勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

395 海王:記念公園

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 列車から下りた途端、子どもたちのなかの何人かが体調を崩した。
 聖女が回復をかけるものの、あまり効果がないようだ。

「きっと精神的な負担のせいだと思います。精神を高揚させる魔法もあるのですが、あまり使うとバランスが崩れるので、危機的状況でなければ自然回復を待ったほうがいいと思います」

 との聖女の見立てだった。
 まぁ小さい子もいるのにここまであんまり泣き言も言わずにがんばって来たんだからそうとう無理して来たんだろう。
 とは言え、ゆっくりと休ませるには路銀が足りなかった。

「おいウルス。子どもたちだけでもゆっくり出来る場所はないか?」

 国境を越えてからというもの鼻歌混じりの予知者をどつきながら尋ねる。

「おい、お前自分が他人よりも力が強いこと忘れてないか? いてえだろうが!」
「いいから、街の案内は後にしてゆっくり出来る場所を探してくれ」

 言われて初めて気づいたようにウルスは子どもたちの消沈した顔を見た。
 すると少し頭も冷えたようで、考えを巡らせるように宙を睨んだ。

「今日は天気もいいし、公園で一旦休むか。あそこなら金もいらねえしな」
「わかった。案内しろ」

 ウルスの案内で、俺たちは公園という場所を訪れることとなった。
 なんでも安全に自然の雰囲気を楽しめる場所なのだそうだ。

「そうだなわかりやすく言うと、金持ちの庭を一般向けに開放した感じか」
「なるほど」

 今まで見て来た庭のうちにぶっちぎりで豪華だったのは大聖堂にあった庭だ。
 水の流れから四阿のたたずまい、咲いている華の一つまで、人間によってコントロールされた美しさがあった。
 ああいう場所が誰でも楽しめるのはいいことだ。

「しっかし、驚くほど人が多いな。あと、蒸気機関の車? 俺が知っているものとだいぶ形が違う」
「ああ、うちの国では自動馬車って呼んでいるぞ。形や色が個性的なのは、見栄っ張りが多いからだな」

 帝国と違って家の形もそれぞれ個性的だ。
 なかにはものすごい色で塗られた家もある。
 車が走る道と人が歩く道を低い壁を使って明確に分けているのはいいな。
 帝国のときに車が突っ込んで来たのを思い出してそう考えた。
 こういうことを考えると、まるでその考えが呼び水であったかのように、アクシデントが起こるものだ。

「うおっ!」
「きゃあっ!」

 子どもたちを真ん中にして人の通る側の道をぞろぞろと歩いていると、俺たちの真横で自動馬車同士がぶつかったのである。
 小さな子がびっくりして泣き出してしまった。

「大丈夫だ。安心しろ。ああいうのはしょっちゅうなんだ。道を譲るのが嫌いな連中ばっかりなんで」

 外に大きく張り出している車輪同士が絡まったのか、どちらの車も片側に傾いた状態で停まり、操縦者が降りて来るや怒鳴り合いを始めた。
 どうも心の安らぎがない街だな。
 子どもたちの怯えが酷くなったぞ。

「ここだ!」

 ウルスの言う公園とやらは、駅からそれほど遠い場所ではなかった。
 立派なレンガの塀と金属で出来た門があり、入り口では細長い剣を腰に下げた守衛らしき姿がある。

「本当に無料なの?」
「ああ、安心しろ」

 モンクが疑わしそうにウルスに尋ねる。
 モンクはこのウルスという男がずっと気に入らないようで、聖女を近づけないようにかなり警戒をしていた。
 気持ちはわからなくもない。
 なんとなく胡散臭いんだよな、こいつ。

