勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

269 衛兵詰所

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 黒い煙を吹き上げながら行き交う車を避けて道路を渡り、衛兵詰所へと向かう。
 詰所の前には衛兵らしき平野人の男が二人立っていた。
 通常衛兵と言えば甲冑姿を思い浮かべるものだが、この国の衛兵はひどく軽装で、なんとなく頼りなく見える。
 腰につけている装飾の多い棒のようなものは誘拐犯が使っていた魔道具と同じものだろう。
 確か銃と言ったか?
 ただし、誘拐犯が持っていた銃は懐に入るぐらいの小さめなものだったが、衛兵が装備しているものは少し大きい。
 その分性能が高いと見るべきか。
 俺が衛兵を観察しているように、衛兵のほうも俺たちを観察していて、不審に思ったのか何か声をかけようとした。そこへ冶金技術者のカホックが進み出る。

「おじゃまするぞ」

 そう言って、堂々と入り口の扉を押して入った。
 扉はノブのついていない半回転式のもので、押し開けると、しばらくそのまま開いたまま留まり、後にゆっくりと閉じていく。
 これもこの国の技術なのだろう、便利なものだ。
 門衛のように入り口に立っていた衛兵は、カホックを咎めることもなく、その行動をただ見守っていた。
 害はないと判断されたんだろうな。

「ご苦労さま」
「失礼します」

 何かを言わなければいけないような気持ちに駆られ、俺はひとことねぎらいの言葉を口にした。
 メルリルも同じ気持ちだったのか、軽く挨拶をして後に続く。
 衛兵詰所の内部はかなり殺風景なものだった。
 木製の長椅子が何脚かあり、カウンターによって奥と手前が仕切られている。
 特に奥へと続く通路は檻の扉を思わせる金属の格子扉で遮られていて、なかへと入ったら出るのは難しいだろうなと思わせた。

「偉い人を頼む」

 カホックは、彼には少し高い位置にあるカウンターから顔を出してそこにいた人間にそう告げた。

「え、偉い人って……とりあえず話を聞きますよ?」

 呼びかけられたほうは戸惑ったようにそう答える。

「冶金ギルドからの訴状と、俺の被害届を出したい。俺の被害届はともかくとして、ギルド長からの訴状は誰にでも渡せるもんじゃねえだろうが」

 カホック、喧嘩売ってるんじゃないだろうな?
 この国ではあれが衛兵に対する普通の態度なのか?
 いや、なんか相手がイラッとしているようだし、やっぱあれまともなやり方じゃないんだろうな。

「すまない。実はこの男が誘拐されそうになったところを俺が助けたんだが……」

 見かねて口を出したんだが、途端にその場にピリピリとした緊張が走った。

「冶金ギルドの技術者ですか?」
「さっきからそう言ってるだろうが」

 衛兵さんの堅い表情からの問いかけに、カホックは変わらない態度で答える。
 ああなるといっそ清々しいな。

「そちらの方々は?」
「通りがかった冒険者だ。ギルドまで送ったらここまでの護衛に雇われた」
「わかりました。では、こちらへどうぞ」

 ガチャンという大きめの金属音を立てて、檻のような扉が開かれる。
 入るのをためらうような入り口だなぁ。
 俺たちが入ると、その扉は再び鈍い音と共に閉じられ、厳重にカンヌキ錠を掛けられた。
 犯罪者なら震え上がるところだろう。
 奥のほうにある応接間のようなところに通されて、しばし待つとやたらガタイのいい男が現れた。
 装備がほかの衛兵よりも豪華なので偉いさんだろうな。

「失礼するぞ。どうも、俺が衛兵隊の一の隊の隊長だ。それで、こっちの大地人のおやじが誘拐されそうになったという技術者か? ったく、誘拐ならもっと可愛げのある奴を攫えばいいものを」
「お? 大地人差別か? お役所に訴えるぞ」
「ったく技術屋ってのはどいつもこいつも口が減らねえな。ああ、すまねえな。……ん? あんたらもしかして外国人か?」

