生贄の姫と黄昏の国

宵待 ふた

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Episode.1 目覚めた先

◇6

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「おいセラ?俺、まだ君にお嬢さんのこと伝えてなかったよね?なんでここにいるのかな?」
「適当に歩いてたら着いたんだよねぇ。やっぱり女の子は髪長いほうがいいねぇ」
「適当に、って…はぁ、お願いだから大人しくしてくれよ。これからお嬢さんに説明しなくちゃならないんだからさ」
「はいはーい。フィスさぁ、もう少し肩の力抜いたら?肩凝っちゃうよ?」
「誰のせいだと。あ、お嬢さん食べられたんですね。体調はどうです?顔色はさっきよりいいですね」


ポンポンと会話を弾ませる二人に少し呆気に取られながら待っていると、彼(フィスと呼ばれていた方)が大きな溜息をついてから、くるりとティアシェの方に向き直る。


「大丈夫です。助けて頂いてありがとうございました」


一度ベットから立ち上がって、きちんとした礼を取る。頭は少しはぼうっとしているが、身体が覚えていてくれたようでふらつくことはなかった。最後に、にこりと柔らかく微笑めば作法は完璧な筈である。


「申し遅れましたが、私、ティアシェ・ルシフェンと申します。初めまして」


そういえば、死んだ事になっている筈の身だし、家名まで名乗る必要はなかったな、と。少し後悔しながらも反応を伺うと、フィス、セラ、と呼ばれた二人はパチリパチリと目を瞬かせていて。


「ルシフェンって、うっそぉ!?どこかの貴族かだとは思ってたけど……。まさか本物のお姫様だったなんて……」
「俺、お嬢さんとか言っちゃったんだけど…」
「いえ、諸事情あって今は王族とは関係ない身ですし。あの、気にせずに──」


狼狽える二人に慌てて説明し、平気です、と言いたかったのだけれど、そこでぐらりと視界が回る。運が悪い事に、シーツか何かに足を取られそのまま体勢を崩してしまった。
あぁ、やってしまいました、と冷静な部分で考える。あまり言うことを聞いてくれない身体では上手く立て直すことも出来ず、そのまま床に倒れる事を覚悟した。
諦めて痛みに耐えようと、身体を硬くさせぎゅっと目をつぶって待つこと少し。
しかし、彼女が味わったのは痛みではなく少しの浮遊感。


「熱があるのだろう。立たなくていい。大人しくしていろ」


それでも会話は出来る、と上から降ってくる声に小さく頷くと、静かにベットの上におろされる。きつく閉じていた目を開けてみれば、そこにいたのは二人よりも深い赤を持ったその人で。ありがとうございます、と礼を言い、言葉に甘えてベットに座っていることにした。


「さて、色々と話すことはあるんですけど───」


にこり、と親しみを感じる笑みを浮かべて、金髪赤目の──フィスはここがどこなのか、どうしてティアシェが生きているのかなどを説明してくれた。
予想通り、ここはエルフェリル帝国…の軍艦、らしい。海を渡って、国に帰ろうとしていた最中に、ティアシェが飛び降りた音に反応して拾ってくれたそう。


「で、拾ってくれた方っていうのが、陛下なんです」


フィスが指し示した先を辿ると、どこから用意したのか椅子に座ってこちらを見ている、先程も助けてくれた人で。

二度も助けてくれたらしい彼に、もうもう一度礼を言おうと口を開いて……閉じた。


───陛下?
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