【完結】スズラン

越知鷹 けい

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 桜月はコンビニを出ると、右に曲がった。少し歩くと石山通へ出る。佐藤を車の中で待たせていた。

 西木野にしきの 美希みきの失踪届けが出されて、今日で10日目。すぐに交友関係を洗い、ひとりの男性に行きついた。安倍あべ 敬文たかふみ。既婚者だが子供はいない。だが、その人物もすでに行方不明だ。道警は事件性ありと判断した。もし事件なら、西木野の生存は絶望的だ。そんな経緯からふたりは鑑取り班に回された。

 桜月は車のドアを開けて、助手席に乗りこんだ。

「どうでしたか? 先輩の見立て」佐藤が進展を急かしてくる。
「ぅるさい。そんなに簡単に裏取りができたら、班を別ける意味ないでしょ!」声をやや荒げて、佐藤をにらんだ。

 女が犯人の場合は、女性捜査員を配置して行動分析をすることがよくある。男性には理解できない衝動的な犯罪には頼りになる存在だ。

 例えば、【喧嘩けんか】。男性は相手を倒して意見を通す手段として用いるが、女性の場合は違う。気持ちを伝える手段として使うことが多いのだ。

 男性社会だったころは、女性が犯人の場合は必ず男が陰で糸を引いている、というのがセオリーなので、女性の犯罪心理が理解できず、誤認逮捕が多かったそうだ。

「あざっス。今日いち、心に響く名言でした」佐藤は ヘコヘコして 意見を述べた。
「ぁああ! 悪かったわよ。メシね、メシに行きましょう。おごるわ。だから上司にパワハラ報告はしないでよね」

 桜月は煩わしく思った。男性とお付き合いをしたことがないので、上手くあしらうことが苦手だった。こんなに苦労するなら座学をもっとしっかりと学べば良かった、と日課のように後悔した。根が真面目すぎるのだ。

 左伊多津万さいたづま色のコートの右ポケットに手を突っ込んだ。そこから、手乗りサイズのぬいぐるみを取り出した。

 ぬいぐるみは『心に うっかりモンスター』でコアなファンを獲得したピンク色の怪物ヤドンだ。周囲を取り囲む人間関係において、幼少期と思春期に大きなギャップを感じた女性がえる形を具体的にしていた。

 桜月はジッと見つめた。今は亡き親友の顔を思い浮かべながら「かならず、てっぺんまで登りつめてやるんだから…」とつぶやいた。

 ――必ず彼女が自殺した理由を突き止めてやる、と佐藤が言葉を付け足した。

「そうね。でもその前にジャンクフードをお腹につめ込むわよ。それから、植物園に向かって。白咲しらさき 朱鈴あかり。かならず彼女を追い詰める!」



 ※ここで登場する「桜月 詩織」は、『レンタル・ホロニズム』と同一人物です※

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