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第五章 破滅を招くもの
384 勇者パーティとその弟子たち
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おかしな話かもしれないが、他人に魔力とは何かということを教えることによって、俺自身が魔力とは何かということを考えることになった。
正直に言うと、俺は魔力についてそれまで深く考えたことはなかったのだ。
俺にとって魔力とは力を込めたいときや、相手を観察するときに自分の思うように使うものでしかなかった。
思えば、俺が魔力を見るようになった最初がいつであるかさえわからない。
人にいつ目で見たものの判別が出来るようになった? とか、いつ臭いを嗅ぎ分けることが出来るようになったか? と、問うようなものだ。
そこで、俺は勇者パーティのそれぞれが東方の魔力持ちたちを教えている様子を見て、自分も学んでみようと思い立ったのである。
見学してみて、予想通りというか、ほとんど何の参考にもならなかったのが勇者だ。
「大聖堂で紋章を入れられると勇者の魔法が使えるようになるんだが、コレを入れるとき死ぬほど痛かった。骨を削っているのかと思ったぐらいだ。あいつら頭おかしいんだと思う。そこまでじゃないが、貴族の魔力持ち連中は十五ぐらいのときに手の甲に小さい紋章を入れるんだ。俺はそれも入れたけどな! えっと、ほら、このモンクのねーちゃんみたいなやつ」
「は? モンクのねーちゃんってなに? 紹介の仕方、おかしいよね?」
「いいだろ。子ども相手に本気になるなよ」
「違うだろ、子どもじゃなくて、あんただよ! バカ勇者! うん、前から一度言ってみたかったからすっきりしたよ」
「バ、バカとはなんだ! テスタこそ、女性らしさが足りないだろ、俺が勇者として足りないよりもそっちが問題じゃないか?」
「は? 私は十分女性らしいですけど? 誰かさんと違ってちゃんと食べられる料理を作れます!」
「ぐっ、しかし、師匠のご飯のほうが美味しいぞ!」
「ダスターさんと比べるのやめてくれる?」
何かおかしな雲行きになって来た。
周りの子どもたちがドン引きしているぞ。
あ……。
「わたくし、ちっとも料理、上達しなくって、……女性として失格ですね」
横で話を聞いていた聖女がしゅんと落ち込んでしまった。
これはあれだな流れ矢が刺さるってやつだ。
「ああっ! ち、違うんだよ。ミュリアは伸びしろがあるってことなんだよ。それに料理なら私が作ってあげるから大丈夫だよ!」
「そ、そうだぞ! 俺に比べればミュリアのは食べられるからマシじゃないか! 味が薄いのは足せばいいから全然大丈夫だって師匠も言ってたぞ。俺の作ったものは命の危険があるからって料理禁止になったし」
勇者とモンクが慌てて聖女を慰める。
どうももう魔法がどうのという雰囲気じゃないな。
どさくさに紛れて聖女が行っていたカウロに対する指導も中断してしまったし。
純真なカウロ少年が困ってるじゃないか。いい加減にしておけよ、お前ら。
俺はそっとその場を離れた。
「そう言えば、クルスはどうやって指導しているんだろう?」
騎士志望の少女であるミハルに見込まれて師匠にされてしまった聖騎士を思い浮かべる。
確かにクルスは騎士としての能力は高い。
だが、魔力を全く持っていないし、そのことで長年苦しんで来たはずだ。
魔力持ちの少女の指導をちゃんと出来るのだろうか?
クルスは武器を使った指導をするため、少し開けた場所に行っていた。
見に行ってみるか。
「ダスター、さっきの魔力の話だけど」
俺が聖騎士とミハルのところへ向かっていると、メルリルが俺を見つけて近寄って来た。
魔力の話?
