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第三章 神と魔と

209 酒場の夜

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 あけましておめでとうございます! 昨年はこの物語をお楽しみいただきありがとうございました。
 今年も楽しんでいただけるようにがんばりますのでよろしくお願いいたします。

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 暗くなる前に宿を探したのだが見つからなかったので、俺たちは朝方まで開いている酒場を探して入った。
 非合法の奴隷商に捕まっていた大連合からさらわれた女性と子どもは、案内してくれた同じ被害者である地元の女性の親戚筋の家に金を渡して一緒に泊めてもらったがさすがに俺たちまでは泊まれない。
 見つけた酒場は色街の近くにあったので、女性が三人いるうちのパーティには不向きなんだが、仕方がなかった。
 ベンチのある隅のテーブルをなんとか確保して聖女とモンクとメルリルをベンチ側にまとめて押し込んだ。寝るときにはフードを被るように言っておく。ついでに勇者を聖女の隣に配置する。

「朝まで注文を途切れさせないようにしなきゃならんから少しずつ料理を注文するぞ。適度に食べて腹がくちくなったら寝ておけ」
「ダスターは寝ないの?」

 位置的に俺の隣になったメルリルが心配そうに尋ねた。

「寝るさ、いつものようにな。冒険者は自分の巣以外じゃ完全に寝ることはない。どこでも同じだ」
「私もその寝方を覚える必要がありますね」
「俺も!」

 聖騎士がパーティ最年長である責任感からかそう言うと、勇者が負けじと声を上げる。

「お前たちはパーティ単位で動くんだから交代で見張りをするようすにれば問題ないだろ。ましてやミュリアの魔法もある」
「いえ、魔法に頼り切るのは危険です。私も、起きて番が出来るようにがんばります」

 聖女ミュリアが決意の意気込みを語った。
 成長期の子どもが無理をするな。

「魔法は気力が大事なんだろ? 寝不足でいざというときにうまく魔法が使えないようじゃ意味がない。自分の役割を理解してそれに応じた行動を取れるようになるのが一人前だぞ。無理をしている内はまだまだだな」

 俺の言葉に聖女がしゅんとする。
 あ、言い過ぎたか。

「ミュリアさまは今のままで十分がんばっているよ。それ以上がんばる必要はないってダスター師匠は言ってるんだよ」

 モンクのテスタがやさしく聖女に言った。
 さすがのフォローである。

「わかった。私、がんばる」

 がんばるなと言われてがんばると返す聖女さまもさすがだ。
 まぁなんだかんだ言って、このパーティのかなめは勇者と聖女だ。そのことを聖女自身もよくわかっているのだろう。
 と、俺たちのところへ注文を取りに女給が回って来た。
 俺はタシテの銀貨を示しながら尋ねる。

「この金は使えるか?」

 女給は銀貨をしげしげと見ると、うなずいた。

「隣国の金だね。大丈夫。ちょっとだけ割高になるけどいい?」
「ああ、かまわん。まずはこれで酒とつまめるものを。あ、酒のうち三つは湯で割ってほしい」
「わかった。料理は大皿でいいよね?」
「もちろん」

 俺は代金として銀貨を三枚渡し、手間賃だと言いながら大銅貨で二枚ほど握らせた。

「まいど」

 女給は機嫌よく去って行く。
 その後姿を少しだけ目で追って、そのままぐるりと酒場を見回す。
 当然だが大半の客が男だ。
 農夫らしき者が二人ほど、そして何かの肉体労働者らしき者たちが三つぐらいのグループを作っている。
 剣などの武器をたずさえた者は五人。
 その内四人は仲間のようで一緒に飲んでいる。冒険者かもしれないが、兵士に近いものも感じた。
 もう一人、背に大剣を負い、一人でカウンター席に座っている男がいる。
 あれはおそらくこの酒場か色街の用心棒だな。
 酒をいっさい口にしていない。

「料理の名前や酒の種類の指定はしないのですね」

 聖騎士が話しかけて来た。
 ああ、こいつも元貴族だから、こういった酒場での過ごし方などわからないのだろう。

「金を渡してそれに合ったものを注文したほうが結果がいいからな。飛び込みの店で何が美味い俺たちにはわからんし、何か頼んで思ったのと違うものが来たらがっかりするだろ? それに……」

 俺はニカッと笑う。

「そのほうが面白い」
「面白い、ですか」
「何が出て来るかわからないからな。そのほうが楽しいじゃないか」
「冒険者らしい考え方ですね」

 聖騎士も笑った。
 最近、聖騎士もよく笑うようになって来た。
 鎧の面頬も上げていることが増えて、顔を見て話すことも多くなっている。
 俺が加わって最年長である責任感の重圧が少しは軽減されたのだろうか? そうだといいな。
 やがて酒と料理が運ばれて来る。
 俺と聖騎士と勇者のカップは金属のもの、聖女とモンクとメルリルのものは木製で取っ手がついていた。
 女性たちのカップからは湯気が立っている。
 料理は大皿に、焼いて薬味スパイスを振った肉と、瓜のような野菜を焼いたものにチーズがかけられたものが一緒に盛り付けられていた。
 思ったよりも量がある。

「ありがとう」

 俺が礼を言うと、女給は片手をひらひらと振って次の客へと向かった。
 さて食うか。
 まずは瓜のような野菜をつまんでみよう。
 しんなりとした野菜にチーズがかかり、いい香りが漂っている。
 口にするとやわらかな食感の野菜とチーズの豊かな香り、そして塩味がまろやかに混ざり合う。
 アツアツでうっかりすると口のなかをやけどしそうだが、そのギリギリの熱さが美味さの秘訣のように感じた。
 熱いうちに早めに食うべき料理だ。
 次に肉を口にする。
 チリッとする辛味のスパイスが、弾力のある肉の奥から染み出してくる味と合わさってなかなかに美味い。 
 何よりもただ焼いただけの香りではなかった。
 これはあれだ、あの特権騎士ホーリーアイ殿が自慢していた燻製スモークの香りだな。
 舌の上に残った辛味を酒と共に流し込む。
 うん? 酒はワインか? それにしては強いような。それに甘味がある。
 まぁいい。なんであれこの料理に合うようにきちんと考えてあることがわかる組み合わせなのが重要だ。
 思ったよりもこの店、当たりかもしれん。

 一息ついてほかの者たちを見ると、みんな黙々と食べて飲んでいる。
 うん、食べるときは集中して食べるのがいいよな。
 食べるという行為は生きることを噛みしめることとも言える。
 この満足感が生きる力になるのだ。
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