 衛兵の隊長という人がカホックとなにやら言い合いを始めてあっけにとられていたが、相手の意識がこちらに向いたので、挨拶をしておく。

「ああ、ミホム王国の冒険者でダスターと言う。こっちはパーティメンバーでメルリルだ」

 俺の紹介にメルリルが小さく顎を引いて応じた。

「へぇ、亡命者か? ミホムっていうとあれだろ、勇者さまの国。そういや丁度その勇者さまがいらしているみたいだが……、ん~、もしかして関係者か?」
「ああ、勇者の従者をしている」

 ここでヘタにごまかしても仕方がないだろうと思って、俺は正直に勇者の関係者であることを明かした。
 カホックが信じられないという顔で俺を見る。
 そう言えばギルドでは勇者と関係ないとごまかしたんだった。

「こりゃあいい、勇者さまの従者殿か。さすが正義の味方だけある。我が国の悩みどころの誘拐犯も退治してくれたという訳だ」
「いや、退治はしていない。彼を救い出しただけだ。ただ、連中の潜んでいる場所はわかっている」

 俺の言葉に隊長さんの目の色が変わった。
 
「マジか? マジか? やったぜ、これでようやく東国のクソ野郎共をとっちめられるってもんだ。外交部門からいらん横槍が入る前にとっとと確保しちまおう」
「おいこら、ギルド長からの訴状を受け取れ。外交部門の役人が何か言って来たらこれを突きつけてやれ」
「ったく大地人は口の利き方を知らねえな。わかったよこせ」

 むちゃくちゃ乱暴なやり取りだが、別に険悪なムードではない。
 どうやらこれが普通のようだ。
 しかし衛兵と言えば貴族の端くれだ。いや、まぁたまに平民上がりもいることはいるが。
 それに対してこんな態度が許されるということは、この国では平民と貴族の距離が意外と近いのかもしれない。
 衛兵隊長は書面に目を通すとニヤリと凶悪な笑いを浮かべた。

「こりゃあいい。ギルド長いい仕事をしてくれたぜ。おい、誰か! うちの兵隊共を集めろ。人間のフリした魔物を狩るぞ!」
「え?」

 その言葉に驚いている俺たちに、その本人こそが魔物であるかのような笑みを刻んだままの顔を向けて、衛兵隊長は口を開いた。

「人間のフリした魔物ってのは、つまり犯罪者のことよ」

 そう言ってニヤニヤ笑う。
 大丈夫か? この国。
 まぁいい。俺は案内すればいいだけの話だろうしな。

「カホックとメルリルはここに残れ」
「えっ!」

 カホックは当然といった態度で椅子にふんぞり返って座っていたが、メルリルが驚いたように俺を見た。

「犯人の確保には俺が道案内しなきゃならん訳だが、本来の俺たちへの依頼はカホックの護衛だ。一人は残る必要がある」
「う……うん」
「一緒に行動するだけがパーティじゃないぞ。信頼しているからこそ仕事を任せることが出来るんだ」
「わかった。ダスター、危ないことは避けてね。あいつら私達の知らない武器を使ってたし」
「当たり前だ。連中を捕まえるのは衛兵の皆さんであって俺じゃない。俺はただの道案内だぞ」
「うん」

 俺が説明すると、メルリルはほっとしたように少し微笑む。
 
「若いもんはええのう。うんうん、俺も美人さんがいてくれるほうが嬉しいぞ」
「変なことはするなよ」
「当たり前だろうが、俺はこれでも紳士なんだぞ」

 さっきの衛兵隊長とのやりとりは到底紳士という感じではなかったが、俺はとりあえず納得しておいた。
 まぁ悪い奴じゃないのはわかってるしな。
 衛兵さんたちを誘拐犯のところへご案内したら、後はもう一度冶金ギルドに行って、ドラゴン研究者の夫婦を紹介してもらうだけだ。
 勇者たちの首尾次第ではこの帝都に長く留まる必要もないだろうし、さっさと用事を済ませてしまうか。
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