「癒やしの魔法もいいけれど、直接魔力同士の反発を感じさせたほうがわかりやすいんじゃないかな?」
「それは考えたが、弱い魔法でも危険だろう?」
俺の返事にメルリルが笑う。
「そんな難しいことしなくても、ダスターなら簡単に出来ることがあるでしょ?」
「んん?」
メルリルは俺の左手を取ると、その手を自分の両手で包み込む。
そして魔力をその手のなかに集め出した。
俺の拳は、その魔力に反応して熱を帯び、まるで火がついたような熱さになる。
なるほど、接触した状態で魔力をその接触部分に集めれば、自然と相手の体がその魔力に反発するから魔力の働きを実感出来るということか。
当たり前のことすぎて盲点だったな。
難しく考え過ぎていたのかもしれない。
「なるほど。わかりやすいな。助かったよ。正直他人にものを教えるとか俺の柄じゃないしな」
「そんなことない。ダスターの行動は周りの人にとって学ぶことが多いから。自然体で多くの人を導いているんだと思うの。気負いがあって難しく考え過ぎてしまっただけじゃないかな」
「まさか、そこまでの男じゃないさ」
メルリルがあまりに持ち上げるので恥ずかしくなる。
それとずっと包まれたままの俺の左手が、こう、なにやら熱いだけじゃなくて心地よさを伝えて来た。
やわらかくてすべらかな手の感触が心臓を刺激する。
「私の愛した人だもの、あなたはあなた自身が思っているよりもずっと素晴らしい男だと信じて欲しい。なんなら私を信じればいいわ」
「お、おう」
やばい、何かヤバイ雰囲気になっているぞ。
俺は慌ててメルリルの手から自分の左手を引っこ抜くと、気持ちを落ち着かせる。
「ちょっとクルスたちを見て来る」
「うん」
微笑んで、少し首をかしげるように俺を見つめ続けるメルリルを意識しながら、俺は聖騎士たちのいるほうへと急いだ。
「クケケケ……」
頭上でフォルテがまるで笑うように鳴いた。
という、笑ってる。
くそ鳥め。
しばらく進むと、長もので風を斬る音が聞こえて来る。
お、いたいた。
「剣は単なる道具ですが、その道具たる剣を理解せずに使えば結局人は剣に振り回されるだけです。重心はどこにあるか、刃先の鋭さは? 刃の厚みはどの程度で、どの角度からなら斬れてどの角度なら斬れないか。それが理解出来ない者には結局のところ剣というものの真髄はわからないのです」
「なるほど」
「あなたは今まで剣など無縁な世界で生きて来た。そうですね?」
「い、いえ、剣術という武術はありました。私、習っていたんです」
「人が殺せる剣を握って練習していましたか?」
「……いいえ」
「私は東方の国と交流のある国で、銃と呼ばれる武器を見たことがあります。女性が強大な敵を倒すにはあれのほうが効率がいいでしょう」
「た、確かに銃は強い武器です。でも、私、銃が嫌いです。あれは人殺しのための武器です。でも騎士は違うのでしょう? 人を守るために戦うのが騎士だと聞きました」
聖騎士は小さく息を吐いた。
「確かに戦うときにどのような覚悟を持っているかは大切なことです。自分自身のモチベーションも変わって来る。ですが、殺しを目的とした相手に守りを目的とした者は勝てません」
聖騎士の言葉にミハルは息を飲んだ。
「結局のところ、殺し合いなのです。より強い者が勝つ。それが戦いの掟です。ですが、この強い者という定義は単純ではない。そこに一般的な強さとの剥離があります」
「ど、どういうことでしょう?」
「女子どもが大男に勝てるということです」
ミハルがハッとしたような顔になる。
「話は最初に戻りますが、戦いに勝つには武器という道具をより理解して、使いこなす必要があります。それは剣でも銃でも同じことです。……そして魔力も」
「魔力……」
「先程、ダスター殿がおっしゃっていましたが、魔力には自分の体に作用するものと放出するものがあります。私は今まで天性の魔力持ちと何度か相対したことがありますが、放出タイプの魔力持ちは十人中一人程度、あまり多くありません。それに放出系は当たると大きいのですが、隙もまた大きい。私がこれまで驚異に感じた魔力持ちは全て自分の体に魔力を作用させた方々でした」
