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第四章 世界の片隅で生きる者たち
248 領主の館
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「どうでしょう勇者さま。あまり格式張らない訪問の作法にものっとった華麗な衣装を選んでみました」
使者がニコニコとした顔で勇者に評価を聞こうとしていた。
さんざん勇者に冷たく対応されたのにめげないな。
「いいんじゃないか。センスは悪くない」
「おお、望外の喜びです」
お、勇者もこれは納得ということか。
聖女がにっこりと笑っているしな。
「ダスター」
「お?」
メルリルが首をかしげて俺を見ていた。
「どうかな? 少しいつもと勝手が違うのだけど、おかしくない?」
「あ、うん。すごく綺麗だ。あーだけど、その、首元が空きすぎてるんじゃないかな?」
「ほ、ほんとうに? あ、うん。首のところは確かにスースーして心もとないよね」
「そ、そうだ。フォルテ」
「ピュイ?」
「悪いがメルリルの首元にいてくれないか? もしものときには頼りになるし、ちょうどいいからな」
「ピ? ピピュイ」
メルリルの首元を隠すのと、護衛を兼ねてフォルテに頼む。
不安が二ついっぺんに解消されるいい案だと我ながら思った。
フォルテは意外にも快く引き受けて、メルリルに飛び移って首元に美しい襟巻きのようにうずくまった。
メルリルの衣装は従者であることを重視したのか、あまり華やかさはない色合いだったのだが、フォルテの鮮やかな羽毛が首元に来ることで、ぱっと明るさが増した。
これ、逆に目立ってしまうかもしれないな。
まぁ色っぽささえ抑えることが出来れば問題ない。
ふと気づくと、勇者始め全員がニヤニヤしながら俺を見ていた。
「ゴホン! それで、次は勇者たちだろう? 早くしたほうがいいな」
「まぁ野郎はすぐに終わるさ。別にこだわりがないなら相手にまかせておけばいいし」
「なるほど」
確かにこだわりなどないので、任せっぱなしでいいか。
などと思っていた俺だが、いざ馬車のなかに入ってみると、さまざまな道具を持って待ち構えている者たちがいて、服を引っ剥がされ、あちこち採寸され、いろいろな服を押し当てられて、ぐったりすることになってしまった。
うちの女性たちはなんでこれの後にあんなに楽しそうだったんだ?
疲れないのか?
結果として、勇者はやたら金の装飾の多い礼服でマントはいつものやつ、聖騎士はいつもの鎧に羽をあしらわれ、左肩だけを覆ったマントを装着させられていた。
俺はメルリルと色味を合わせたシャツとベストとズボンの組み合わせだ。
まぁ派手じゃないだけいいだろう。
というか、一流の針子ってすげえな。
少しの間にたちまちサイズを直してしまったぞ。
衣装係が俺の無精髭について、剃るかそのままにするかで揉めていたのだが、結局剃られてしまった。
いや、わざと残していた訳じゃないからいいんだけどな。
髪も香りのいい油をつけられてクシで整えられてしまった。
だが、結局は、勇者の言う通り、俺たちの着付けは女性陣の半分以下の時間で片付いた。
この倍以上の時間をかけた女性たちは何をどうしていたのか謎である。
「ダスターかっこいい!」
「見違えたよ」
「し、……下手な貴族よりも威厳があるように見えるぞ」
メルリルがニコニコ顔で自分のことのように喜んでくれた。
テスタはちょっと驚いた風だな。
普段おっさん扱いしているから、それよりはちょっとはマシになったってことか。
勇者よ、お前また師匠と言いかけただろ? ほんと、気をつけろよ?
「勇者さまはあんまり装飾つけないほうが勇者らしい感じがするな」
「飾り立てるのは好きじゃないが、領主との正式な対面だから一応形式的に必要なものがくっついているんだ」
今の勇者は勇者というよりも王子さまという感じだな。
魔物相手に剣を振るっている様子が想像出来ない感じだ。
見た目が良すぎると強そうに見えなくなるというのは不思議だな。
てか、聖騎士クルスよ。お前いいよな、ほとんど変化なくて!
