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第26話 居るはずのない、アイツ。

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「……んっ」

 次に目が覚めた時、俺はベッドの上に寝転がっていた。視界は真っ暗で、辺りは何も見えない。


「あれ、なんでこんなところに……? 確かトワりんと話をしていて……」

 思い出そうとすると、頭がズキズキと痛む。酒なんて飲んでいないのに、前世で酒を飲み過ぎた時の感覚がよみがえる。

 どうしてこんなことに? そうだ、キスした直後にトワりんに謝られて、その後なぜか眠くなって……。

 そこまで考えてハッとする。


「トワりんはどこだ!?」

 彼女は無事だろうか。それに意識を失う前にトワりんが謝っていた理由も気になる。

 早く彼女を見付けなければ。しかし慌てて上半身を起こそうとするも、起き上がることができなかった。なぜか手首や足首が何かで縛られているみたいだ。


「おはよう、マコト君」
「トワりん!? ってどうしてここに莉子が!?」

 彼女の声と共に、部屋の電気がパッとついた。

 急に明るくなったことで眩む目を必死にこらすと、目の前にはロープでぐるぐる巻きにされた莉子の姿があった。まるで芋虫のような状態で床に転がらされていて、口元にはテープのような物で塞がれているのが見えた。


 そんな莉子の隣では、椅子に座ってこちらを眺めているトワりんがいた。

 トワりんは俺たちと違って拘束されておらず、さっきと同じピンクの部屋着姿をしている。
 だが手にはスタンガンらしきものを持っており、その表情はどこか冷たく、無感情だった。


「あの、トワりん。これはどういうことなのかな?」

 恐る恐る尋ねてみると、トワりんは無言のままスタスタと近付いてきた。そして手に持っていたスタンガンを俺の首筋に押し当ててきた。


「ひっ!」

 恐怖と冷たい感触に思わず悲鳴を上げる。


「暴れないでね、マコト君。さっきは薬で眠ってもらったけど、抵抗するようなら柳嶋さんみたいになっちゃうから」

 トワりんは隣で眠る莉子をチラッと視線を向けてから、ニッコリと微笑んだ。莉子はどうやら気絶しているだけらしい。とりあえずホッとしたが、トワりんの言葉を聞いて再び緊張が高まる。

 どんな理由があったかは知らないが、莉子をスタンガンで拘束したのは彼女らしい。

 俺はゴクリと唾を飲んだ後、彼女を刺激しないようになるべく優しい口調を意識して話しかけた。


「何かこうしなきゃいけない理由があったの? もしかして俺が何か気に障るようなことを――」
「そんなわけないじゃない。私はマコト君のことが大好きなんだよ?」

 トワりんはそう言うと、俺の頬を優しく撫でてくる。
 だけど相変わらず目だけは笑っていない。

 やっぱりおかしい。トワりんはこんなことはしないはずだ。
 一体何が起こっているのか分からないが、とにかく俺たちの拘束を解いてもらわなければ。


「だったら、今すぐこのロープを外してくれないかな? 何か困りごとが起きているのなら、俺が助けるからさ……?」

 するとトワりんは困ったように首を横に振った。


「ごめんなさい、それは無理なの」
「そんな、どうして……」
「マコト君を守るためには必要なことだったの。だから私あの人の言う通りに……あれ、どうして私はこんなものを持って……」
「トワりん……?」

 なんだか彼女の様子が変だ。急に会話にならなくなったかと思いきや、俺を無視して支離滅裂なことを言い始めた。


「い、いや……こんなこと、私は……わたしは!!」

 挙句の果てに頭を手で押さえると、イヤイヤと髪を振り乱しながら蹲ってしまった。よく見ると顔色も悪く、目が血走っている。

 なんだ? 何が起きている?


「はぁ、やっぱりこうなっちゃったか。やっぱりアイテムに頼り切るのは良くないね」
「だ、誰だ――!?」

 声のした方を見ると、誰もいなかったはずの空間にいつの間にか見知らぬ男が立っていた。

 見たところ、男は俺と同い年くらいだろうか。だが顔を見ても特徴があまりなく、なんだかぼんやりとしていて認識しにくい。

 彼が俺の知り合いでないことは明らか。だが不思議なことにその一方で、どこかで見たことがあるような気もする。なんなんだ、この不気味な男は――。


「あぁ、ごめんごめん。このままじゃ僕が誰だか分からないよね。――これでどうかな?」

 男は自分の顔を覆うように両手をかざすと、次の瞬間には彼の姿が変化していた。


「お、お前は――!!」

 さっきまでとは違い、今はモヤのかかったような顔がハッキリと分かる。

 そしてその顔は、俺が良く知っている顔だった。


「どうしてお前が生きているんだ、タカヒロ!!」

 そこにいたのは、生首にされて殺されたはずのタカヒロだった。


「そんな、バカな。お前は死んだはずだろう!!」
「えぇ~? それは随分と酷い言い方だなぁ、マコっちゃん」

 その口ぶりとは裏腹に、奴はケラケラと楽しげに笑う。
 首は体と繋がっているし、ちゃんと生きて立っている。俺は幻覚でも見せられているのか――?


「心配しなくても、幽霊なんかじゃないよ。とある人物のおかげで、僕の死を偽装できたんだ」
「偽装だって!? いったいどうやって……!?」

 あの日、間違いなくコイツは首だけの姿になって死んでいたはずだ。それは莉子も俺と一緒に確かめた。俺はともかく、死体の扱いに慣れている莉子が騙されるはずなんか無いのに……。

 俺が信じられないといった表情をしていると、タカヒロは同情するかのような目をこちらに向けた。


「あはは、さすがに可哀想になってきちゃった。そうだね、この機会にマコト君には僕の協力者を紹介しておくよ――さぁ入ってきて」

 すると部屋の扉が開かれ、そこから一人の人物が現れた。

 その姿を見て、思わず声が出そうになるほど驚いた。なぜなら、入ってきたのは――。
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