「さっきダスターさんは放出の魔力なら人を投げ飛ばすことも出来るって言ってましたよね」
「ええ。ですが、武器を使う場合もそうですが、攻撃というものは自分の体から遠くなるほどコントロールが難しくなるものです。逆に言えば、遠い攻撃ほどより多くの修行を必要とするということでもあります。放出は遠い攻撃になります。その分使いこなすのは難しい」
「う、うん、なんとなく理屈はわかった」
「あなたの魔力がどの系統かわかりませんが、それに合った修行をすれば、あなたは確実に素の状態で相対した場合は私よりも強くなれるでしょう。そこに加えて武器の使い方を理解出来ればその強さは何倍にもなります」
ミハルは、聖騎士の顔を見つめて、自分の両手をぎゅっと握る。
「あのさ、師匠は銃と戦って勝てる?」
「勝てます」
「へっ?」
あっさりと即答されて、ミハルが絶句する。
見ていた俺も驚いた。
「あの武器には独特の癖があります。その上結果を出すために複雑なアクションが必要です。その間に無力化すればいい。強力な武器と相対した場合にはその武器を使わせないことです」
「あ、あのさ、師匠はどんな魔法が使えるの?」
うおっ、ミハルが知らない者ならではの率直さで痛いところをえぐって来た。
しかし、聖騎士はまるでその問いを予想していたように穏やかな表情だ。
「私は魔法は使えません。魔力がないのです」
「え?」
「しかし、安心してください。私ほど、魔法や魔力持ちについて知っている者もまた少ないはずです。何しろ私は魔法を使う者たちに勝つことだけを目指して来た人間ですからね」
俺のほうから見えないが、ミハルが聖騎士の顔を正面から覗き込んでゴクリと喉を鳴らした。
少し震えているようでもある。
「クルスし、師匠! 私を騎士にしてもらえますか? や、やっぱり私は守るための騎士になりたい。でも、負けたくない! 最後に立っている者になりたいです!」
「正直ですね。わかりました。私に出来るだけのことは教えましょう」
聖騎士の答えに、ミハルの顔に初めて笑顔が浮かんだ。
「ありがとうございます!」
ちょっとした感動を味わっていると、聖騎士が俺を振り向いて微笑んだ。
いや、別にのぞき見してた訳じゃないぞ。
参考のために見学してただけだ。
正直に言うと、俺は魔力についてそれまで深く考えたことはなかったのだ。
俺にとって魔力とは力を込めたいときや、相手を観察するときに自分の思うように使うものでしかなかった。
思えば、俺が魔力を見るようになった最初がいつであるかさえわからない。
人にいつ目で見たものの判別が出来るようになった? とか、いつ臭いを嗅ぎ分けることが出来るようになったか? と、問うようなものだ。
そこで、俺は勇者パーティのそれぞれが東方の魔力持ちたちを教えている様子を見て、自分も学んでみようと思い立ったのである。
見学してみて、予想通りというか、ほとんど何の参考にもならなかったのが勇者だ。
「大聖堂で紋章を入れられると勇者の魔法が使えるようになるんだが、コレを入れるとき死ぬほど痛かった。骨を削っているのかと思ったぐらいだ。あいつら頭おかしいんだと思う。そこまでじゃないが、貴族の魔力持ち連中は十五ぐらいのときに手の甲に小さい紋章を入れるんだ。俺はそれも入れたけどな! えっと、ほら、このモンクのねーちゃんみたいなやつ」
「は? モンクのねーちゃんってなに? 紹介の仕方、おかしいよね?」
「いいだろ。子ども相手に本気になるなよ」
「違うだろ、子どもじゃなくて、あんただよ! バカ勇者! うん、前から一度言ってみたかったからすっきりしたよ」
「バ、バカとはなんだ! テスタこそ、女性らしさが足りないだろ、俺が勇者として足りないよりもそっちが問題じゃないか?」
「は? 私は十分女性らしいですけど? 誰かさんと違ってちゃんと食べられる料理を作れます!」
「ぐっ、しかし、師匠のご飯のほうが美味しいぞ!」
「ダスターさんと比べるのやめてくれる?」