なんだかもう疲れ切ってしまったが、本番はこれからだ。気を引き締めないとな。
準備を整えて、後は出立するばかりとなった俺たちの前に迎えの馬車が来た。
というか、さっきの車は衣装を整えるためだけのものだったらしい。
驚きだな。
迎えが車でなく馬車なのは、形式的な問題らしい。
偉いさんのやることはよくわからんな。
馬車は衣装変え用の車よりも少しだけ質素だった。
黒塗りの車体に美しいはめ込みの細工が施されている。
よく見ると前の車よりも豪華なのかもしれない。
派手さがないので質素に見えるだけのようだ。
それと、馬車を引いている馬がでかいと思ったら、肩の辺りにウロコが少し見えるところからして、噂の竜馬ってやつのようだ。初めて見たな。
戦争のときには引っ張りだこになる馬種だが、普通の馬の何倍もの値段がすると聞いている。
どうもここの領主はかなりの金持ちっぽいな。
旅の資金をいくらか用立ててくれないだろうか? 大陸東で使える金との両替も領主のところで一気にやってしまえると助かる。
一般の両替商に頼むと、手数料が恐ろしいことになりそうだし。
「到着しました」
いろいろと考えながら馬車に乗っていたら、やがて御者から声がかかる。
そう遠くではなかったようだ。
このぐらいの距離なら帰りは歩きでも問題ないだろう。
ぞろぞろと馬車から降りると、俺達の眼前にどでかい城がそびえ建っていた。
「ようこそ、ディディル卿のお屋敷へ」
そして、ずらりと並んだ騎士と使用人たちが、総出で俺たちの出迎えをしてくれていたのだった。
使者がニコニコとした顔で勇者に評価を聞こうとしていた。
さんざん勇者に冷たく対応されたのにめげないな。
「いいんじゃないか。センスは悪くない」
「おお、望外の喜びです」
お、勇者もこれは納得ということか。
聖女がにっこりと笑っているしな。
「ダスター」
「お?」
メルリルが首をかしげて俺を見ていた。
「どうかな? 少しいつもと勝手が違うのだけど、おかしくない?」
「あ、うん。すごく綺麗だ。あーだけど、その、首元が空きすぎてるんじゃないかな?」
「ほ、ほんとうに? あ、うん。首のところは確かにスースーして心もとないよね」
「そ、そうだ。フォルテ」
「ピュイ?」
「悪いがメルリルの首元にいてくれないか? もしものときには頼りになるし、ちょうどいいからな」
「ピ? ピピュイ」
メルリルの首元を隠すのと、護衛を兼ねてフォルテに頼む。
不安が二ついっぺんに解消されるいい案だと我ながら思った。
フォルテは意外にも快く引き受けて、メルリルに飛び移って首元に美しい襟巻きのようにうずくまった。
メルリルの衣装は従者であることを重視したのか、あまり華やかさはない色合いだったのだが、フォルテの鮮やかな羽毛が首元に来ることで、ぱっと明るさが増した。
これ、逆に目立ってしまうかもしれないな。
まぁ色っぽささえ抑えることが出来れば問題ない。
ふと気づくと、勇者始め全員がニヤニヤしながら俺を見ていた。
「ゴホン! それで、次は勇者たちだろう? 早くしたほうがいいな」
「まぁ野郎はすぐに終わるさ。別にこだわりがないなら相手にまかせておけばいいし」
「なるほど」
確かにこだわりなどないので、任せっぱなしでいいか。
などと思っていた俺だが、いざ馬車のなかに入ってみると、さまざまな道具を持って待ち構えている者たちがいて、服を引っ剥がされ、あちこち採寸され、いろいろな服を押し当てられて、ぐったりすることになってしまった。
うちの女性たちはなんでこれの後にあんなに楽しそうだったんだ?
疲れないのか?
結果として、勇者はやたら金の装飾の多い礼服でマントはいつものやつ、聖騎士はいつもの鎧に羽をあしらわれ、左肩だけを覆ったマントを装着させられていた。
俺はメルリルと色味を合わせたシャツとベストとズボンの組み合わせだ。
まぁ派手じゃないだけいいだろう。
というか、一流の針子ってすげえな。
少しの間にたちまちサイズを直してしまったぞ。
衣装係が俺の無精髭について、剃るかそのままにするかで揉めていたのだが、結局剃られてしまった。
いや、わざと残していた訳じゃないからいいんだけどな。
髪も香りのいい油をつけられてクシで整えられてしまった。
だが、結局は、勇者の言う通り、俺たちの着付けは女性陣の半分以下の時間で片付いた。
この倍以上の時間をかけた女性たちは何をどうしていたのか謎である。
「ダスターかっこいい!」
「見違えたよ」
「し、……下手な貴族よりも威厳があるように見えるぞ」
メルリルがニコニコ顔で自分のことのように喜んでくれた。
テスタはちょっと驚いた風だな。
普段おっさん扱いしているから、それよりはちょっとはマシになったってことか。
勇者よ、お前また師匠と言いかけただろ? ほんと、気をつけろよ?
「勇者さまはあんまり装飾つけないほうが勇者らしい感じがするな」
「飾り立てるのは好きじゃないが、領主との正式な対面だから一応形式的に必要なものがくっついているんだ」
今の勇者は勇者というよりも王子さまという感じだな。
魔物相手に剣を振るっている様子が想像出来ない感じだ。
見た目が良すぎると強そうに見えなくなるというのは不思議だな。
てか、聖騎士クルスよ。お前いいよな、ほとんど変化なくて!
なんだかもう疲れ切ってしまったが、本番はこれからだ。気を引き締めないとな。
準備を整えて、後は出立するばかりとなった俺たちの前に迎えの馬車が来た。
というか、さっきの車は衣装を整えるためだけのものだったらしい。
驚きだな。
迎えが車でなく馬車なのは、形式的な問題らしい。
偉いさんのやることはよくわからんな。
馬車は衣装変え用の車よりも少しだけ質素だった。
黒塗りの車体に美しいはめ込みの細工が施されている。
よく見ると前の車よりも豪華なのかもしれない。
派手さがないので質素に見えるだけのようだ。
それと、馬車を引いている馬がでかいと思ったら、肩の辺りにウロコが少し見えるところからして、噂の竜馬ってやつのようだ。初めて見たな。
戦争のときには引っ張りだこになる馬種だが、普通の馬の何倍もの値段がすると聞いている。
どうもここの領主はかなりの金持ちっぽいな。
旅の資金をいくらか用立ててくれないだろうか? 大陸東で使える金との両替も領主のところで一気にやってしまえると助かる。
一般の両替商に頼むと、手数料が恐ろしいことになりそうだし。
「到着しました」
いろいろと考えながら馬車に乗っていたら、やがて御者から声がかかる。
そう遠くではなかったようだ。
このぐらいの距離なら帰りは歩きでも問題ないだろう。
ぞろぞろと馬車から降りると、俺達の眼前にどでかい城がそびえ建っていた。
「ようこそ、ディディル卿のお屋敷へ」
そして、ずらりと並んだ騎士と使用人たちが、総出で俺たちの出迎えをしてくれていたのだった。
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「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
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アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
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「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
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