勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

296 東からの亡命者

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「お前たち何か勘違いしているみたいだが、この国にだって魔法使いはいるぞ。基本的に魔力持ちの貴族はみんな教会の祝福を受けるはずだし」

 俺がそう言うと、聖騎士クルスが後ろから訂正する。

「ダスター殿はご存知ではないかもしれませんが、この国には貴族はいないことになっています」
「え? マジで?」

 俺の驚きにうなずきを返す聖騎士。
 それは知らなかった。と言うか、西門の街の領主さまは貴族だったよな?

「あの、二代目勇者さまの子孫だって言ってた領主さまは貴族だったよな。魔力もあったようだし」
「私もあまり詳しく知っている訳ではないのです。この国に関することは貴族の間でも話題に上ることはまずありませんから。ただ、侮辱のような意味で、貴族のいない下賤な国という表現がされることがあり、そのことだけは私も知っているのです」

 ううむ、理解不能だな。
 そう言えば庶民でも能力があれば国の政治に関われるんだっけ?
 衛兵隊長が何か言ってたな。
 この国の身分制は皇族の次が公民でほかは庶民だとか。
 政治に関わる身分が公民だったか。
 駄目だ、よくわからんな。後で勇者にでも聞いてみるか。こういうことはあいつが詳しいからな。

「よくわからんがとりあえずこの国に貴族がいないということはわかった。だが魔力持ちは普通にいるよな。冶金ギルドの大地人は全員魔力持ちだったし」
「……そう、なのか?」

 俺の言葉に、驚いたのは青年のほうだった。

「なんだ、お前知らなかったのか? 大地人の魔力持ちは鉱物に対する特殊な魔法が使えるから金属加工の仕事をしているってのは有名な話だと思ったんだが」

 なにしろそのせいで東国の貴族とやらに狙われたらしいからな。

「……実は俺たち、北冠からこの国に逃げて来たばっかりなんだ」
「亡命者か?」

 俺が尋ねると、青年はビクッと体を震わせた。
 ん? 亡命者ということを知られたくないのか? そう言えば衛兵隊長の話ではこの国では亡命者は手厚く保護されているってことだったな。知られると身の危険があるのかもしれん。
 それとも東国からの追手とかを気にしているのか?

「実は俺たちも別の国からここに来た旅人だ。さっきも言ったがただの冒険者だがな。うちの国はミホムと言って、初代勇者が興した国なんだ。だからと言ってはなんだが、貴族がいて、そのほとんどは魔法使いだし、平民にも魔力持ちが多いぞ」
「勇者の国! ほ、ほんとうに、そんな国があったんだ。ただの物語だと思っていた」
「すごーい! 勇者さまだ!」

 青年が感動に身を震わせ、少女が声を上げながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
 待て待て、変な噂が立つとまずいから待て。

「いや、俺は勇者さまじゃないからな。勇者さまは別にいるから」
「え? 勇者ってもうずっと昔の人なんじゃないのか?」
「初代は昔の人だが、ときどき神のご神託によって勇者が選ばれているんだ。今代にもいるぞ」

 しれっと言った俺の背中に聖騎士とメルリルの視線が突き刺さる。
 嘘は言ってないだろ!
 青年はポカーンと口を開けて俺を見て、少女はうれしそうに手を叩いている。
 いかん、こんなところでこんな話をしていると目立つことこの上ない。

「ともかくその貸本屋に案内してくれ。あと、それとは別に君たちに話を聞きたいんだが。もし話を聞かせてくれるならさっきの案内料とは別に大銀貨一枚出そう」
「っ! 俺を騙そうってんなら……」

 あ、額が大きすぎたか。情報量の相場なんだが、全く文化の違う国から来たなら価値観も違うだろうしな。

「いや、警戒するなとは言わん。警戒はするべきだ。だが、情報というのは人によっては形あるものよりも価値があることがある。理由は道すがら話そう。まずは案内を頼む」

 青年は怪しんでいるというよりも戸惑っているようだった。
 
「実を言うと、俺たちはほとんど身一つで逃げて来たから金がない。商売をしようにも信用がないし、働き口には亡命者は優先権があるんだが、そのせいで元の住人に嫌われていて、さっきも」
「ああ、なるほど。亡命者が優遇されるのが気に入らないって連中か。ふーん、だが俺はその仕組みはいいと思うぞ。知らない土地に移り住んで知り合いもいないし、財産もないんだろ? 気の利いた仕組みじゃないか」
「あ、ありがとう。だから金を貰えるなら、仕事を選べるような立場じゃないんだ。さっきはつい疑うようなことを言って悪かった」

 青年はぺこりと頭を下げる。
 青年に倣って少女も頭を下げた。
 この二人、親子というには年が近いから兄妹かな?

「いや、疑うのは正しい。世の中には困窮している相手につけ込んで騙そうとして来る奴がいる。そういう相手を見極めることは必要だからな」

 青年たちの案内で歩きながら俺はそう言った。
 いつだって世の中は弱者に厳しい。
 だからこそ弱者とされる人間は、ずる賢いと言われるぐらいが丁度いいんだ。

「あんた変な人だな」

 青年は笑った。

「自己紹介がまだだったな。俺はアキオ、こっちはハルナだ」
「おう。俺はダスターだ、属名はないがギルドはミホムの『不屈の野良犬』ってとこだ。そこの女性は俺と同じパーティのメルリル、それとこいつがフォルテ。後ろの背が高い兄さんはクルスだ」

 メルリルとフォルテ、そして聖騎士クルスがそれぞれ軽く挨拶をする。
 青年アキオも少し戸惑いながらも挨拶を返した。
 ハルナと紹介された少女は「よろしくね!」と言いながら飛び跳ねる。
 飛び跳ねるのが好きな子だな。

「フォルテちゃん!」

 ハルナはどうも俺の肩にいるフォルテが気になるようだった。
 
「触ってみるか?」

 俺の言葉にハルナは顔を輝かせたが、フォルテのほうは不満そうな目を向けて来た。
 いいだろ、たまには子どもの相手ぐらいしてやれ。
 手の上に乗せてやると、ハルナはピャーとかヒャーとかいう声を上げてフォルテを撫でた。
 うんうん、楽しそうじゃないか。
 だからそんな恨めしげな目で見るな。
 家と家の間を抜けると、どっかの庭のような場所に出て、そこを突っ切ると塀のある細い道に出る。
 そこには溝があり、少し臭う汚れた水が流れていた。

「これは?」
「どぶだ。表通り周辺だときちんと蓋がされているんだが、ここら辺は蓋がなくて道になっているところだけに板が渡してあるんだ。踏み外すなよ、下水だから汚いぞ」
「おお、これが下水か」

 注意しながら渡り、家と家の間の道を進む。
 狭いながら家の敷地には庭があり、花や木が植えてある。
 あちこちで座り込んで遊んでいる子どもや立ち話をしている人を見かけるようになって来た。
 住宅地だろう。

「それでさっきの話だが、聞きたいことってなんだ? あんたたちの事情っていうのも教えてくれ」

 アキオ青年がしばしの沈黙の後にそう切り出した。

=======以下告知です=========

おまたせしました!
すでに近況ボードのほうでお知らせしましたが、
「勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ」は、「勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!」にタイトル変更して来月の4月20日ごろ発売予定です!
ヽ(=´▽`=)ノヤッタネ!
これもみなさんの応援のおかげです(´;ω;`)アリガトウアリガトウ

本を買ってくださる場合にはとらのあなさんで購入すると描き下ろしSSがもらえます。
けっこうあざとい内容ですw
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感想 3,670

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