何かおかしな雲行きになって来た。
周りの子どもたちがドン引きしているぞ。
あ……。
「わたくし、ちっとも料理、上達しなくって、……女性として失格ですね」
横で話を聞いていた聖女がしゅんと落ち込んでしまった。
これはあれだな流れ矢が刺さるってやつだ。
「ああっ! ち、違うんだよ。ミュリアは伸びしろがあるってことなんだよ。それに料理なら私が作ってあげるから大丈夫だよ!」
「そ、そうだぞ! 俺に比べればミュリアのは食べられるからマシじゃないか! 味が薄いのは足せばいいから全然大丈夫だって師匠も言ってたぞ。俺の作ったものは命の危険があるからって料理禁止になったし」
勇者とモンクが慌てて聖女を慰める。
どうももう魔法がどうのという雰囲気じゃないな。
どさくさに紛れて聖女が行っていたカウロに対する指導も中断してしまったし。
純真なカウロ少年が困ってるじゃないか。いい加減にしておけよ、お前ら。
俺はそっとその場を離れた。
「そう言えば、クルスはどうやって指導しているんだろう?」
騎士志望の少女であるミハルに見込まれて師匠にされてしまった聖騎士を思い浮かべる。
確かにクルスは騎士としての能力は高い。
だが、魔力を全く持っていないし、そのことで長年苦しんで来たはずだ。
魔力持ちの少女の指導をちゃんと出来るのだろうか?
クルスは武器を使った指導をするため、少し開けた場所に行っていた。
見に行ってみるか。
「ダスター、さっきの魔力の話だけど」
俺が聖騎士とミハルのところへ向かっていると、メルリルが俺を見つけて近寄って来た。
魔力の話?
「癒やしの魔法もいいけれど、直接魔力同士の反発を感じさせたほうがわかりやすいんじゃないかな?」
「それは考えたが、弱い魔法でも危険だろう?」
俺の返事にメルリルが笑う。
「そんな難しいことしなくても、ダスターなら簡単に出来ることがあるでしょ?」
「んん?」
メルリルは俺の左手を取ると、その手を自分の両手で包み込む。
そして魔力をその手のなかに集め出した。
俺の拳は、その魔力に反応して熱を帯び、まるで火がついたような熱さになる。
なるほど、接触した状態で魔力をその接触部分に集めれば、自然と相手の体がその魔力に反発するから魔力の働きを実感出来るということか。
当たり前のことすぎて盲点だったな。
難しく考え過ぎていたのかもしれない。
「なるほど。わかりやすいな。助かったよ。正直他人にものを教えるとか俺の柄じゃないしな」
「そんなことない。ダスターの行動は周りの人にとって学ぶことが多いから。自然体で多くの人を導いているんだと思うの。気負いがあって難しく考え過ぎてしまっただけじゃないかな」
「まさか、そこまでの男じゃないさ」
メルリルがあまりに持ち上げるので恥ずかしくなる。
それとずっと包まれたままの俺の左手が、こう、なにやら熱いだけじゃなくて心地よさを伝えて来た。
やわらかくてすべらかな手の感触が心臓を刺激する。
「私の愛した人だもの、あなたはあなた自身が思っているよりもずっと素晴らしい男だと信じて欲しい。なんなら私を信じればいいわ」
「お、おう」
やばい、何かヤバイ雰囲気になっているぞ。
俺は慌ててメルリルの手から自分の左手を引っこ抜くと、気持ちを落ち着かせる。
「ちょっとクルスたちを見て来る」
「うん」
微笑んで、少し首をかしげるように俺を見つめ続けるメルリルを意識しながら、俺は聖騎士たちのいるほうへと急いだ。
「クケケケ……」
頭上でフォルテがまるで笑うように鳴いた。
という、笑ってる。
くそ鳥め。
しばらく進むと、長もので風を斬る音が聞こえて来る。
お、いたいた。
「剣は単なる道具ですが、その道具たる剣を理解せずに使えば結局人は剣に振り回されるだけです。重心はどこにあるか、刃先の鋭さは? 刃の厚みはどの程度で、どの角度からなら斬れてどの角度なら斬れないか。それが理解出来ない者には結局のところ剣というものの真髄はわからないのです」
「なるほど」
「あなたは今まで剣など無縁な世界で生きて来た。そうですね?」
