122 / 885
第三章 神と魔と
227 神と魔と
しおりを挟む
「どういうことでしょう?」
純粋な魔人じゃないと神の盟約の侵蝕を妨げられないということか?
しかし、純粋な魔人は少ないと、この聖者さま自身がおっしゃってたよな。
「今、大陸西の国々の貴族のほとんどと、平民でも多くの者が魔力を持っています。それは私共教会の尽力ゆえです」
「本来の魔力持ちである魔人はとても少ないとおっしゃっていましたね」
「そうです。純粋な魔人は小さな村なら百年に一人、大きな街でも十年に一人程度生まれるかどうかでしょう」
人間の魔力持ちも生まれる条件は魔物と同じと考えれば、納得出来る話だ。
野生の魔物も普通の動物との割合はそんなもんだろう。
もちろん例外はある。それが系譜だ。
魔物同士の仔は魔物となる。そして魔物のボスに率いられた群れは魔物となる。
だからこそ群れを作る魔物は恐れられているのだ。
これは人間にも当てはまるはずだ。
……――っそうか!
「なるほど、魔王の系譜、つまり辺境伯の子孫を大聖堂に迎えるのはそれが理由か」
聖者はにこりと笑った。
「少し話の流れが飛んでしまいましたね。元に戻しましょう。今大陸西の国々に多くいる魔力持ちの人間は、ほぼ全てが神の祝福を受けた人間の系譜です。神の盟約によってその身に紋章を与えられた者は、魔力が宿る体となります。そしてその体質は子へと引き継がれる」
「本来滅多に生まれないはずの魔力持ちが、驚くほどに増えたカラクリはそれか」
「はい。大陸西は魔境。魔物の森と山に囲まれた狭い土地です。そのような土地で、魔物が襲って来ることに怯えて暮らすしかなかった人間が、魔物と対等に戦えるようになるのが、私共教会が目指した未来」
驚くべき深慮遠謀と言うべきか。
人間という種族全体を改造したと言ってもいい。
その一方で、勇者の供である聖騎士クルスのような魔力を持たない貴族の子への風当たりが強くなってしまったのは皮肉なものだ。
「現在の有り様は私共にとって歓迎すべきことです。ただし、一つ問題がありました。神の盟約の祝福を受けた者がその影響を強く受けすぎると、野望や欲望を駆り立てられてしまうようなのです」
「……それは、あの導師も影響を受けていたということか?」
「わかりません。しかし、可能性としては高いでしょう」
聖者は悲しそうに言った。
それはまたずいぶんな悪影響だな。
本来利益を追求しないはずの教会の中心である大聖堂に、欲望をたぎらせた強力な魔法使いが集まるなんぞ悪夢のようなものだ。
「なんでそうなるんだ? 確か神との盟約は『守護』なんじゃなかったのか?」
「これは神の本質によるものです。あなたは神とはどういうものかわかりますか?」
こっちが聞いたのに質問で返されてムッとしたが、俺は聖者の言うことに答える。
「神は世界の意思だって聞いた。つまり世界そのものだと」
「そう、神は世界の意思。しかし、意思とは統一されたものではありません。私たちでもさまざまな相反する意思に悩まされるもの。多くの命を抱える世界ならばなおさらでしょう。ゆえに世界は大きな二つの意思を生み出しました。一つは神、そして一つは魔」
「魔も世界の意思?」
「そうです」
段々頭がこんがらがって来たぞ。
というか、俺、途中から聖者さまに対してかしこまった態度を取り繕わなくなっていたな。
まぁ今更か。
「神は成長の意思、未来を望むものです。欲望も競争心も成長のためのもの、だからこそ刺激されてしまうのでしょう」
「で、魔は?」
「……魔は成長を阻むもの。いえ、もっとわかりやすく言いましょう。魔は死を否定するものです」
聖者はおごそかにそう俺に告げた。
純粋な魔人じゃないと神の盟約の侵蝕を妨げられないということか?
しかし、純粋な魔人は少ないと、この聖者さま自身がおっしゃってたよな。
「今、大陸西の国々の貴族のほとんどと、平民でも多くの者が魔力を持っています。それは私共教会の尽力ゆえです」
「本来の魔力持ちである魔人はとても少ないとおっしゃっていましたね」
「そうです。純粋な魔人は小さな村なら百年に一人、大きな街でも十年に一人程度生まれるかどうかでしょう」
人間の魔力持ちも生まれる条件は魔物と同じと考えれば、納得出来る話だ。
野生の魔物も普通の動物との割合はそんなもんだろう。
もちろん例外はある。それが系譜だ。
魔物同士の仔は魔物となる。そして魔物のボスに率いられた群れは魔物となる。
だからこそ群れを作る魔物は恐れられているのだ。
これは人間にも当てはまるはずだ。
……――っそうか!
「なるほど、魔王の系譜、つまり辺境伯の子孫を大聖堂に迎えるのはそれが理由か」
聖者はにこりと笑った。
「少し話の流れが飛んでしまいましたね。元に戻しましょう。今大陸西の国々に多くいる魔力持ちの人間は、ほぼ全てが神の祝福を受けた人間の系譜です。神の盟約によってその身に紋章を与えられた者は、魔力が宿る体となります。そしてその体質は子へと引き継がれる」
「本来滅多に生まれないはずの魔力持ちが、驚くほどに増えたカラクリはそれか」
「はい。大陸西は魔境。魔物の森と山に囲まれた狭い土地です。そのような土地で、魔物が襲って来ることに怯えて暮らすしかなかった人間が、魔物と対等に戦えるようになるのが、私共教会が目指した未来」
驚くべき深慮遠謀と言うべきか。
人間という種族全体を改造したと言ってもいい。
その一方で、勇者の供である聖騎士クルスのような魔力を持たない貴族の子への風当たりが強くなってしまったのは皮肉なものだ。
「現在の有り様は私共にとって歓迎すべきことです。ただし、一つ問題がありました。神の盟約の祝福を受けた者がその影響を強く受けすぎると、野望や欲望を駆り立てられてしまうようなのです」
「……それは、あの導師も影響を受けていたということか?」
「わかりません。しかし、可能性としては高いでしょう」
聖者は悲しそうに言った。
それはまたずいぶんな悪影響だな。
本来利益を追求しないはずの教会の中心である大聖堂に、欲望をたぎらせた強力な魔法使いが集まるなんぞ悪夢のようなものだ。
「なんでそうなるんだ? 確か神との盟約は『守護』なんじゃなかったのか?」
「これは神の本質によるものです。あなたは神とはどういうものかわかりますか?」
こっちが聞いたのに質問で返されてムッとしたが、俺は聖者の言うことに答える。
「神は世界の意思だって聞いた。つまり世界そのものだと」
「そう、神は世界の意思。しかし、意思とは統一されたものではありません。私たちでもさまざまな相反する意思に悩まされるもの。多くの命を抱える世界ならばなおさらでしょう。ゆえに世界は大きな二つの意思を生み出しました。一つは神、そして一つは魔」
「魔も世界の意思?」
「そうです」
段々頭がこんがらがって来たぞ。
というか、俺、途中から聖者さまに対してかしこまった態度を取り繕わなくなっていたな。
まぁ今更か。
「神は成長の意思、未来を望むものです。欲望も競争心も成長のためのもの、だからこそ刺激されてしまうのでしょう」
「で、魔は?」
「……魔は成長を阻むもの。いえ、もっとわかりやすく言いましょう。魔は死を否定するものです」
聖者はおごそかにそう俺に告げた。
20
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。