 ウルスは守衛の二人ににこやかに挨拶をすると門を潜った。
 俺たちもそれぞれ軽く会釈をしながら通る。
 守衛の二人は、女性と子どもたちを見ると少し微笑む。

「美しい場所ですよ。ゆっくり楽しんでください」

 一人がそんなふうに教えてくれる。
 案外と気さくなようだ。

「彼らはあまり鍛錬をしていませんね。腰に下げている剣をちゃんと使えるかどうかも怪しい限りです」
「それだけ安全なんだろう」

 聖騎士が守衛の剣の腕に不安を感じたのか懸念を告げたが、俺はそれは逆に安心要素のように感じてそう答える。
 危険な場所にへっぽこを配置するはずがないからな。

「わぁ!」
「きれい」

 守衛の言った通り、その公園とやらはとても美しかった。
 大きな花を付けるつる草を上手に使って長いゲートを造ってあり、そこを抜けるとところどころにベンチが設置してある水路のある庭に出る。
 水路には小舟が浮かんでいて、料金を取って人も乗せているようだ。

 奥のほうには柱と屋根だけの吹き抜けの大部屋のような場所があり、階段状に座れるようになっていた。
 一番奥の部分には舞台があり、いわゆる劇場のような造りだ。

「あの劇場のようなところには勝手に座っていいのか?」
「もちろんだ。ときどきあそこで歌を披露したり、踊りや芝居なんかもやっていることがあるぞ」

 ウルスに尋ねるとそう答えが返って来たので、とりあえずそこに全員を座らせることにした。
 キメラにされていた双子、五歳のアカネとサギリはずっと泣きも笑いもしていない。
 辛いとか苦しいとか言わないので外からはわからないが、顔色が白いし、あまり元気がないようだ。
 後は共に八歳の北冠出身のエイエイとイチカがここのところずっと癇癪を起こしていたが、今日はぐったりとしていて食事を受け付けない。
 北冠組は年長のヌマシダもあまり顔色がよくないしな。
 小さな子たちのなかで元気なのはヒシニアぐらいだが、明らかに空元気なのがなぁ。

 とは言え、子どもたちもこのきれいな場所には興味を惹かれたようで、列車を降りた直後よりは顔色もよかった。

「ピャ!」

 フォルテが何やら声を上げて飛んでいくと、低空をゆっくりと戻って来る。

「どうした?」
「クルル……」

 すると、メルリルが「あ……」と、足元を見た。

「きゃっ!」
「え? なに!」

 いきなり子どもたちが騒がしくなる。

「どうした?」
「野リス……かな? 私の知っている種類より毛皮が赤味が強いけど」

 そうメルリルが教えてくれた。
 見れば、子どもたちの足元にリスがちょろちょろ走り回っているようだった。
 大丈夫か? 噛んだりしないだろうな?

「ここの公園の人気ものさ。人慣れしているんだ」

 ウルスがそう言って、懐に入れていたらしいパンのカケラを手にしてリスを呼ぶ。
 すると、そのリスはたちまち寄って来てパンのカケラを取って食べた。

 なるほど、警戒心のない獣だな。
 人慣れしているのか。

「かわいい!」

 子どもたちの表情が明るくなる。
 フォルテのやつ、自分が子どもたちの機嫌取りに使われないように、身代わりを見つけて来たんだな。
 まぁいい。それで気持ちが落ち着くなら悪くはないしな。

「師匠。木の実かなんかないか?」
「お前が率先して楽しんでどうするんだ?」

 勇者がリスに与える餌がないかと尋ねて来た。

「残念ながら余分な食べ物はない。噛まれたり引っかかれたりしないように触らないで眺めるんだぞ。触りたくなったらフォルテで遊べ」

 勇者だけじゃなく、子どもたち全員にそう言っておく。
 だいたいの獣の歯や爪には毒があるからな。

「ピャッ!」

 約束が違うってなんだ? 俺がお前となんか約束したか?

「じゃあ、ここでゆっくり待っていてくれよ。俺は信頼出来る相手に連絡を取って来る。そうすれば金や宿泊場所も用意出来るからな」

 鼻歌を歌いながらウルスが立ち上がった。
 ここはこの男を信頼するしかない。
 研究所では一人で逃げた奴なんで、あんまり信用したくないんだけどな。

「わかった。ところでここは夜も開放されているのか?」
「ああ、大丈夫だ。だが、そんなに待たせたりしないぞ」
「まぁ期待しておくよ」

 最悪ここで野宿か。
 不安には思うが、大人の責任としてどっしりと構えていないとな。
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