「い、いえ、剣術という武術はありました。私、習っていたんです」
「人が殺せる剣を握って練習していましたか?」
「……いいえ」
「私は東方の国と交流のある国で、銃と呼ばれる武器を見たことがあります。女性が強大な敵を倒すにはあれのほうが効率がいいでしょう」
「た、確かに銃は強い武器です。でも、私、銃が嫌いです。あれは人殺しのための武器です。でも騎士は違うのでしょう? 人を守るために戦うのが騎士だと聞きました」
聖騎士は小さく息を吐いた。
「確かに戦うときにどのような覚悟を持っているかは大切なことです。自分自身のモチベーションも変わって来る。ですが、殺しを目的とした相手に守りを目的とした者は勝てません」
聖騎士の言葉にミハルは息を飲んだ。
「結局のところ、殺し合いなのです。より強い者が勝つ。それが戦いの掟です。ですが、この強い者という定義は単純ではない。そこに一般的な強さとの剥離があります」
「ど、どういうことでしょう?」
「女子どもが大男に勝てるということです」
ミハルがハッとしたような顔になる。
「話は最初に戻りますが、戦いに勝つには武器という道具をより理解して、使いこなす必要があります。それは剣でも銃でも同じことです。……そして魔力も」
「魔力……」
「先程、ダスター殿がおっしゃっていましたが、魔力には自分の体に作用するものと放出するものがあります。私は今まで天性の魔力持ちと何度か相対したことがありますが、放出タイプの魔力持ちは十人中一人程度、あまり多くありません。それに放出系は当たると大きいのですが、隙もまた大きい。私がこれまで驚異に感じた魔力持ちは全て自分の体に魔力を作用させた方々でした」
「さっきダスターさんは放出の魔力なら人を投げ飛ばすことも出来るって言ってましたよね」
「ええ。ですが、武器を使う場合もそうですが、攻撃というものは自分の体から遠くなるほどコントロールが難しくなるものです。逆に言えば、遠い攻撃ほどより多くの修行を必要とするということでもあります。放出は遠い攻撃になります。その分使いこなすのは難しい」
「う、うん、なんとなく理屈はわかった」
「あなたの魔力がどの系統かわかりませんが、それに合った修行をすれば、あなたは確実に素の状態で相対した場合は私よりも強くなれるでしょう。そこに加えて武器の使い方を理解出来ればその強さは何倍にもなります」
ミハルは、聖騎士の顔を見つめて、自分の両手をぎゅっと握る。
「あのさ、師匠は銃と戦って勝てる?」
「勝てます」
「へっ?」
あっさりと即答されて、ミハルが絶句する。
見ていた俺も驚いた。
「あの武器には独特の癖があります。その上結果を出すために複雑なアクションが必要です。その間に無力化すればいい。強力な武器と相対した場合にはその武器を使わせないことです」
「あ、あのさ、師匠はどんな魔法が使えるの?」
うおっ、ミハルが知らない者ならではの率直さで痛いところをえぐって来た。
しかし、聖騎士はまるでその問いを予想していたように穏やかな表情だ。
「私は魔法は使えません。魔力がないのです」
「え?」
「しかし、安心してください。私ほど、魔法や魔力持ちについて知っている者もまた少ないはずです。何しろ私は魔法を使う者たちに勝つことだけを目指して来た人間ですからね」
俺のほうから見えないが、ミハルが聖騎士の顔を正面から覗き込んでゴクリと喉を鳴らした。
少し震えているようでもある。
「クルスし、師匠! 私を騎士にしてもらえますか? や、やっぱり私は守るための騎士になりたい。でも、負けたくない! 最後に立っている者になりたいです!」
「正直ですね。わかりました。私に出来るだけのことは教えましょう」
聖騎士の答えに、ミハルの顔に初めて笑顔が浮かんだ。
「ありがとうございます!」
ちょっとした感動を味わっていると、聖騎士が俺を振り向いて微笑んだ。
いや、別にのぞき見してた訳じゃないぞ。
参考のために見学してただけだ。
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