勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

482 カ・ミラス神国へ

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 見送りはいらないと言っておいたので、俺たちはあっさりと騒ぎにならずに大聖堂を出立することが出来た。
 山越えをするので、今回は勇者たちの愛馬は大聖堂預かりだ。
 苦労の多い旅を何度も共にして来た馬たちだ、のんびりするといいだろう。
 その代わり、山岳馬リャマと呼ばれる荷運び用の使役獣を購入した。
 山岳馬リャマは羊と馬の中間のような見た目で、大人しくて山岳地帯に強い。
 水もあまり飲まず、その辺の草を食べて生きていけるタフな使役獣だ。
 重い武具やテントなどもあり、三頭手に入れた。
 なんでも姉弟とのことだ。

「大事な荷物はあねっこのリンに乗っけるといいよ。弟たちは癇癪持ちだがあねっこに逆らえないから一緒にしておくとおとなしい」

 癇癪持ちというところに引っかかったが、せいぜい噛み癖が出るぐらいだということで、まとめ買いした。
 名前は白毛の姉がリン、黒白の弟がトン、茶色の弟がシャンだと教わる。

「そう言えば馬たちにも名前があったのか?」
「いや、俺はつけてない。騎士は愛馬に名付けるということだからクルスは名付けていたかもな」
「ほう」

 知らなかったな。
 今度機会があれば聞いてみるか。
 
「見た目はふわっふわの毛並みなのに以外とゴワゴワしてます」

 山岳馬リャマに興味津々の聖女がリンの首をなでながら言った。

「体毛が濃い生き物は冬毛と夏毛がはっきりと変わるの。この山岳馬リャマたちはきっとまだ冬毛なんじゃないかな?」

 メルリルがそう説明して、長い毛の下にある短い毛を見せてやっている。
 リンはそんな人間のやることを我関せずといった感じで放置して、黙々と歩いていた。
 忍耐力があるのか、単にのんびり屋なのかわからないが、確かにリンはほとんど指示がいらない手間のかからなさだ。
 トンとシャンはときどき立ち止まって道に生えている草を食おうとしていたが、軽く叩いて声をかけてやればそれほど面倒なくちゃんと歩いてくれる。

 いつもながら面倒な大聖堂の結界代わりの砂嵐の荒野を越えて、フォルテに度々飛んでもらいつつ方向を確認して南下した。
 フォルテがいないときには影の方向や夜の星の位置でおおまかに行く先を確認していたので、随分楽をさせてもらっている。
 迷わないということはそれだけ消耗が少ないということだ。
 フォルテの存在は冒険者にとってどんな宝よりも貴重だろう。
 まぁ本人に言うと増長するから言わないがな。

 二日ほどの野宿を経て、大地に緑が増え始める。
 まるで線を引いたようなくっきり具合に、大聖堂の作為を感じるが、まぁあの砂嵐の荒野が大聖堂の外側の結界であることはほぼ周知の事実なので今更だろう。

 緑の大地をしばらく進むと、人の手で作られた柵が見え始める。
 その柵の向こうにもこもこした雲のような羊の集団がいた。
 羊は暖かくなると毛刈りを行うので、もうすぐ暖かくなる今が一番もこもこしている。
 首には迷子防止用の鈴をつけていて、歩くたびにチリチリと音を立てていた。

「かわいい!」

 女性陣に大人気である。
 羊は羊でものめずらしいのか、集団でこっちに寄って来る。

「メエ、メエ」
「クルルルルル!」

 なぜか興奮したフォルテがその頭上を飛び始めた。

「なんだ、どうした?」
「うまそう!」

 最近全くしゃべらなかったのに、どうでもいいことをいきなり発言する。

「これは人が飼っているものだぞ。手を出したら弁償だ。半年は酒も飯も抜きだからな」
「ピャッ!」

 フォルテは慌てたようにまた俺の頭の上に戻った。
 そして寝たふりをする。
 仕方のない奴だ。

 やがて、牧場の片隅にある木立から男が一人立ち上がって近づいて来た。
 足下には二匹の犬がいる。
 小柄だが、はしっこそうな黒い犬だ。

「やあ、こんにちは! 旅人さんかね?」
「こんにちは。はい。大聖堂からの戻りで、こちらに立ち寄らせていただきました」
「おお、大聖堂から。……神の御心に我らが適いますように」
「神のしもべに幸いあれ」

 カ・ミラス神国での挨拶の決り文句だ。
 別に言わなくてもどうこう言われたりしないが、言ったほうがお互いに気分がいいというぐらいの挨拶だな。

「一夜の宿をお探しなら納屋でよければお貸しするが」
「いや、もう少し先へ進みたい。山越えのルートへはどう行けばいいかな?」
「山越えか、まだ少し早いが、雪崩の危険はだいぶなくなったから悪くはないな。それならここからほれ、あの大きな木が見えるだろ」
「ああ」
「あの木を左に見ながら通る道を行くといい。しばらく行くと北方農園の村があるから宿はそこでとるのがおすすめだ」
「ありがとう、助かった」
「ええんよ。神の御心のまま、旅人もまた幸いなりだからな」

 羊番らしい男に頭を下げて、言われた方向に進む。
 やがて人の手が入っていることがわかる道が現れた。

「立派な樹!」

 メルリルが目印の木を見上げて感嘆の声を上げる。

「ここらへんの木は独特だよな。あまり曲がりくねらないでまっすぐ育つ。北方の木は建材に向いていると言われるゆえんだな」
「そうなのか」

 勇者たちも巨大な木を見上げる。
 巨木の広げた枝には若葉が茂り、春の日差しを遮って自らをキラキラと光らせているようだ。
 この木を境に道が分かれていて、俺たちは木を左に見ながら右の道を進む。
 やがて木立が増えて、森というほどではないが、まばらに木が茂る林のなかを通る道に出た。
 徐々に道幅が広くなり、通りがかる人も増える。
 もっさりとした毛に覆われた牛が引く荷車がのんびりと通り過ぎ、荷台に乗った子どもたちが手を振った。

「のどかな国。あの、気になったのだけど、ここには国境はないの?」
「ああ、この国には国境と言えるようなものはない。誰でも入れるし、誰でも出ていけるそういう国なんだ」

 尋ねたメルリルは俺の答えに納得して周囲を見回した。
 カ・ミラス神国は一見のんびりした国だが、決してそれだけではない。
 とは言え、ほかの国々に比べると、暮らしやすい場所かもしれないな。
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