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Episode.1 目覚めた先
◇4
しおりを挟む「…………」
目が覚めた。ぼやける頭で考えるのは、どうして生きているのかだった。
確かに自分は、崖から飛び降りて海に揉みくちゃにされて意識が途中で途切れた筈。
それがどうしてか、こうして呼吸をして、心臓も動いている。起きて状況を確認したいところけれど、身体が重く、起き上がるのが億劫だ。天井を眺めて、しばらくそのままぼうっと何も考えずに──
「天井?」
天井があるという事は室内だ。
外にいた筈なのに、なぜ室内にいるのか。ここはどこなのか。疑問がふわふわと彷徨う。
「あ、気付きました?良かった良かった。……熱も下がってきましたが、まだちょっとありますね」
熱。
そう言えば身体の節々が痛いし、なによりだるい。成程、起きるのが億劫だったのは熱があるせいかと納得する。ピタリと額に乗せられた誰かの手がひんやり冷たくて心地良い。そのままもっと擦り寄りたいくらいだが、生憎身体が言う事を聞いてくれないために断念した。
「んー、起きれますかね。お手伝いしますので一度起き上がってみましょうか」
こくりと微かに頷いて、身体に力を込める。背中に手が回って、何とか、ベットにもたれて座ることが出来た。
そこでようやく、頭が少しずつ覚醒しだす。
伏せていた目をゆっくりと開けて、あたりの情報を取り入れようとくるりと見回す。
そして、あれ、と彼女は首を傾げた。
「初めましてお嬢さん。分からないことは沢山あると思いますが、まずは食事をとりましょう」
はい、とスプーンと温かそうなスープを渡される。これを食べればいいのだろうか。じいっと見ていると、スプーンが手から奪われ、スープを掬って、口に突っ込まれた。とろりとしたそれは、温かくて胃の中がじんわり染み込んだ。
こくこくとスープを飲んだ後、スプーンを突っ込んできた人を見て、視界に飛び込んできた色にもう一度首を傾げた。
金色の髪に、赤い瞳。
茶髪に、茶色の瞳がほとんどで、茶髪に琥珀色の瞳をしているのが王族。知識として頭に入った情報がルシフェン国のもので正しければ、目の前にいる彼の配色は考えられない。
つまりここは、ルシフェン王国ではないという事になる。
「今、陛下を呼んできますから。しっかり食べてて下さいよ、食べないと熱下がりませんからね」
そう言って、彼はティアシェの口にスプーンを突っ込んだまま、どこかへと消えてしまった。頭に浮かんだ疑問はそのままに、まずは目の前にあるものを食べる事にする。
……久し振りに、優しげな瞳を見た気がした。
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