生贄の姫と黄昏の国

宵待 ふた

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Episode.1 目覚めた先

◇5

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「ふわぁ、お姫様がいる」


スープの最後の一口を飲み込んだと同時に、弾んだ声が聞こえた。
声の主を辿ると、ひょっこりと扉から顔だけを覗かせてこちらを見ている彼女の髪も、先程の彼と同様金色で、キラキラと輝く瞳は赤い。
そんな風に観察していると、彼女は「いいのかなぁ」「誰もいないし良いよね?」と呟いた後に、ぴょこぴょこと跳ねて隣にやってきた。


「初めましてお姫様!髪の毛いじってもいいですか?」
「……髪?私の?」


こくこくと頭を振る彼女に、了承の意で頷く。
「やった」と、花が咲いたように笑いながら、彼女は腰まで伸びたティアシェの白い髪をいくらか掬いとってくるくると髪を編み始めた。
することもない彼女は、綺麗に編まれていく髪の毛を見つめていた。耳の横あたりから始まって、首、肩、お腹あたりまで、だんだん緩い編み目にしながら結っていく。

途中で見飽きてしまって視線を外し、キョロキョロと彷徨わせる。
金色の髪に赤い瞳。そして、彼女が纏っているのは黒い軍服。……どこかの軍の方なのかと思考を巡らせつつ、周りを見渡す。

柔らかなベージュや白を基調とした、知らない部屋。座っているベットは私が王宮で寝ていたものと遜色ないくらい柔らかい。
ここはどこなのだろう、と改めて考えてみる。ルシフェン王国とは違う色を持った人。黒い軍服。
黒、といえば。そうだ。
ルシフェン王国の海の向こう側にひとつ該当する国がある。
エルフェリル帝国。通称、黄昏の国。

ルシフェン王国や、他の諸国からしたらとてつもなく大きく、力の強い国という認識。
一年中帝国の周りは霧に包まれ、送られてくる使者は常にベールを被りその容姿を見せることはない。全貌が見えない国……そんな所以ゆえんから、日が落ちてあたりが見えづらくなった黄昏時になぞらえて、周辺の国々は”黄昏の国”と呼ぶのだ。
状況は全く掴めないけれど……おそらくエルフェリル帝国の関係の方なのだと推測する。黒を纏うのは、彼らだけの筈だから。

図書館で詰め込んだ知識を引っ張り出してそう結論付けた。思考の海に沈んでいた意識を浮上させると、丁度同時にカチャリと誰かが扉を開けた。

「お嬢さん、食べ終わりましたかね?ってあぁ!?」


先程、出ていった彼が戻ってきたらしい。ゆったりとそちらを向くと、彼はティアシェの髪を弄っている彼女を見てあんぐりと驚き……少しばかり青ざめていた。
視線をつつっと後ろに滑らせると、彼より少し高い身長の男の人が立っていた。
そういえば先程誰かを連れてくると言っていたから、その人だろうか、と首を傾げるとパチリと目が合った。


──私、どうなるのでしょう?


二人よりも濃く、深い赤を持ったその瞳を見つめながら、少しだけ不安になるのだった。
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