【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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エピローグ

89 電気街

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 それから俺は、週に一度レオナルドと二人でお茶をするようになった。
 レオナルドは俺のことならなんでも知りたがった。どんな食べ物が好きか、趣味はなにか、普段はどう過ごしているか、などなど。それでいて俺が話したがらないことには無理に触れようとしなかった。特に両親については何も聞かれなかったから、きっと俺の身辺調査をしたのだと思う。事件のことも知っているに違いない。レオナルドの立場上、下手な人間を近づかせるわけにはいかないのだろう。俺自身には後ろ暗いところはないのでそれは別に構わない。
 俺が健康のためにジムへ通って体を鍛えている、という話をすると、レオナルドは興味深そうに頷いた。

「体を鍛えるのはいいことだな。私も鍛錬を積んではいるが……この世界では剣術を役立てることはできそうにない」
「一応剣道とかフェンシングとかならあるけど」
「しかし銃撃から依澄を守るとなると剣では心許ない。魔法もこの世界では使えないし……」
「銃撃されるほどの恨みは買ってないし、日本じゃ撃たれる心配もそうそうないから別に守ってくれなくていいよ」

 俺がそう言うとレオナルドはしゅんとしてしまう。
 レオナルドの自認はあくまでアルティメット・ドラゴンのレナードだ。一般常識はこの一年である程度身につけたが、ミロから言わせると「紀元前からタイムスリップしてきた人を相手にしているようでした」とのことだった。
 お騒がせセレブの珍妙なお遊び――にしては、あまりにも手が込んでいる。もう何度かレオナルドと顔を合わせているが、人柄は誠実だし、俺への気遣いは相当なものだ。わざわざ奇妙な嘘をついて俺を騙す意味もない。かといってゲームの世界からやってきたなどという荒唐無稽な話を信じられるわけがないのだが。
 レオナルドの目下の心配事は、体の元の持ち主であるレオナルド・ロンバルディの家族のこと。神の思し召しとはいえ、レオナルドの死体を乗っ取る形になってしまった。言葉も通じなくなってしまって、心労をかけているに違いない。せめて通訳を介さず、直接会話ができるようにとイタリア語を勉強している最中だとか。家族を案じるレオナルドの眼差しには真実味があった。

「それにしても、レオは本当に日本語が堪能だよね」
「そうかな? 私は共通語を話しているだけなのだけれど……複雑な文字などを書くのは苦手だな。でも『依澄』という漢字は書けるようになった」
「別に俺の名前なんて書けなくてもいいのに」
「私が覚えたかったんだ。依澄のことならなんでも知りたい」

 そう囁くレオナルドの眼差しは熱っぽい。もう何度か顔を合わせているが、レオナルドは俺に対する好意を隠そうとしなかった。最初は同席していたミロも「私はお邪魔なようなので」と言って席を外すようになってしまった。二人きりにされても困る。
 しかしレオナルドはどこまでも善良だった。全幅の信頼がこもった無垢な瞳は、まるで人懐こいゴールデン・レトリバーのよう。鋭い牙を持ちながら、決して人を噛まないと確信させる情の厚さ。出会った当初は警戒していた俺も気が抜けて、そのうちお茶だけではなく、ちょっとした観光にも付き合うようになった。


 
「この世界の文明は本当にすごいな!」

 秋葉原電気街に連れてくると、レオナルドは周囲の様子を夢中になって眺めていた。平日の昼間なのでそれほど混雑していないが、通行人はほとんどみんなすれ違いざまにレオナルドを見ていた。外見が派手なレオナルドは、外出するときには必ず帽子とサングラスを装着している。それでもお忍びのセレブ感が滲み出ている。レオナルド本人は気にすることなく観光に興じていた。
 大通りを見学した後で、駅前の大型家電量販店を上から順に巡っていく。レオナルドは大型テレビに感激し、ステレオ装置に「すごい音楽家だ」と賛辞を送り、ロボット掃除機を見て「使用人が職を失うのでは」と本気で心配していた。
 俺はフロアを移動するごとに周囲を見渡し、一定距離を保ってついてくる屈強な青年たちの姿を確認した。そんな俺を見て、レオナルドは申し訳なさそうに眉根を下げた。

「すまない。彼らは気配の殺し方があまり上手くないんだ」
「――ああ、別に気にしてるわけじゃなくて、むしろありがたいなと思って」

 レオナルドが外出する際には、常にボディガードが張り付いている。俺たちに気を使って離れてはいるが、何かあれば即座に駆けつけられる距離にいるし、時折鋭い視線を寄越してくる。
 俺が外出時に周辺を警戒するのはもはや癖のようなものだ。
 ――俺は与党の公認候補者だった父を訴えた。当選確実と言われていた父は逮捕され、野党が議席を獲得した。そのために立場が危うくなった者もいるだろう。俺に対して報復を考える者がいたとしてもおかしくはない。実際に怪文書を受け取ったこともある。二度ほど引っ越した。それ以降は平穏無事だが、今でも警戒心が抜けず、もはや被害妄想の域だ。俺はそんな自分に内心でため息をついて、心配そうに様子を伺うレオナルドに向けて微笑んだ。

「実は、外出するときはいつも、少しだけ怖かったんだ。でもレオと一緒にいると安心するよ」
「――そうか、それならよかった」

 俺の言葉に、レオナルドは嬉しそうに微笑んだ。実際にはボディガードの存在が心強いんだけれど、それは言わないでおいた。
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