【完結】スズラン

越知鷹 けい

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 ワンボックスカーのドライブレコーダーには走行履歴が残っていた。
西木野にしきの 美希みきの遺体が見つかった渓谷荘は、2人が落ち合ったファミレスから車で50分ほどの距離にあった。そのレコーダーの映像から白咲しらさき 朱鈴あかり安倍あべ 彩蘭あやかが遺体を埋める一部始終が映されていた。

 安倍あべ 敬文たかふみ殺害当日の23日午後6時前、山中に着いた朱鈴あかりはその場に2時間ほどとどまり、その後に勤務先へと向かっていた。男性の死因は急性窒息。首には圧迫された痕があり、車の中で首を絞められたとみられる。

 死亡後に埋められたことも判明している―――


 ◇

 朱鈴は、「不倫関係のもつれから被告のいないところで 女が男性と口論になり、突発的に首つり自殺した」などとして無罪を主張した。

また、依然として安倍あべ 彩蘭あやかの行方は不明のままであった。

 ◇


 白咲しらさき 朱鈴あかりの一審判決が決まった。あまりに身勝手な犯行で反省の色もない彼女に『死刑』が言い渡された。彼女は直ぐに控訴をし、最高裁まで争うこととなった。

 桜月は一度だけ 朱鈴あかりのもとを訪れていた。安倍あべ 彩蘭あやかの潜伏しそうな場所を聞き出すためだった。


彩蘭あやかは元気でやってかしら? 私の事を心配して近くまで来てしまってないか心配でしょうがないわ」少しやつれた 朱鈴あかりは、彩蘭の事が気になり、夜もあまり眠れていないそうだ。

「そんなに心配なら居場所を言ったらどうなの? すぐに連れてきてあげるわ」

 朱鈴に挑発や同情は使えないのは分かっていた。はじめから彼女の中のフレンドは安倍あべ 彩蘭あやかただひとりだったのだから。いや、彩蘭を中心に世界が廻っていたのかもしれない。きっと彼女の前にいる桜月のこともイベントを進行するためのキャラクターにしか見えていないだろう。

 知れば、白咲しらさき 朱鈴あかりの生い立ちは酷いものだった。彼女の両親は施設で育ち、彼女が二十歳ハタチになる前に交通事故で供に亡くなっていた。身寄りのない彼女は大学を中退せざるを得なかった。身元保証人のいない彼女が就職するには、言葉では言い表せないくらい厳しいものであっただろう。そんな彼女が彩蘭に一層の依存をするのは無理からぬ話だった。

「そう。なら安心した。まだ見つけられていないようね」
「そうね。銀行から預金を引き出した形跡もなかれば、カードを使っている形跡もないわ。彼女、ほんとうに生きているのかしら?」

「生きているに決まってるじゃない! ふざけたことを言わないで!」

 桜月は朱鈴の反応を見て考えを改めるしかなかった。やはり、どこかで生きているのだろう。支援者がいて、安倍あべ 彩蘭あやかかくまっているということか。だが、彼女を隠し通せるほどの人物が周りにいない事は調査でも明らかだった。それに、西木野にしきの 美希みき安倍あべ 敬文たかふみの出会いも不明瞭だ。もしかすると「氷連 彰」が関わっているのかもしれない―――


 未解決の事件を惜しみ、桜月は面会を終えた。


 ◇


 ―――あれから十数年。

 安倍あべ 彩蘭あやかは、涼しい山中の天然で出来た氷室ひむろから遺体で発見された。観光客が偶然にも発見したという。鑑識の結果、胃の中から微量の睡眠薬が消化されずに残っていた………。


 ときを同じくして、白咲しらさき 朱鈴あかりの死刑が決行されていた。最高裁でもふたりの殺害を覆すことは出来なかった結果だ。

 ただ、刑が執行された彼女の顔は学生の頃のように穏やかに笑って亡くなっていた。息を引きとる直前に「彩蘭」と呟き、手を差し出そうとしていたという。


「ごめん。待った?」
「おそいよ、朱鈴。ねぇ、これからどこ行こうか?」

「ねぇ。 抱えてるその赤ちゃん―――?」
「この子、あたしと朱鈴の名前を一文字ずつとって、鈴蘭スズランっていうのよ」

「そっかぁ。なんだか敬文たかふみには悪いわね。ふふふっ」
「そうね。ふふふっ」

「ねぇ。じゃあさ―――――――…




 完
 




ダウン症(21トリソミー)とは?特徴と新型出生前診断(NIPT)
新型出生前診断でダウン症(21トリソミー)の項目が陽性になった場合、
確定診断を受けるためには、羊水検査などの確定検査を受ける必要があります。
一方で、新型出生前診断のように採血だけで手軽に行える検査もあり、
検査結果が陽性になった後に、人工妊娠中絶を選択する方も少なくありません。

新型出生前診断(NIPT)

ダウン症(21トリソミー)・エドワーズ症候群(18トリソミー)・
パトー症候群(13トリソミー)といった染色体異常の有無を調べる検査

妊婦さんの血液に含まれる子供由来のDNAを分析するため、エコー検査よりも正確な結果を知ることができます。
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