしても。なぜか違和感を抱いてしまう。
 
「妖精王……妖精王か……」
「ふうん? レオも妖精王に興味ある?」
「きゃ~! 美形の妖精王と美形の生真面目冒険者! ヒュッヒュ~!」
「何だよ、あんたら元気なら席譲ってくれや」

 横合いから徒歩の冒険者に声をかけられて我に返る。アリスとソフィーは完全に無視して再び色恋話に花を咲かせていたが、これ以上二人のペースに巻き込まれないためにも、私は軽傷者に席を譲った。
 隊列から遅れないように気をつけながらも、再び思考に沈む。
 寝物語に何度も聞かされた、勇者一行の英雄譚。
 ――勇者アーサー。
 ――聖騎士レナード。
 ――僧侶エミリア。
 ――魔法使いメイベル。
 そして、妖精王ギルディラース。
 私の本名である「レナード」は、聖騎士レナードにちなんで名付けられている。英雄の名にあやかる、というのはよくある話だ。だが、妖精王の存在だけが、なぜかとても受け入れ難く感じてしまう。何というか、「妖精王」という肩書きが、不自然でならない。こんなことを口にしては差別主義者だと思われかねないが、「魔王ギルディラース」という呼称の方がしっくりくる。
 しかしこれは私の偏見からくる思い込みだ。他人種を差別する気持ちが無意識下にあるのかもしれない。正さねばな、と思いながらも、ふと疑問に思う。

「魔王は――なんという名だったんだ……?」



 魔王と勇者の戦いについて知らない者はいない。幼い子供でさえ英雄たちの名前を諳んじることができる。しかし、魔王の名前について知っている者は皆無だった。

「魔王の名前と言われても……魔王は魔王でしょう?」

 冒険者仲間に尋ねても、高名な歴史学者に尋ねても、回答は同じ。逆に「なぜそんなに魔王の名前が気になるのか」と聞かれても、私はその問いに答えることはできなかった。
 魔王の名前。その名に触れさえすれば、私の探し求めていたもの――守るべき存在に出会うことができる。そんな気がしてならない。
 直感とも言えない。ほとんど妄執だった。
 伝承に残っていないのであれば、当事者に話を聞くしかない。勇者の仲間たちの中で存命しているのは、長命種である妖精王ギルディラースのみ。
 私は一縷の望みをかけて北方大陸に向かった。
 妖精王が一介の冒険者を相手にするとは思えない。いざとなればミッドランド貴族である実家を頼りにするつもりでいたが、謁見は意外なほどあっさりと認められた。
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